2026/9/13

療養中のガーナ国籍の男性が、千葉市による生活保護申請の却下を争った裁判で、最高裁は男性側の上告を退けました。
ところが、4人の裁判官のうち1人だけ、反対意見を述べた裁判官がいました。
その人物は、この裁判の裁判長を務めた三浦守裁判官です。
裁判長であっても、評決では他の裁判官と同じ1票です。今回は、三浦守裁判長が反対意見、残る3人が多数意見となり、男性側の敗訴が確定しました。
三浦裁判官は、療養目的の在留資格で日本に滞在する外国人に必要な保護を行わないことは、「著しく人道に反し、個人の尊厳をないがしろにする」と指摘しました。
そして、少なくとも生命維持に必要な医療を受けるため日本に滞在している外国人まで生活保護の対象から除外することは、憲法14条の平等原則や、憲法25条の生存権に反するという反対意見を示しました。
ただし、これは三浦裁判官個人の反対意見です。最高裁の多数意見は憲法判断に踏み込まず、従来どおり外国人に生活保護法上の受給権を認めませんでした。
外国人の生活保護を考えるうえで重要なのが、2014年7月18日の最高裁判決です。
この判決は、生活保護法1条、2条に書かれている「国民」は日本国民を意味し、外国人は生活保護法の直接の適用対象には含まれないと判断しました。
したがって外国人には、生活保護法に基づいて保護を請求できる法律上の権利がありません。
しかし、これは、
「外国人に生活保護相当の支援を行うことは違法である」
と判断したものではありません。
現在も、一定の外国人には生活保護と同様の支援が行われています。
その根拠となっているのが、1954年に出された旧厚生省社会局長通知です。
旧厚生省通知は、外国人は生活保護法の適用対象ではないとしたうえで、「当分の間」、生活に困窮する外国人に対して、日本国民への生活保護に準じた保護を行うとしています。
1954年の「当分の間」が、法律として整備されないまま70年以上続いているのです。
この通知は、行政法上の「通達」です。
通達とは、上級の行政機関が下級の行政機関に対して、法律の解釈や仕事の進め方を示す行政内部の文書です。
分かりやすくいえば、行政組織内部の業務マニュアルです。
法律ではありませんから、原則として住民を直接拘束する法的効力はなく、通達だけで国民の権利や義務を新しく作ることもできません。
そのため、外国人への生活保護相当の支援は、法律上の権利ではなく、通知に基づく「行政措置」として実施されています。
ここに制度の不安定さがあります。
法律で全国一律の受給権が定められていないため、外国人への支援では、国の通知や運用基準に加えて、実際に保護を行う自治体の判断が大きな意味を持ちます。
行政に一定の判断の余地が認められていることを「行政裁量」といいます。
ただし、裁量とは、行政が好き勝手に決めてよいという意味ではありません。
制度の目的、平等原則、必要性、緊急性、判断の合理性などに従わなければならず、著しく不合理な判断や差別的な取扱いは、裁量権の逸脱・濫用として違法になる可能性があります。
それでも、法律上の権利として明確に保障されている制度と比べれば、通知に基づく行政措置は、自治体の運用による影響を受けやすくなります。
三浦守裁判官が問題にしたのも、まさにこの点です。
人の生命に直結する最低生活保障を、国会が法律で定めず、70年以上前の行政通知と自治体の運用に委ね続けてよいのか。
外国人への生活保護に賛成か、反対かという話だけではありません。
国民の税金を使って実施する重要な制度について、誰が対象となり、どのような条件で支給されるのかを、法律で明確にしなくてよいのかという問題です。
国会が長年にわたって法律を整備してこなかったとしても、地方自治体に何もできないわけではありません。
自治体では、国の法令や通知、平等原則などの範囲内で、運用の透明性、審査基準、緊急時の支援、独自制度、議会への報告方法などを変えることができます。
市議会では、例えば次の問題を議論できます。
市内で外国人への保護が何件行われているのか
どのような在留資格が対象となっているのか
支給額と財政負担はどうなっているのか
支給、不支給の判断基準は適正か
他の自治体と運用に違いがあるのか
生命の危険がある場合に、どのような緊急支援を行うのか
国に法律の整備を求めるべきではないか
こうした実態を議会で明らかにし、市民の前で議論する。
これが住民自治です。
住民自治とは、市民の多数意思で特定の人を差別することではありません。法律や憲法の範囲内で、市民が地域の行政を監視し、税金の使い方を検証し、よりよい運用へ変えていくことです。
「国の問題だから市には関係ない」
その一言で終わらせてはいけません。
実際に申請を受け、必要性を審査し、支給するのは現場の自治体です。市議会には、その運用を調査し、市民に説明させる役割があります。
外国人生活保護の問題について、賛成か反対かだけを叫んでも、制度はよくなりません。
必要なのは、支給の実態、判断基準、財政負担、法的根拠を明らかにし、市民が判断できる材料を示すことです。
国が法律を作れない。
国が制度を変えられない。
それなら、市川市で変えられる運用から変えていく。
市民の皆様と一緒に行政を監視し、議会で議論し、全国の自治体が参考にできる制度を市川市から作っていく。
市川市を、日本のモデルケースに。
市民のチカラで、行政の運用は変えられます。
市川市から日本を変える!
行政法の「通達」「裁量」「立法不作為」「住民自治」について、法律を初めて学ぶ人にも分かるよう、noteで詳しく解説しました。
▼詳しい解説はこちら
【外国人生活保護却下問題】三浦守裁判長が反対意見?
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