2026/9/14
令和8(2026)年度、板橋区の自殺対策は新しい5か年計画のもとでスタートしました。「いのちを支える地域づくり計画2030」です。目標は、令和12年までに自殺死亡率を12.0以下(自殺者数換算で65人以下)に下げること。
連載最終回となる今回は、これまで見てきた知見を踏まえ、この新計画をどう評価し、何を求めていくべきかを考えます。
板橋区は令和5〜7年度の「いのちを支える地域づくり計画2025」を終え、令和8〜12年度の新計画に移行しました。最大の変化は、健康増進計画「いたばし健康プラン2030」の一部として組み込まれたことです。自殺対策を単独の施策ではなく、健康づくり全体の一環として位置づけ直した形です。
基本理念も「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現をめざす」に改められました。
数値目標は、令和12年までに自殺死亡率12.0以下(自殺者数65人以下)です。板橋区の令和5年実績は17.0でしたから、5年間で約3割の引き下げを目指す計算になります。
これは国の自殺総合対策大綱が掲げる「平成27年比30%以上減少」という目標水準に沿うものです(板橋区「いのちを支える地域づくり計画2030」策定ページ、いたばし健康プラン2030本文より)。
新計画で最も注目すべきは、8つの施策体系の中で「子ども・若者への支援」が最重点施策として新設されたことです。
理由として計画本文が挙げるのは、全国的に子どもの自殺者数が増加傾向にあり板橋区でも同様の傾向が見られること、そして令和7年6月に自殺対策基本法の改正が公布され子どもに関する自殺対策への社会全体での取り組みが明記されたことです。妊産婦の死亡理由として自殺が最も多いという事実も踏まえられています。
このほか重点施策として「女性・妊産婦への支援」「高齢者への支援」「仕事・経済・生活に関する支援」、そして新たに「孤独・孤立を軽減させる取組」が並びます。
第1回では、全国の自殺者数が統計開始以来初めて2万人を割り込む一方、小中高生の自殺は過去最多を更新しているという矛盾した現実を見ました。
第2回では、心理学的剖検という手法による研究で、自殺者の9割以上に何らかの精神障害があったことが確認されている事実を取り上げました。自殺は「心の弱さ」ではなく「追い込まれた末の死」だという視点です。
そして前回は、板橋区の調査で「死にたいと考えたことがある人」の半数以上が誰にも相談していないという実態を見ました。制度を整えるだけでは越えられない、孤独・孤立の壁がそこにあります。
板橋区固有のデータでは、令和5年の自殺者は92人、自殺死亡率17.0でした。年代・性別で見ると50歳代が最多で、JSCPの分析では「40〜59歳男性・無職・独居」の危機経路(失業から生活苦、うつ状態を経て自殺に至る経路)が最も多いパターンとして挙げられています(板橋区「板橋区における自殺の現状」参考資料より)。
この連載を通じて一貫して感じるのは、精神医療へのアクセス改善と、生活を支える施策の両方が必要だという点です。
うつ病など精神障害への早期対応を進めると同時に、就労支援や生活困窮対策とも連携しなければ、孤立から自殺に至る経路は断てません。新計画が「仕事・経済・生活に関する支援」を重点施策に据えたことは妥当な方向だと考えます。
ゲートキーパー(自殺の兆候に気づき、声をかけ、専門機関につなぐ役割を担う人)の認知拡大が新計画の成果指標に加わったことも評価しています。ただし令和5年度の研修参加者は出張・区民向けを合わせて数百人規模にとどまっており、人口約57万人の区としてはまだ広がりが限定的です。
この規模をどこまで拡大できるかが、次の5年間の実効性を左右すると見ています。
そして「子ども・若者」の最重点化です。理念に掲げるだけでなく、予算と人員配置に裏打ちされた施策として実行されるか、議会でも注視していきます。
この連載で繰り返しお伝えしてきたのは、自殺は個人の弱さの問題ではなく、社会が支えられる課題だということです。
もし今、あなた自身や身近な人が「消えてしまいたい」と感じているなら、それは決して恥ずかしいことでも、弱さの証拠でもありません。板橋区の相談窓口や、こころの体温計、SNS相談など、複数の入り口が用意されています。ひとりで抱え込まず、まず誰かに話してみてください。
もちろん、私にご相談いただいてもかまいません。お気軽にご連絡ください。
この計画が実効性のあるものになるかどうかは、計画に「血を通わせることができるかどうか」にかかっていると、私は思います。
そこには、計画だけではどうしてもカバーできない、一人ひとりの「想い」が必要です。
大げさなことでなくていい。
ちょっと周囲の人に関心を持ち、「こんにちは。どうかなさいましたか?」と聞くだけでも、少し風通しが良くなるかもしれません。
数値の達成も重要ですが、「板橋はあたたかい」「板橋なら住み続けられる」と一人でも多くの人に感じてもらえるよう、私も微力ながら仕事をしていきたいと思います。
参考:板橋区「いのちを支える地域づくり計画2030」策定ページ(https://www.city.itabashi.tokyo.jp/kenko/soudan/inochi/1064117.html)、いたばし健康プラン2030本文(板橋区公式サイト)、板橋区「板橋区における自殺の現状」参考資料(令和6年度こころといのちの連絡協議会資料)
The post 令和8年、新たな5か年計画がスタート——板橋区の自殺対策が「血の通った政策」になるために【いのちを支える板橋へ・第5回】 first appeared on 中妻じょうた 板橋区議会議員.
この記事をシェアする
ホーム>政党・政治家>中妻 じょうた (ナカツマ ジョウタ)>令和8年、新たな5か年計画がスタート——板橋区の自殺対策が「血の通った政策」になるために【いの...