選挙で関係者に話を聞いてても、だいたい予想どおりのコメントなので、もう少し幅広く意見を聞いてみたくなる。そこで夜の街に繰り出すのだが(単なる言い訳)、結構偏っているので、一箇所では参考程度にしかならない。それで私は池田市長選の予想を外した。だから自分の直感が一番なのだが、今回も宿泊先の新さっぽろ駅周辺(札幌市厚別区)に出てみた。
後から知ったのだが、駅の反対側に出たほうがいろんな店があった。しかし、JR新札幌駅から出てそのまま直進したところにある飲食街(と言っても10軒程度)に行くことにした。新札幌と新さっぽろという2つの記述がありややこしいが、前者はJRの駅名、後者は地下鉄の駅名となり、ほぼ同じ場所にある。
写真:「新札幌駅名店街」にある昭和レトロな居酒屋「たまき」スナック「クリスタル」と「凛」
まずは腹ごしらえをしなければならない。なにせ、北海道に来てから何も食べていなかったのだ。
そこで選んだのが居酒屋「たまき」。寡黙なご主人と「優しいお母さん」という感じの奥さんで経営している家庭的な居酒屋だ。北海道的なものと思ってメニューを見たが、「ほっけ」と「鳥ザンギ」という名前しか見当たらなかったのでそれを頼んだ。来てから「失敗した」と思った。ホッケは巨大で、鳥ザンギは普通の鳥からで、デカイのが6個もあったのだ。ひとりでは食べきれないのではないか。テレビでは日本ハムの試合を中継していて、大谷翔平選手の打者としての活躍により勝利して沸き立っていた。
小心者の私は覚悟を決めて声をかけた。
「あのお、今、選挙やってますよね」
女将さんは一瞬びっくりした様子で
「はい。うちも応援してます」
と言った。
そこですかさず
「実は、この選挙を取材していまして、今日、東京から来て一日まわったんですよ」
と言った瞬間に、ほんの少しピリッと空気が張り詰めた感じがした。
それからは、どちらを応援しているのか聞いても、故町村衆議院議員について聞いても、優等生的なコメントだけが返ってきて、それは日ハム勝利の声援にかき消されていった。
写真:たまきのご主人と女将さん そして巨大なホッケ
料理は美味しかったし、雰囲気は楽しめたが、「これじゃまだ記事に書けんなあ」と思った私は、少し気になったスナック「クリスタル」に入ってみた。
自分の名誉のために言っておくが、私は基本的にスナックとかキャバクラというものには行かない。麗しい女性が隣に座って(向かいのこともあるが)話し相手になってくれるわけだが、私はその女性を楽しませなければならないと思って余計にしゃべり、結果として疲れてしまうからだ。相手の分まで払って、自分が疲れてしまってはたまらない。
店内はママさん以外誰もいなかった。ちょっとぎこちない空気が流れたあと、いくよ・くるよのいくよのような雰囲気のママさんが、丁寧に料金説明をしたあとにこう言った。
「こちらは初めてですか?」
私はすかさず
「選挙の取材で来たんですが、関心ありますか?」
と聞いた。ママはすぐに
「ありますよお。うちは自民党ですから」
と答えた。
故町村信孝議員の関係者がたまに訪れていて、本人にも会ったことがあるという。理由は特に無いが、以前から自民党支持だということだった。すでに期日前投票も済ませた。候補者の和田氏については特に知っていることは無いが、「自民党」「町村」は揺るがないので、自然と投票先も決まっているのだった。
写真:「クリスタル」のママ 故町村信孝議員に会ったこともあるという
焼酎お湯割り2杯で店を出た私は、その前にちょっと気になっていたスナック「凛」の前を2回ほど往復したあと、思い切って入ってみた。店内にはママさん風の女性がひとりだけだったが、奥から二人出てきて、そのうちの若い女性が私の前に座った。
とりあえず、ウィスキーの水割りを頼み、ダメ元で「今選挙やっていますよね」と振ってみたところ、彼女が意外なことを口走った。
「ええ。私は池田真紀さんです」
ええ!意外といえば意外。そうじゃ無いといえばそうじゃない。思わず私は
「関心あります?」
と聞いてしまった。「水商売に務める若い女性は政治に興味はない」というけしからん思い込みだった。職業差別、女性差別も甚だしい。いくら酔っているとはいえ、そりゃいかん。
「どのようなところが良いんですか?」と聞いたら
「だって、戦争はやってほしくないから」
とのことだった。
なんと単純明快。さらに
「だって、安倍さんダメじゃないですか。全然生活も良くならないし、今から自分の老後のことを考えると暗くなります」と。
あまりに生活感、市民目線でのコメントに思わず
「結婚してるの?」と聞いた。すると
「いや、独身です」と答えたので、
「じゃあ、子どもとかいるの?」とあまりにプライベートな質問をしてしまった。本当に失礼な客である。
本当かどうかわからないけれど、そのまま受け取ると、彼女は独身、江別出身で今後も江別を離れたくはないという。さらに昼はヘルパーの仕事をしているという。
彼女(りえちゃんというらしい)の言い分はこうだった。「私は江別出身で、このまま江別を出たくないと思っている。だから日本が戦争してもらっては困るし、自分がこの先生活していかれるだけの保証も欲しい。給料も上がって欲しい」
まずは生活の安定と地元の繁栄。それから安全と平和。そして社会保障で、最後に経済。
有識者がそれを聞いたら、「いやその順番じゃダメ。まずは経済と国防で、金持ちを作ってトリクルダウンが起こるようにする。そして国防力を強化し、攻めこまれない強い日本を作る。次に社会保障」というのだろう。しかし、彼女の意見が実は国民を代表する意見ではないだろうか。
「ちゃんと本質突いているね。スゴいよ。びっくりした」と言ったら
「やったあ」と無邪気な笑顔になり、写真にも収まってくれた。
私はやたらと機嫌が良くなり、つい濃い目のウイスキー水割りを3杯飲んでしまった。仕事は肝臓が強くないとできないものである。
写真:スナック「凛」のりえちゃん 考え方が明快で驚いた
翌日、21日の夜。
「凛」のりえちゃんに教えてもらった「魚鮮」を探して行ったところ、これが正解だった。
ボタンエビはピクピクと跳ね続け、ヒラメは身が締まっていて、帆立は潮の香りが濃厚。ビールだけで済ませるつもりが、つい日本酒「鬼ごろし」を頼んでしまった。
ウニいくら丼を食べずに帰るわけには行かなかったので、翌日、札幌の市民ネットワーク北海道におじゃまし、みなさんとランチをすることになったときに、すかさずウニいくら丼を頼んだ。
写真:北海道に来たらウニいくら丼は食べたい!
やっぱり旨い!ウニは甘く瑞々しい。イクラはプチプチと口の中で弾け、じゅわっと広がる。味噌汁に入れたとろろ昆布からは磯の香りが漂ってくる。
まる二日間の取材旅行で、知らない土地を車で駆けずり回るのは精神的にも肉体的にもヘトヘトになるが、これで一気に心身ともに癒やされた。いきなり饒舌になった自分が不思議でもあった。
まだまだ選挙関連で見ていない部分もあるが、メディア報道だけではわからないことも、現場の空気を感じることによって理解できる気がする。あと2日半の選挙期間で何かが動くのか、すでに大勢は決しているのか。全国注目の衆院北海道5区補選は24日投開票となる。
≫【現地レポート】激闘!北海道5区補選は異種格闘技(前編)
≫【現地レポート】激闘!北海道5区補選は異種格闘技(後編)
≫【現地レポート】激闘!北海道5区補選(番外編)夜の情勢調査
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