大の飛行機嫌いの私が、一番落ち着けたフライトだったかもしれない。ほとんど揺れることはなく、30分以上熟睡できた。しかし、新千歳空港の空はどんよりしていて、たまに雨がパラパラと地面を濡らしていた。この飛行場のある千歳市も今回の戦場だ。
写真:新千歳空港はどんよりした曇り空
新さっぽろ駅(札幌市厚別区)に移動し、レンタカーを借りて移動を始めたところ、すぐに和田義明氏(自民公認)の事務所があったので、とりあえず入ってみた。事務所内はスタンダードな選挙事務所といったところで、特段珍しい物は無かった。雰囲気も、物々しいというよりは淡々とした感じ。
写真:和田よしあき事務所
事務所ではメディア担当の西嶋氏が情勢を説明してくれた。「実際は和田さんがリードしているということも聞きましたが」と振ってみたが、報道どおり横一線の戦いであって、それは相手陣営も同じ認識だろうということだった。弔い合戦ということも、もちろんアピールしていくが、当然、候補者自身の良さも伝えていかなければならない、ということを話していたところで、森まさこ参議院議員が事務所に入ってきた。
支持者の女性たちの前で、少子化問題について語った後、ビデオカメラで応援メッセージを撮影していた。
写真:支持者の前で話す森まさこ参議院議員
和田事務所を後にして、とりあえずスケジュールを確認したところ、和田氏は石狩方面に行っていて、厚別区からは車で40分〜1時間ぐらいかかる。池田真紀氏はちょうど厚別区を回るということだったので、今日は池田氏を中心に追っかけることにした。
池田氏は無所属の野党統一候補のため、おそらく一箇所では雰囲気は掴めないと思い、複数箇所回ることにした。
最初は札幌学院大学の門前。今度の参院選から18歳選挙権実施され、すべての大学生が投票できるようになる。今回の補選で投票できるのは20歳以上なのだが、若者にアピールするのは良いことだ。
ところが、北海道新聞の記者たちが、ザワザワしている。
「どうもマイクで演説できないらしいよ」
「もう30分早ければ良かったのに、授業に入っちゃったから音出せないんだってさ」
とのことで、結局池田氏が到着しても本人の演説はなかった。代わりに東京から来たという支援者が、メッセージを(何故かこちらはマイクで)伝えていた。緊張している面持ちだったが、演説自体は非常にしっかりしたもので、いろんなところでマイクを持ったアピールを行ってきたんだろうと思わせるものだった。
写真:イケマキ登場!
写真:札幌学院大学前で東京から来た支援者のメッセージ
気を取り直して、次のルミネ平岡店に向かった。店の前の道路を挟む形で、50人ほどの支援者たちが並んでいた。代表者がマイクを持って「憲法守る、池田真紀!」というようにアピールを行い、他の人達が同じことを言うという、よく抗議行動のデモなどで見られるものだったが、私は唖然とした。
ほとんど年配の方たちだったことは良いのだが、「戦争法廃止」の大きな看板を立てて、なんと童謡の替え歌をみんなで歌い始めたのだ。勝手にアコーディオンを弾き出すお爺さんもいる。典型的な「悪い市民運動」型の選挙になっているのではないか。いきなり拍子抜けしてしまった。さらに、通行人が何人も通っているのに、誰も見向きもせず、アピールに夢中になっている。HBC(北海道放送)の岩下恵子記者が現地レポートを撮っていたが、どう伝えるか苦心したのではないか。
写真:「戦争法廃止」のプラカードが異様に目立つ
写真:レポートを撮っている北海道放送
そうこうしているうちに、池田真紀氏が到着して演説を始めた。年金、雇用そして貧困に関する思いを込めた演説は迫力があり、連日の激しい選挙戦で枯れかけてきている声もリアルに響くものだったが、一人の支持者が50センチほどの場所に近づいてバシャバシャ写真を撮っているなど、見苦しい光景もあった。池田氏の演説が終わると、「聴衆」はさっさと引き上げていった。結局一枚もチラシは撒かれなかった。
写真:街頭演説する池田真紀候補のすぐ近くで写真を撮っている支持者
次の演説場所に向かう前に、池田まき事務所に寄ってみた。対応してくれたのは民進党の田中氏だった。事務所内は、ところどころに模造紙にカラフルな付箋が張られた寄せ書きが貼られていて、明るくイキイキした雰囲気だった。
写真:池田まき事務所
「野党統一候補ということでやりにくいことはないか」という質問には「それは全く無い。民進党も共産党もそれぞれができることを目一杯やっている」と。
濃いピンクのプラカードを立てている人たちのことを聞いてみたら、「勝手連なので、事務局としては特に振り分けたり何かを指示しているということはない」とのことだった。
「勝手連」というのは、現在民進党の横路孝弘衆議院議員が北海道知事だったころに、知事選で生まれた市民による自発的な応援組織のことだ。田中康夫知事を生んだ2000年の長野県知事選でも勝手連が大活躍した。私はインターネット活用の場面で選挙には参加したが、長野の勝手連の中では、極力「市民運動臭さを無くそう」という暗黙の了解があった。日ごろ、どこかの団体に所属していても、それを言わないようにしようということだ。つまり、参加しているのはあくまで「普通の市民」であり、「**を**する会」の運動ではないということだ。ある立会演説会で参加者が、「みんなで『信濃の国(県歌)』を歌おう」と言い出してみんなで歌い始めたが、その間田中氏は会場に入らなかった。これは、その危険性を田中氏は感じ取っていたからだ。私は会場の外で田中氏を見ていて、「この人の感性は本物だ」と感じた。
さらに「池田氏の演説内容が、原発関連の労組や民主党政権時の消費増税推進の意向などに左右されることがあるのではないか」という質問を投げかけてみたところ、「それはない。確かに今までは安保反対、社会保障、貧困問題の3点だけをアピールしてきたが、今は場所によってTPPや消費増税の話もするように変えた」ということだった。
話題になった(「選挙での候補者PVは新しい時代に入った」)池田氏のPV(プロモーションビデオ)は、業者ではなく元衆議院議員が作成し、他のビデオも出し方を含めて監修しているということだった。私はピンときて「Tさんですか?」と聞いたところ、そうだった。長さやタグ付けまで細かく指示しているという。
池田まき事務所に来る途中に見かけた、マックスバリューの前でピンクのプラカードを持っていた20人ほどの人たちが気になり、事務所を出てから行ってみた。すでに終わっていたが、二人だけ残っていたので話を聞くことができた。
写真:マックスバリュー前で無言でアピールし続ける市民
写真:毎月19日にここに立っているという
なんと、昨年の9月19日に安全保障関連法が通ってから、毎月19日にこの場所で訴えているのだという。この日もかなり寒かったが、真冬でも毎月立ってアピールしているのは、かなりキツかったに違いない。話を聞きながら胸が熱くなってくるのを感じた。先ほど私が見たのは、こうした思いを持った人たちの姿だったのだ。それにしても、あの街頭演説は残念でならない。
次の街頭演説はマックスバリュー厚別東店前で行われたが、20人ほどの支援者は淡々として聞き入っていた。場所によってかなり雰囲気が異なっているのが池田氏の特徴なのかもしれない。
一日の最後は厚別の区民センターで行われる立会演説会だった。ところがここで事件が起きた。
使用許可を申し込んでいた札幌市議会議員の手続きミスにより、池田氏が会場に入って演説することができなくなったのだ。
写真:池田候補が入れない立会演説会場で応援演説を行う横路孝弘衆議院議員
写真:「アベ政治を許さない」カードをつけている来場者
会場には市民が200人ほど集まっていただろうか。応援弁氏の横路孝弘衆議院議員のスピーチは会場内で聞くことができたが、その後集まった人たちは区民センターの外に出て、そこで池田氏の演説を聞くという事態になったのだ。外気温は4度だった。
2000年の長野県知事選のときは、田中康夫候補が妨害を受けて会場を使わせてもらえず、会場外の駐車場で肉声による演説会が行われたことがあった。このときは「なにくそ!」という感情が市民の中に沸き起こったと聞いたが、今回は単なる手続きの間違いによるものだったので、集まった人たちは何か釈然としない思いが残ったかもしれない。
しかし、イレギュラーな場所で行われる状況は、オーディエンスの感情を高まらせる効果もある。今回は奇しくもそのような効果があったかもしれない。
写真:会場の外、気温4度の中での演説
選挙ドットコムのはるさんによる情勢分析だと、この厚別区がポイントになるとしていて、実際に演説を聞いていると、確かに厚別区が最重点地域になっているということだった。
和田氏の事務所が厚別区にあることからも、ここが故町村氏の地盤だったことが伺える。新さっぽろ駅は1982年に開業し、都市再開発区域となっていたことからもリベラルな空気を持った場所にも思えるのだが、ここに事務所を抱えた和田陣営は、今回の選挙の要所を抑えたと言えるのではないか。
写真:新さっぽろ駅近くの大きなホテルの入口には、和田候補の立会演説会の垂れ幕がかけられていた
夜は新さっぽろ駅のビル内にある居酒屋やスナック3軒に行ったところ、見事に「中立」「自民党支持」「池田真紀支持」に分かれた。明日は和田氏の演説を見に行く予定にしているが、この居酒屋編の詳細も含めて次に続く。
≫【現地レポート】激闘!北海道5区補選は異種格闘技(前編)
≫【現地レポート】激闘!北海道5区補選は異種格闘技(後編)
≫【現地レポート】激闘!北海道5区補選(番外編)夜の情勢調査
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