2026/8/23
現在の日本には、明治・大正期の片仮名文語体で書かれた法令が、少数ながら重要な分野に残っています。
例えば、1884年制定の「爆発物取締罰則」は現在も効力を持ちます。第一条は「治安ヲ妨ケ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ爆発物ヲ使用シタル者」と始まります。2025年の拘禁刑導入に対応して刑名は改正されましたが、文章全体は明治期の文体のままです。e-Gov法令検索
1889年の「決闘罪ニ関スル件」も現行です。「決闘ヲ挑ミタル者又ハ其挑ニ応シタル者」と規定され、こちらも刑名だけが拘禁刑へ改められました。e-Gov法令検索
1899年の「失火ノ責任ニ関スル法律」、いわゆる失火責任法も現行です。条文は一文だけですが、「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」と書かれています。e-Gov法令検索
さらに、「暴力行為等処罰ニ関スル法律」「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」など、現在も刑事事件で適用され得る法律にも片仮名文語体が残っています。歴史資料として保存されているのではなく、現在の国民に適用される法令です。
これは表記上の趣味の問題ではありません。法律は国民に義務を課し、違反者を処罰し、損害賠償の範囲を決めます。その原文を一般の国民がそのまま読んで理解しにくい状態は、法令へのアクセスを妨げます。
現代語化が不可能なわけではありません。刑法は1995年の改正で、片仮名漢文調から平仮名口語体へ改められました。このときは表記を平易にすると同時に、最高裁が違憲と判断した尊属殺人の加重規定なども削除されています。法務省「令和元年版犯罪白書」
会社法の制定でも、商法第二編、有限会社法、商法特例法などを一つの法典にまとめ、片仮名文語体を平仮名口語体に改めました。現代語化と法令統合は、既に実施例のある改革です。
ただし、片仮名を平仮名に置き換えるだけでは足りません。「其ノ」「之ヲ」「看做ス」といった言葉を機械的に直すと、長年の判例や解釈とのずれが生じる可能性があります。従来の法的意味を維持する部分と、制度自体を改める部分を分け、旧条文との対照表や改正理由を公表する必要があります。
同時に、刑法や民法へ統合できる規定は統合し、独立法として残す必要が乏しい法律は廃止する。独立法が必要なものは、目的、対象、構成要件、刑罰を現代文で書き直すべきです。
法律は専門家だけの内部文書ではありません。国民に守ることを求める以上、国民が原文を読める形にすることも、法治国家の基本的な責任です。
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