さとう しゅういち ブログ
イオン爆発事故 災害時に従業員を“戻らせる構造”を放置してはならない
2026/8/5
災害時に従業員を“戻らせる構造”を放置してはならない
イオンモール熊本の爆発事故は、単なる災害ではない。
そこには、企業が従業員の命を守るために当然備えておくべき「安全文化」が、複数の層で崩れていた構造が見える。亡くなった従業員の一部は、テナント幹部の「売上金を金庫に戻してほしい」という指示で店に戻った。
さらにオンワード樫山は、「従業員が貴重品を取りに戻った」と発表した。
この二つの行動が同時に存在したという事実を前提にすれば、今回の事故は“戻らざるを得ない理由が複数化した災害”として理解すべきだ。
災害時の避難行動の原則は「手ぶらで逃げろ」である。
しかし小売・飲食の現場では、平時の店舗運営を理由にスマホや財布をバックヤードに置かせる慣行が根強い。
盗難防止や接客中のスマホ使用防止といった理由は理解できるが、災害時にはこれが命を奪う構造に変わる。
貴重品がバックヤードにある限り、従業員は「戻らなければならない理由」を常に持つ。
そこに売上金管理の文化が重なれば、戻る行動は二重化し、避難行動は破綻する。企業には従業員の生命・身体を守る「安全配慮義務」がある。
これは労働契約法に明記された基本原則だ。
災害時に従業員を危険区域へ戻らせないことは、その義務の最も根本的な部分である。
売上金を優先する指示はもちろん、貴重品携帯禁止という制度そのものが、災害時に危険を誘発する構造を内包していた可能性が高い。今回の事故は、個人の判断ミスではなく、企業文化・制度・指示系統が複合して従業員を戻らせた“組織的な問題”として捉えるべきだ。
災害はいつでも起こる。
その時、従業員が「戻らなくていい」仕組みを持っているかどうかが、命を守る最後の分岐点になる。企業は平時の慣行を見直し、災害時に逆機能を起こす制度を一つずつ点検すべきだ。
スマホは今や命を守る道具であり、売上金は保険で補填できる。
守るべきものの優先順位を取り違えれば、同じ悲劇は繰り返される。
さとう しゅういち
サトウ シュウイチ/50歳/男