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「清き一票」なんて存在しない!?スパイに裏切り、なんでもありの選挙小説「当確師」書評



若林良
若林良

「清き一票」なんて存在しない!?スパイに裏切り、なんでもありの選挙小説「当確師」書評

 

「選挙コンサルタント」という職業は、近年広く浸透するようになったようだ。

選挙というゲームにおいては、いかに正義を標榜しようと、いかに理想的な政策を提示しようと、なんの実績もコネもない素人が勝てるものではないし、はたまた、いかに人脈やカネがあったとしても、それが結果につながるとも限らない。

立候補する戦局の特性と有権者の傾向を把握した上で、確実に表を積み上げる『軍師』が必要なのだ

――その“軍師”のなかでも当選率99%という圧倒的な実績を誇るのが、本作の主人公・聖達磨である。

今回聖が依頼を受けたのは、

「日本で一番住みたい都市」アンケートで四年連続一位となり、大災害時に備えた「首都機能補完都市」に指定された政令指定都市・高天市長選挙。

現職の鏑木次郎の三選を阻止するため、彼はある人物を候補に擁立する。その人物とは、市民相談のNPO「MUTEKI」の代表であり、社会活動家の黒松幸子。しかし彼女は一歳の時に聴力を失ったため手話通訳なしでのコミュニケーションをとれないというハンディキャップが存在する。当初のアンケートにおいても、「高天市長に相応しい人物」で黒松が9%に対し、鏑木は78%という圧倒的な差があった。素人目に見ても、とても勝負になるとは思えない。

しかし聖は、「勝てる」という確信を持ち、勝負に出る――

選挙において「清き一票を」という言葉が使われることは多いが、実際はとてもそんなきれいごとではない。
本作においても、二重スパイ、親族の裏切り、敵側への盗聴など、人間の欲望がむき出しにされたような、泥沼の戦いが繰り広げられる。また主人公の聖にしても、名前とはうらはらの「聖人」とは程遠い人物で、選挙に勝つためには手段を選ばず、横柄な態度で過激な言動も目立つ。ヒーローというよりも、たとえば政治版『ブラック・ジャック』といった、孤高のアウトローを連想した方が早いかもしれない。

そして、聖が重視するのは「組織票」である。たとえば鏑木の場合、与党民自党の支持層が約16万、リベラル党が12万、さらには議会の与党会派3党を合わせた約33万票がすでに支持として固まっている。残りが50万票と予想されるなかで、7万票をとれば当選は確実。つまりほとんど楽勝の部類に入る選挙の中で、聖は上記の組織票をどう切り崩し、黒松陣営に引き込むかを熟考する。

そこにはもはや「ひとりひとりの票」といった、個を重視する姿勢は見られない。「あなたの一票が政治を変える」とはこれも選挙の際によく見受けられるスローガンであるが、むしろ「あなたの一票を切り捨てる」のが選挙なのだと、読み進めるうちに改めて認識させられる。

当確師レビュー

本筋からは少し外れるが、実際に昨年一大ムーブメントとなった、「安保法制」への反対運動についての言及が印象的だ。「結局何も変えられなかった」という若者の発言に対して、「当たり前。彼らは目的達成のために必要な手続きが何かを知らなかったから」と聖は答える。

しかしながら、聖は現代の政治に悲観的なだけではない。上記の発言に続けて、若者や弱者から自由を奪い、安っぽい生活と安心を投げ与える現市政を否定し、「僕らの生活は、僕らで選ぶ!」を掲げることで新たな道は確かに開ける、とも述べる。

これは現代に向ける、特に若い有権者に向けての強いメッセージとも読み取れる。それを際立たせるのが、市長候補となる黒松の存在だ。

彼女は聾唖というギャップがありながらも、頭の回転が速くウィットに富んだ“会話”が印象的な、非常に魅力的な人物として描かれている。同時に、女性であり、また障害者という「社会的弱者」である彼女がどのように勝利をおさめるか、そのリアルなアプローチが描かれることで、けっして強い立場ではない私たちも、「何かができるかも」と改めて考えさせられる。

全体としてはやや人物の綿密な描写に欠け、また駆け足の感もあるため「逆境を乗り越えた」ことへのカタルシスが薄まったという恨みはあるが、「選挙」というゲームの知られざる側面を知り、私たちの「政治参加」へのきっかけを考える上では、本作は一読して損のない作品だ。
若林良

若林良

1990年神奈川県生まれ。映画批評・現代日本文学批評。 ドキュメンタリーマガジン「neoneo」編集委員。雑誌『週刊朝日』『NOBODY』『映画芸術』、映画サイト『IndieTokyo』(http://indietokyo.com/)などに執筆。専門は太平洋戦争を題材とした日本映画、またジャンルを問わず「社会派」作品全般。

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