2026/7/16

2027年4月から、家庭用エアコンの新しい省エネ基準が始まります。
省エネを進め、電気代や二酸化炭素の排出を減らすこと自体は必要です。
しかし今は、食品、電気、ガソリン、住宅設備など、生活に必要なものの値上がりが続いています。
エアコンも例外ではありません。
原材料、電子部品、物流費、工事に使う配管や電線、人件費など、さまざまな費用が価格に影響します。
そこへ、新しい省エネ基準に対応するための製品コストまで加われば、一般家庭が購入するエアコンの価格は、さらに上がる可能性があります。
私は、脱炭素政策そのものに反対しているわけではありません。
疑問を感じているのは、家計への影響を十分に検証しないまま、国民の暮らしより制度の予定を優先する政治です。
■物価高、部材高、新基準が重なる「三重苦」
2027年のエアコン問題は、新しい省エネ基準だけを見ていては、本質が分かりません。
エアコンの価格は、省エネ性能だけで決まるものではありません。
主に、次のような費用が影響します。
・社会全体の物価高
・銅やアルミなどの原材料価格
・電子部品の価格
・製造費や物流費
・設置工事に使う配管や電線
・工事を行う人の人件費
・省エネ性能を高めるための開発費や製造コスト
つまり、現在のエアコン市場には、
「物価高」
「部材価格や物流費の上昇」
「新しい省エネ基準への対応」
という三つの負担が重なろうとしています。
省エネ性能が上がることだけを見て、購入価格への影響を軽く考えてはいけません。
■6畳用スタンダード機で値上がりした販売例もある
一般家庭で多く使われる、6畳用・2.2kWのスタンダードエアコンについて調べました。
シャープのDMシリーズでは、2025年6月24日の販売例で、6畳用「AY-T22DM」が税込4万7,520円でした。
一方、2026年モデルの後継機「AY-U22DM」では、2026年7月時点で税込5万4,999円の販売例が確認できます。
2025年モデルの販売例:4万7,520円
2026年モデルの販売例:5万4,999円
価格差:7,479円
上昇率:約15.7%
ただし、販売店や販売時期、在庫状況などの条件は異なります。
この一例だけで、「エアコン全体が15.7%値上がりした」と断定することはできません。
すべてのメーカーや機種が、同じように値上がりしているわけでもありません。
それでも、一般家庭が購入する低価格帯の商品で、すでに負担が増えている販売例があることは無視できません。
国が2027年から新しい基準を進めるのであれば、平均的な省エネ性能だけでなく、低価格帯の実際の販売価格がどのように変化しているのかも調査し、公表するべきです。
■「基準未達のエアコンが販売禁止になる」は正確ではない
ここは、誤解のないように整理する必要があります。
2027年度の新しい基準を満たしていないエアコンが、すべて販売禁止になるわけではありません。
新しい制度は、メーカーが1年間に出荷する製品全体について、出荷台数を考慮した平均で省エネ基準を満たすよう求める仕組みです。
現在家庭で使っているエアコンが、2027年から使えなくなることもありません。
しかし、販売禁止ではないから問題がないとは言えません。
メーカーが製品全体の平均値を上げるために、省エネ性能が低い安価な商品を減らし、高性能で高価格の商品を増やす可能性があります。
制度上は販売できる商品であっても、実際の市場から安価なモデルが減ってしまえば、消費者にとっては選択肢が失われます。
問題は、法律上の販売禁止かどうかではありません。
一般家庭が実際に買える価格の商品が残るのか、という問題です。
■制度を決めた2022年と、現在の経済状況は違う
新しい省エネ基準は、2022年に決められました。
政府は2027年度を目標にした理由について、メーカーが製品を開発する期間を確保するため、5年間が必要だったと説明しています。
メーカーの準備期間を考えることは必要です。
しかし、国民の生活状況も同じように考えるべきではないでしょうか。
制度を決めた後も、食品や電気代をはじめ、生活に必要なものの値上がりが続きました。
物価や家計の状況が大きく変わったのであれば、一度決めた日程を守ることだけを優先するのではなく、改めて影響を調査する必要があります。
少なくとも、次の点は確認するべきです。
・現在のエアコン販売価格
・部材価格や物流費の状況
・低価格帯の商品が市場に残るのか
・一般家庭の所得と購入負担
・制度導入後に価格がどこまで上がる可能性があるのか
私は、省エネ基準をすべて白紙に戻せと言っているわけではありません。
しかし、一般家庭が多く購入する6畳用や8畳用などの低価格帯については、段階的に基準を導入する方法もあります。
物価や販売価格を確認し、必要であれば適用時期を見直すことも検討するべきです。
■14年後の節約より、今日買えるかが重要
資源エネルギー庁の試算では、2027年度基準を満たす6畳用エアコンは、現在の基準と比べて年間約2,760円の電気代を削減できるとされています。
平均使用年数を約14年とすると、使用期間全体で約4万円の削減になる計算です。
長く使えば、電気代が安くなる可能性はあります。
これは、新しい基準のメリットです。
しかし、今エアコンが壊れた家庭に必要なのは、14年後の節約額ではありません。
今日、エアコンを買って取り付けられるかどうかです。
仮に、本体価格が3万円、4万円と高くなれば、年間2,760円の節約で差額を取り戻すまでには、長い時間がかかります。
そもそも、購入時のお金を用意できなければ、将来の電気代削減というメリットを受けることもできません。
本体価格が上がれば、次のような家庭が出てくる可能性があります。
・故障したエアコンの買い替えを先送りする
・子ども部屋や寝室への設置を諦める
・古くて効きの悪いエアコンを使い続ける
・高齢者が費用を心配して冷房を我慢する
エアコンは、もはやぜいたく品ではありません。
猛暑から命を守るための生活インフラです。
省エネ性能だけを見て、購入する人の財布を見ない政策では、生活者を守ることはできません。
■静岡市も過去に省エネ家電を補助している
静岡市は2022年度、国の新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を使い、省エネ家電の購入補助を実施しました。
静岡市によると、この補助制度は現在実施されておらず、現時点では新たに設ける予定もないとされています。
静岡市はその後も、古いエアコンを使っている家庭を対象に、省エネ家電への買い替えを促す抽選型のキャンペーンを行っています。
今回確認した静岡県の公式情報では、一般家庭を一律に対象とするエアコン購入補助は確認できませんでした。
県は、省エネ家電への買い替えによる電気代削減を呼びかけています。
私は今後、国の制度によってエアコン価格が上がった場合に、自治体が安易な購入補助を行うことを懸念しています。
国の政策によって価格上昇の圧力を生み、その後に自治体が税金を使い、高性能エアコンの購入を補助する。
これでは、国民から集めた税金を使って、国民に高い商品を買わせる形になりかねません。
政府主導で負担を増やし、地方自治体が税金で穴埋めする。
そのような政策の進め方は、認めるべきではありません。
補助金を配る前に、まず価格が上がりすぎない制度を設計するべきです。
■支援するなら、高性能機の購入だけを条件にしてはいけない
エアコンへの支援そのものを、すべて否定するものではありません。
高齢者や低所得世帯など、経済的な理由でエアコンを設置できない家庭への支援は必要です。
しかし、支援の目的を「高性能な省エネ商品を買わせること」にしてはいけません。
本来の目的は、猛暑から人の命を守ることです。
支援を行うのであれば、次のような費用も対象として検討するべきです。
・最低限の冷房性能を備えた通常機種
・故障したエアコンの修理費
・標準取り付け工事費
・専用コンセントや電気工事費
・古いエアコンの撤去費用
補助金を受けるために、高価格の高性能エアコンを選ばなければならない仕組みでは、本当に困っている家庭を救えません。
高性能な商品を売ることではなく、必要な人が冷房を使えることを政策の目的にするべきです。
■価格が上がりすぎた場合の見直し条件を設けるべき
私は、何年延期するべきだと、先に期間を決める必要はないと考えます。
重要なのは、実際の価格や家計への影響を基準に判断することです。
政府には、少なくとも次の対応を求めます。
【1】低価格帯の価格を継続的に公表する
6畳用や8畳用のスタンダード機について、平均販売価格を継続的に調査し、公表するべきです。
高級機を含む平均価格だけでは、一般家庭の負担は見えません。
【2】安価な機種が市場に残っているか確認する
5万円台や6万円台など、一般家庭が購入しやすい価格帯の商品数や出荷台数を確認する必要があります。
平均的な省エネ性能だけでなく、消費者の選択肢が残っているかを見るべきです。
【3】価格上昇が大きい場合は、段階導入や延長を検討する
一定以上の価格上昇や、低価格商品の大幅な減少が確認された場合には、基準の段階導入や適用時期の見直しを行う仕組みを設けるべきです。
一度決めた日程を守ることより、国民の生活を守ることが重要です。
【4】国の政策による負担を地方自治体へ押し付けない
国の制度によって価格が上がった場合、その負担を自治体の補助金で穴埋めするのではなく、まず国が制度の妥当性を検証するべきです。
地方自治体の税金は、国の政策の後始末をするためのお金ではありません。
■脱炭素より国民生活を軽視する政治にしてはいけない
脱炭素は重要です。
省エネによって電気代を下げることも、長期的には家計の助けになります。
しかし、政策には順番があります。
国民がエアコンを買えなくなるほど購入価格が上がってから、税金で補助するのでは遅いのです。
まず、物価や部材価格の状況を確認する。
次に、低価格帯の商品が市場に残るのかを調査する。
一般家庭が無理なく購入できると確認してから制度を進める。
必要であれば、段階導入や実施時期の見直しも行う。
私は、脱炭素政策そのものに反対しているのではありません。
反対しているのは、家計への影響を十分に示さず、国民に新たな負担を求める政治です。
14年後の電気代削減も大切です。
しかし、その前に、今日と明日の暑さを乗り越えられることが必要です。
環境を守る政治と、国民の暮らしを守る政治を両立させる。
それが、生活者を見る政治の正しい順番です。
■参考資料
資源エネルギー庁
家庭用エアコンの新たな省エネ基準に関する説明
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/air_conditioner_2026.html
静岡市
省エネ家電製品購入事業補助金に関する案内
https://www.city.shizuoka.lg.jp/s2835/faq/s000003.html
静岡市
省エネ家電買換えキャンペーン
https://www.city.shizuoka.lg.jp/s2835/s012238.html
静岡県
省エネ家電への買い替えに関する情報
https://www.pref.shizuoka.jp/kurashikankyo/kankyo/1040676/1016080.html
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