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【市川市】中核市移行、市長の説明不足を補う

2026/5/18

市川市の田中甲市長は、市長選で中核市移行を重要政策として示しました。

中核市移行、保健所、動物愛護センター、児童相談所、市立高校、特別支援学校。

これらは一見すると、それぞれ別々の政策に見えます。

しかし私は、これらを県が担ってきた行政機能を、市川市民に近い市へ引き寄せる政策群として見るべきだと考えています。

この論点について、詳しい制度論・財政論はnoteで整理しました。

https://note.com/takasan_japan/n/nff8b020afb7c?sub_rt=share_sb

この記事では、選挙ドットコム向けに要点を整理します。


市長の説明は「弱者に寄り添う」で止まっている

田中市長の説明は、現時点では「市独自に、より弱者に寄り添った行政を行う」という理念に寄っています。

もちろん、その方向性は重要です。

しかし、市民に説明すべきことは、それだけではありません。

本来説明すべきなのは、

なぜ市が担う方がよいのか。
なぜ財政的にも投資価値があるのか。
なぜ人材確保にも有利なのか。

という点です。

中核市移行を「優しい市政」の話だけで終わらせると、反対派からは「費用が増えるだけではないか」と見られてしまいます。

だからこそ、市長が本来説明すべきだった内容を、市民側から整理する必要があります。


市川市は現在、不交付団体である

市川市は現在、普通交付税の不交付団体です。

理由は、普通交付税の算定上、基準財政収入額が基準財政需要額を上回っているからです。

市川市の令和6年度財政状況資料集では、基準財政収入額が約777.1億円、基準財政需要額が約695.4億円となっています。差額は約81.7億円です。

つまり、市川市は普通交付税の算定上、大きな財源超過になっています。

一見すると、これは「市川市は財政的に余裕がある」という話に見えます。

しかし、不交付団体であることには大きな弱点もあります。


不交付団体のままだと、ふるさと納税流出が直撃する

その弱点が、ふるさと納税です。

市川市は、ふるさと納税による市税流出の影響を大きく受けています。

令和6年度は、市川市への寄附受入額に対して、市民税控除額が大きく上回り、市にとって大きな減収となっています。

ここで重要なのは、交付団体不交付団体の違いです。

交付団体であれば、ふるさと納税による減収額の75%が地方交付税で補填される仕組みがあります。

一方、不交付団体ではこの補填がありません。

つまり、市川市は現在、ふるさと納税流出について、国の財政調整制度という「保険」の外にいます。

ここを見落としてはいけません。


これは市川市が勝手に仕事を増やす話ではない

そもそも、中核市移行で市川市に移る事務は、市川市が勝手に作り出す仕事ではありません。

保健所、衛生、福祉、環境、許認可、監督行政などは、国の制度に基づき、自治体が担うことになっている行政事務です。

現在は、その多くを千葉県が処理しています。

市川市が中核市になるということは、国が制度として自治体に担わせている事務の一部を、千葉県から市川市へ移すということです。

つまり、見るべきなのは「市川市の仕事が増える」という一面だけではありません。

その仕事に対応する国庫負担金、国庫補助金、交付金、手数料収入、普通交付税措置がどう移るのか。

ここまで含めて見なければ、中核市移行の財政論にはなりません。


中核市移行で、基準財政需要額は増える

市川市が中核市になれば、県が担ってきた事務の一部を市が処理することになります。

つまり、市川市が担う行政需要は増えます。

県の仕事を市が引き受ける。
市の標準的行政需要が増える。
基準財政需要額が増える。
基準財政収入額との差が縮まる。
制度設計と財政状況次第では、将来的に交付団体に近づく可能性がある。

この構造を説明しないまま「中核市になります」と言えば、市民には単なる負担増に見えます。

もちろん、基準財政需要額が増えるとしても、実際の歳出増と完全に一致するわけではありません。

だからこそ、市が示すべきなのは、

実際の歳出増
基準財政需要額への反映額
国庫支出金や手数料収入
交付団体化の可能性
ふるさと納税流出分の補填効果

を分けた試算です。


唐突に見える県立高校の市立化も、同じ流れに乗る

田中市長が示した県立高校の市立化は、一見すると中核市移行とは別の唐突な教育政策に見えます。

しかし、財政制度の視点から見ると、これは中核市移行と同じ方向を向いています。

県が担っていた行政機能を市川市へ移し、市川市が直接責任を持つ領域を広げる政策だからです。

県立高校を市立化すれば、市川市の教育行政の守備範囲は広がります。

教職員費、施設費、教育内容の設計、特色ある学校づくりも市の課題になります。

その分、市の行政需要は増えます。
つまり、普通交付税算定上の基準財政需要額にも影響する可能性があります。

これは「唐突な学校政策」ではなく、県から市へ行政機能を移すという大きな流れの中で見るべきです。


児童相談所は中核市本体とは分けて考える

ただし、児童相談所は保健所とは違います。

保健所は中核市移行に伴う本体機能です。

一方、児童相談所は中核市になれば自動的に設置されるものではありません。

つまり、

保健所は中核市本体の議論。
児童相談所は任意の追加構想。

ここを混ぜてはいけません。

しかし、中核市になれば、児童相談所設置市を目指す道が現実的になります。

市川市が児童相談所を持てば、児童福祉司、児童心理司、一時保護施設、相談体制、里親支援、施設措置、第三者検証など、非常に重い児童福祉行政を市が担うことになります。

これも市の行政需要を大きく増やす要素です。

したがって、基準財政需要額に影響する可能性があります。

ただし、児童相談所は単なる相談機関ではありません。
親子分離という極めて強い行政権限を持つ機関です。

そして、児童相談所を設置するなら、一時保護施設をどうするかは避けて通れません。

問題は「一時保護施設を持つかどうか」の単純な話だけではありません。

どのような一時保護施設にするのか。
どのような職員体制にするのか。
どのように子どもの権利を守るのか。

それだけではなく、国が推奨する「施設よりも家庭養育」のため、養育里親への委託推進もです。
明石市は、一時保護ですら施設収容原則ではなく、里親委託を推進したわけです。

ここが本当の争点です。


市川児相の一時保護所の問題を繰り返してはいけない

ここで忘れてはならないのが、現在の千葉県市川児童相談所の一時保護所の実態です。

市川児童相談所の元職員である飯島章太さんの訴訟記録や報道からは、一時保護所の職員体制・労働環境が極めて厳しく、子ども一人ひとりに十分向き合うことが難しい実態がうかがえます。

CALL4の訴訟ページでは、市川児童相談所の児童指導員の16.7%が精神疾患で長期療養し、採用後間もない若手職員では2人に1人が精神疾患で長期療養したとされています。

また、東京すくすくの記事では、飯島さんが一時保護所で人手不足により休憩を取れず、仮眠時間にも業務に追われたこと、和解条項で千葉県が休憩時間の確保、勤務体制の見直し、代替人員の配置、休憩場所の整備などに努めることになったと報じられています。

この問題は、職員の労働問題にとどまりません。

一時保護所の職員が休めない。
研修も十分でない。
子ども一人ひとりと向き合う時間がない。
精神的に不安定な子どもたちを、十分な体制なしに集団管理する。

そのような施設で、子どもの権利が守られるはずがありません。
また、一時保護の里親委託を推進している形跡もありません。

だから、市川市が児童相談所を持つなら、現在の県型児相をそのまま移すだけでは不十分です。

一時保護施設と里親は、児童相談所設置において避けて通れない中核機能です。

市川市が設置するなら、

一時保護施設の規模。
職員配置。
研修体制。
夜間勤務体制。
子どもの意見聴取。
面会制限のルール。
第三者検証。
記録開示。
外部からの監視体制。
子どもを管理対象ではなく権利主体として扱う運用。

そして、家庭的養育を提供する里親募集と、委託推進。

ここまで設計すべきです。

児童相談所を市が持つということは、単に県の施設を市へ移すことではありません。

県の失敗を、市川市で繰り返さない制度を作ることです。


基準財政需要額がどれだけ増えるかは、制度設計次第

ここで重要なのは、基準財政需要額がどれだけ増えるかは、制度設計によって変わるということです。

県立高校をどのような形で市立化するのか。
施設を県からどう移管するのか。
教職員費の扱いはどうなるのか。

児童相談所についても、一時保護施設をどの規模で、どこに整備するのか。
現在の千葉県市川児童相談所にある一時保護施設を移管・活用するのか。
市川市独自に新たな施設を整備するのか。
県とのケース移管や広域調整をどう行うのか。

そして何より、一時保護施設における子どもの権利保障、面会制限のルール、第三者検証、記録開示、外部からの監視体制をどう設計するのか。

制度設計によって、実際の歳出も、国庫負担金も、県支出金も、基準財政需要額への反映も変わります。

だから、市民が判断するためには、「市立高校」「児童相談所」という看板だけでは不十分です。

政策ごとに、基準財政需要額、国庫支出金、県支出金、実際の歳出増を分けて試算する必要があります。


県から市へ移るのは「仕事」だけではない

さらに重要なのは、県から市へ移るのは仕事だけではないという点です。

県が担っている事務の中には、国庫負担金、国庫補助金、交付金、手数料収入、地方交付税措置が関係しているものがあります。

つまり、中核市移行では、

「県の仕事を市が肩代わりする」

だけではなく、

その仕事に付いている国費や財源措置の流れも、市へ移る可能性がある

ということです。

見るべきなのは、単なる歳出増ではありません。

見るべきなのは、

増える歳出。
国庫支出金。
国庫補助金。
県支出金の増減。
手数料収入。
基準財政需要額の増加。
普通交付税への影響。
ふるさと納税流出分の補填可能性。

これらを合わせた、市川市の実質純負担です。

ここを出さずに「費用が増えるから反対」と言っても、議論としては浅いです。

逆に、市長側も、ここを数字で示さずに「市民に近い行政になる」と言うだけでは説得力が足りません。


国レベルで見ると、これは役割の再配分である

中核市移行を、市川市だけの支出増として見ると、どうしても重く見えます。

しかし、国レベルで見ると違います。

もともと千葉県が担っていた事務の一部を、市川市へ移す。
県が広域的に処理していた事務を、市民に近い市が担う。
市川市民の生活実態に合わせて、保健、衛生、福祉、環境、動物愛護、教育、子ども行政を組み立て直す。

これは、行政事務を新しく増やすだけの話ではありません。

国、県、市の役割分担を組み替える話です。

千葉県にもメリットがあります。

市川市分の事務負担が減れば、県はより広域的な行政、県内市町村間の調整、専門支援に行政資源を回しやすくなります。

だから、市川市は千葉県に対して、施設移管、人材派遣、財源移譲、移行期支援をしっかり交渉すべきです。


最大の効果は「市川愛のある人財」を集めやすくなること

中核市移行・県事務移譲の大きな価値は、人材面にもあります。

県職員であれば、広い千葉県全体で異動があります。

市川市に家を持つ人、子育て中の人、親の介護がある人、東京・市川・船橋方面を生活圏にしている人にとって、県内全域への異動リスクは小さくありません。

市川市と館山市では、同じ千葉県内でも生活圏はまったく違います。

一方、市川市職員であれば、市川市に根を張って働くことができます。

市川市の保健所。
市川市の動物愛護。
市川市の福祉。
市川市の教育。
市川市の子ども行政。

これらを、自分のまちの仕事として担うことができます。

その象徴として、市川市動植物園の安永崇課長のような職員が思い浮かびます。

安永課長は、市川市動植物園を盛り上げただけでなく、市川市全体の魅力発信にも取り組んできた、市川愛のある職員として知られています。

制度を動かすのは、結局は人です。

中核市移行とは、保健所、福祉、教育、動物愛護、子ども行政の分野に、市川市を知り、市川市を愛し、市川市民のために工夫できる職員を増やす制度改革でもあります。


市が示すべき数字

市民が判断するためには、少なくとも次の数字が必要です。

項目 市が示すべきこと
中核市本体 移譲事務と必要人員
保健所 施設、人件費、国庫支出金、手数料収入
動物愛護 施設移管、専門職、運営費
市立高校 県立高校の市立化、教職員費、施設費
特別支援学校 施設費、人件費、国庫補助
児童相談所 里親委託・通学継続・第三者検証を含め別試算
基準財政需要額 政策ごとにいくら増えるか
基準財政収入額 移行後も不交付か、交付団体化するか
国庫支出金 県経由から市直接になるもの
県支出金 増えるもの、減るもの
手数料収入 保健所・許認可等で見込める額
ふるさと納税補填 交付団体化した場合の効果
実質純負担 歳出増から歳入増を引いた本当の負担

これを出さずに「中核市は市民のため」と言っても弱い。

逆に、これを出さずに「費用が増えるから反対」とだけ言うのも浅い。

市民が知りたいのは、賛成か反対かの旗ではありません。

市川市が何を引き受け、何を得て、いくら負担し、どれだけ市民サービスが良くなるのかです。


中核市移行は「高い看板替え」か、「市民への投資」か

中核市移行は、やり方を間違えれば、高い看板替えになります。

県から仕事だけを引き受ける。
人材確保に失敗する。
財源試算も甘い。
児童相談所まで勢いで抱え込む。
県型児相の問題点まで市に持ち込む。

そうなれば、市川市の財政と行政現場は苦しくなります。

しかし、正しく設計すれば、まったく違う姿になります。

県の事務を市川市民向けにカスタマイズする。
国庫支出金や交付税措置を含めて財源を組み替える。
基準財政需要額を増やし、普通交付税という財政上の安全網を働かせる可能性を高める。
ふるさと納税流出分の補填効果も視野に入れる。
市川愛のある優秀な専門職を、市川市に根付かせる。
そして、児童相談所を持つなら、県型児相の問題を繰り返さない人権保障型の制度を設計する。

そこまで設計できるなら、中核市移行は単なる負担増ではありません。

市川市民のために、県から行政機能を引き寄せる投資です。


市長も、市議会も、数字で語るべきです

中核市移行を「費用が増えるから反対」で終わらせてはいけません。

同時に、「市民に近い行政になるから賛成」で終わらせてもいけません。

必要なのは、数字です。

中核市移行で基準財政需要額はいくら増えるのか。
国庫支出金や手数料収入はいくら入るのか。
市川市はなお不交付団体なのか、交付団体に近づくのか。
交付団体化した場合、ふるさと納税流出分の補填効果がどの程度見込めるのか。
基準財政需要額に算入されず、市の実負担として残る金額はいくらなのか。

そして児童相談所を持つなら、一時保護を施設収容前提にせず、里親委託、通学継続、第三者検証、子どもの意見聴取をどう制度化するのか。

市長が示すべきなのは、夢だけではありません。
反対派市議が示すべきなのも、不安だけではありません。

市川市民が判断できる材料を、具体的な数字で示すべきです。

中核市移行とは、市川市民のために行政機能を県から市へ引き寄せる政策なのか。
それとも、単なる高コストな制度変更なのか。

その答えは、市がこれから出す試算と設計図にかかっています。

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著者

たか さん

たか さん

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肩書 令和6年行政書士試験合格者、千葉県登録養育里親、メンタル心理カウンセラー、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、千葉県市川市中央倫理法人会幹事
党派・会派 無所属
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