2026/1/4
| 小森さだゆき|参政党所属/高槻市議会議員
「政府の赤字は、みんなの黒字」という言葉があります。政府が赤字を出せば、その分、民間の誰かの所得や資産が増える。会計上は、これは確かに正しい説明です。
しかし、ここで一度、素朴な疑問を投げかけてみたいと思います。日本はこの数年で巨額の赤字国債を発行してきました。普通国債の残高を見ると、2020年度末には約906兆円だったものが、2025年度末には約1,129兆円に達する見込みです。わずか5年間で、およそ223兆円以上増えた計算になります。
それだけ政府が赤字を積み上げてきたにもかかわらず、本当に国民の皆さんは「豊かになった」と言えるでしょうか。給料はなかなか上がらない、物価は上がる、税金や社会保険料の負担は重い。多くの人が、生活が楽になったという実感を持てていないのが現実ではないでしょうか。
もし「政府の赤字はみんなの黒字」が、そのまま国民生活に反映されるのであれば、これほどまでに生活不安が広がるはずはありません。
この違和感の正体は何なのか。答えは、「政府の赤字が黒字になる先」と「国民の生活」との間で、お金の流れが詰まっていることにあります。
日本経済のお金の流れを単純化すると、政府が支出する、企業の売上が増える、企業の利益が増える、という順番になります。ここまでは実際に起きています。ところが本来、その次に続くはずの「賃金が上がる」「家計の可処分所得が増える」「消費が回復する」という流れが、日本では十分に機能していません。
つまり、政府の赤字は確かに存在するのに、国民の生活の黒字として届いていないということです。
一つ目の詰まりは、企業の内部留保です。企業は利益を上げても、それを賃上げや国内投資に十分回さず、現金や金融資産として社内に積み上げてきました。結果として「企業の黒字」は増えた一方で、「家計の黒字」にはつながりにくくなっています。
ここが詰まると、政府支出が回り始めても、最終的に家計消費へつながる手前で勢いが弱まります。経済が伸びるときの要は、企業の数字だけではなく、家計の可処分所得が増えて消費が回ることにあります。
二つ目の詰まりは、株主配当と海外への資金流出です。日本企業の株式は外国人投資家の保有比率が高く、企業が利益を出せば、その一部は配当として海外へ送られます。これは市場経済として自然な動きですが、国内に残るお金はその分減ります。
国内で生まれた付加価値が、国内の賃金や投資へ回る前に外へ出ていく。これも「国民に回らない」という実感を強める要因になります。
三つ目の詰まりは、輸入構造と円安です。日本はエネルギーや食料、原材料を海外に大きく依存しています。円安が進めば、同じ量を輸入しても支払額は増えます。政府支出で生まれたお金の一部が、輸入代金として海外に流れていく構造になっています。
ここまでを整理すると、政府の赤字は「金融資産としては増えている」が「生活の黒字としては届きにくい」という状態が見えてきます。
では、問題は「政府が赤字を出してきたこと」なのでしょうか。答えは違います。本当の問題は、政府の赤字が、企業で止まり、金融資産で止まり、海外に流れて終わる、という構造にあります。
政府の赤字は、使い方次第で国民の生活を支えるお金にもなれば、一部だけが潤うお金にもなります。問われているのは、赤字か黒字かではなく、その赤字を国民の生活へどう回すかです。
詰まりを解消するために必要な方向性は、次の3つです。
第一に、賃上げに直結する政策設計です。単なる「賃上げ要請」ではなく、補助金や公共調達に、賃上げや雇用拡大を条件として組み込む。政府支出が入るほど家計に回る仕組みを作る必要があります。
第二に、家計の可処分所得を直接増やすことです。賃金が上がりにくい局面で、税や社会保険料の負担だけが重ければ、消費は回復しません。減税や負担軽減は、単なる景気対策ではなく、経済循環の土台を整える政策です。
第三に、国内循環を重視した投資です。輸入依存を高める支出ではなく、国内で雇用と所得を生む分野に重点的に回す。エネルギーや食料といった基礎産業を国内で強化することは、安全保障であると同時に経済政策でもあります。
「政府の赤字は、みんなの黒字」という言葉は、理論としては正しい。しかし、その黒字が「誰の黒字になっているのか」を見なければ現実を見誤ります。
普通国債残高は、2020年度末約906兆円から2025年度末約1,129兆円へ、わずか5年間で約223兆円以上増えました。それでも生活が豊かになった実感が薄いのは、黒字が家計へ回る前に詰まっているからです。
赤字を減らすことが目的になってしまうと、家計への循環をさらに細らせる危険があります。必要なのは、赤字の「回し方」を国民生活中心に組み替えることです。そこにこそ、いまの日本経済の核心があります。
| 小森さだゆき|参政党所属/高槻市議会議員
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