2024/8/16
こんにちは。兵庫県川西市議会議員の長田たくや(ながたく)です。
以前に書いた「コレステロール大戦争」という記事では、コレステロール降下薬=スタチン系という言葉を多用しました。
【コレステロール大戦争】
第1回:卵は1日1個制限
第2回:覆すもの vs 護るもの
実は、このスタチンを発見したのは日本人なのです。今回は、そのスタチンについて少し詳しくご紹介します。
■ スタチンって何?
スタチン(statin)は、ラテン語の stat(止める)から来た言葉とされます。
コレステロールの合成で中心となるのが「HMG-CoAからメバロン酸に変えるHMG-CoA還元酵素」です。
スタチンは、HMG-CoA還元酵素を阻害することでコレステロール合成を抑制します。

■ どうやって阻害するの?
スタチンはHMG-CoAと似た構造を持ち、デコイとして酵素反応に引き込ませることで働きを邪魔します。多くの医薬品は、このように似た構造を利用して体内の反応を“だます”仕組みをとっています。

■ スタチン系薬剤の構造
現在、日本で市販されているスタチン系薬剤は6種類です。効果の強さで「スタンダード」と「ストロング」に分けられますが、いずれも共通構造を持ちます。
その構造に付随する部分の違いによって強さが変わるのは興味深い点です。すべての一般名は「○○スタチン」となります。

商品名も分かりやすいものが多いですね。
最初の販売された「メバロチン」は、メバロン酸の合成を止めるスタチンのでこの名前になりました。
■ 生体内の調整機能
人間にはコレステロール量を自動調節するシステムがあります。細胞にある小胞体膜上にあるHMG-CoA還元酵素は、コレステロールを感知すると自己破壊し、逆に不足するとその数を増やします。
スタチンを服用するとHMG-CoA還元酵素が阻害されるため、身体は「もっと作らなければ」と逆に酵素を増加させ、結果としてスタチンの効果が減弱することもあります。つまり「スタチンをとりあえず飲んでおこう」という使い方は、生体の調節機構を乱すリスクもあるのです。

■ スタチン発見の歴史
1959年、あのややこしいコレステロールの合成経路がほぼ解明されました。
1960年代には、HMG-CoA還元酵素が合成経路の主役(律速酵素)であることが確定します。
1970年代には、心臓病の治療からコレステロールを下げる薬が強く求められていましたが、当時は効果の弱い薬しかありませんでした。
遠藤章氏(三共製薬の研究者)はコレステロール代謝に注目し、1973年7月に青カビ(Penicillium citrinum Pen-51)からコンパクチン(ML-236B)を発見。これがスタチンの第1号となります。

■ 苦難と攻防の歴史
遠藤が発見したコンパクチンは、ラットでの肝毒性などで課題がありました。研究を進める中、商品化に向けて米国メルク社と秘密保持契約を結び共同開発を予定していました。
1978年、遠藤氏が三共製薬を退社して農工大に移った同年、メルク社は別のカビから同様の物質メビノリンを単離し、ひそかに権利を独占し、開発を進めようとします。一方、同時期に遠藤氏は大学で紅麹菌からモナコリンKを単離。これが後にメビノリンと同一成分であると分かりました。
モナコリンKはすでに特許取得済みだったため、メルクはメビノリンをアメリカ国内でしか開発できなかったのです。
研究者同士の熾烈な特許争いです。
■ これがアメリカのやり方
コンパクチンの共同開発を蹴って、メルクはメビノリンを元に先んじてロバスタチン(メバコール®)を開発し、1987年に世界初のスタチンとして販売しました。なお、日本では販売されていません。
一方、遠藤がみつけたコンパクチンは開発が中止となり、代わって三共製薬がコンパクチンを改良進化させたプラバスタチン(メバロチン®)を1989年に販売しました。惜しくも世界初のスタチン製剤はアメリカに取られてしまいましたが、プラバスタチンは安全性が高く、世界中で広く使用されることになります。

■ 世界中で使用される薬剤に
スタチンは世界中でたちまち普及し、2005年には市場規模が約3兆円にも達しました。アトルバスタチン(リピトール®)は世界初のブロックバスター(年間売上100億ドル超)、単独で武田薬品の売上高の1.5倍に匹敵しました。
業界全体がスタチンの優位性を守ろうと必死だった理由も理解できます。現在は、その“次の収益源”がワクチンなんですよね…
■ 最後にマニアックな話
「なぜスタチンはどれも似た形をしているのか?」と思う方もいるでしょう。それは、活性を持たせるためにどうしても必要な構造が共通しているからです。
私はこうした化学的な背景や理屈を知るのが楽しい人です。

■ まとめ
スタチンは、脳梗塞や心筋梗塞の既往がある人に必ず勧められる薬です。副作用として横紋筋融解症などはありますが、比較的安全に使用できます。
ただし、既往がなく「コレステロール値が高いだけ」という人では、服用メリットは少なく、むしろ体内で酵素増加を引き起こすリスクもあります。
日本人が一番初めに発見したという点は誇らしいことですし、同時にグローバル競争では相手があらゆる手を使うことを示す事例でもあります。遠藤氏が偶然モナコリンKを単離・特許化していたおかげで、日本でも薬剤開発が進み、メバロチンが開発されたのは幸運でした。
紅麹といえば小林製薬の問題も記憶に新しいですが、コレステロール低下作用はこのモナコリンK、すなわちスタチン成分によるものです。
薬の発見の歴史や構造式の特徴を知るのは、とても興味深いものです。少しでも「へぇ、おもしろいやん」と思っていただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な1日でありますように。
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【参考文献・資料】
https://www.jstage.jst.go.jp/article/joma/122/1/122_1_73/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jat1973/28/6/28_6_115/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nogeikagaku1924/65/6/65_6_1019/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jat1973/28/6/28_6_111/_pdf
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=940
https://www.jhf.or.jp/shinzo/mth/images/History-37-8.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/64/6/64_958/_pdf
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