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2026/8/22

「弁天町ユース保健室」:大阪市初「ユース保健室」が挑む、若者の孤独を救う4つの型破りなアプローチ

創政MISATO 日髙千穂 

 

はじめに:なぜ今の日本に「学校でも家でもない保健室」が必要なのか

現代の日本において、若者を取り巻く環境はかつてないほど深刻です。自殺者数の高止まり、不登校の急増、そして誰にも言えない若年妊娠や潜在化する虐待。これらの課題に対し、従来の行政サービスが「届ききっていない」という冷厳な事実があります。既存の窓口は、自ら「助けて」と声を上げられる人には機能しますが、本当に追い詰められ、社会への不信感を募らせている「相談以前の層」をすくい上げることができていないからです。

こうした行政の「隙間」を埋めるべく、大阪市港区で始まったのが「弁天町ユース保健室」です。大阪市初となるこの試みは、単なる相談窓口ではありません。10代から20代の若者が、匿名性を担保されたまま、心身の悩みや性、人間関係について専門家に相談できる。それは、既存の制度がこぼし続けてきた「声なき声」を拾い上げるための、極めて戦略的な「居場所」なのです。

 

1.相談内容の7割は「性」と「体」の悩み

開設以来のデータ(累計相談者79名、うち女性が8割)を分析すると、従来の支援の枠組みでは見えてこなかった切実なニーズが浮き彫りになりました。相談内容の実に70%が「性」に関する悩みだったのです。

  • 妊娠中絶に関する相談:60%
  • LGBTQ等の性自認・性的指向:10%

特に注目すべきは、相談者の77%が20代であるという点です。これは「ユース=中高生」という一般的なイメージを覆す数字です。義務教育というセーフティネットを離れ、社会に出たばかりの若者達がいかに孤立し、中絶や性の違和感といった「公的な場所では話しにくい悩み」を一人で抱え込んでいるかが分かります。ここは、彼らが批判や偏見を恐れずに本音を吐露できる、都市の「シェルター」として機能しています。

 

2.「個人情報は教えない」——行政の常識を覆す情報の壁

通常、行政が関わる事業では、詳細な個人情報や相談記録を共有し、管理することが「常識」とされます。しかし、弁天町ユース保健室が採用した「公民連携事業制度」は、その常識をあえて拒絶しました。

このプロジェクトは、大阪市に前例・予算・ノウハウが一切ない中で、「予算がないなら知恵を出す」という執念のもと、約1年半もの歳月をかけて行政との協定を勝ち取ったものです。その最大の特徴は、区役所が施設提供や広報を強力にバックアップしながらも、「相談者の個人情報は区役所に共有しない」という異例の契約を交わしている点にあります。

「行政に知られる=指導や管理の対象になる」という若者の心理的抵抗を排除し、徹底してプライバシーを守る。信頼構築のためにあえて情報の壁を築くという逆転の発想こそが、硬直化した行政システムを動かすイノベーションとなったのです。

 

3.相談の主流はLINE——対面の5倍に上るデジタル接点

若者にとって「直接会って話す」のは、極めてエネルギーを要する行為です。実績を見ても、対面相談27件に対し、LINE相談は132件と約5倍に達しています。

ここで鍵となるのが、問題が深刻化する前の違和感に寄り添う「0次予防」という思想です。彼らは「待ちの姿勢」を捨て、テクノロジーを駆使して若者の日常に溶け込んでいます。

  • 行政のDX(デジタル・トランスフォーメーション): 図書館の書籍付近にQRコードを配置し、読書という日常の動線から自然に相談窓口へ繋げる工夫。
  • トラウマインフォームドケア: 「何があったのか?」と過去を問い詰めるのではなく、「今、ここは安心できる環境か?」を最優先する姿勢。

匿名性が高く、場所を選ばないLINEという窓口は、傷ついた経験を持つ若者にとって、最も心理的安全性を確保しやすい「0次」の接点となっているのです。

 

4.「食」でつながる——パンとチョコレートが心を開く鍵

「相談室」という看板を掲げるだけでは、本当に苦しい層には届きません。そこで実践されているのが、食を介した戦略的なアウトリーチです。

京都では商業施設を利用した「ユースストリートカフェ」で、パンなどの軽食を無償提供しています。これは単なる空腹を満たす慈善活動ではなく、関係構築のための「インセンティブ(きっかけ)」です。弁天町ユース保健室の周知活動においてもインフォメーションカード配布時にチョコレートを添えるといった泥臭い手法が、若者の警戒心を解く鍵となります。

提供される食品は封緘品に限定され、徹底した衛生管理が行われています。単なる「炊き出し」ではない、安全で持続可能な支援モデルとしてのこだわりが、活動の信頼性を担保しています。「支援が必要でも来ない層に対して、いかに自然な形で接触するか」この哲学を支えるプロフェッショナルな設計です。

5. 結び:縦割りの制度を超えて、私たちが問い直すべきこと

日本の若者支援は現在、「保健」「教育」「子ども・家庭」といった行政の縦割りに阻まれています。その結果、義務教育を終える18歳前後で支援が途切れる「制度の狭間」が放置されてきました。

大阪市港区で産声を上げたこのモデルは、既存の枠組みに「予算がない」と突き放されても、1年半かけて対話を積み重ね、制度の壁を突破した先にあります。この挑戦は、一つの区の成功事例にとどまらず、日本中の自治体が直面している構造的課題への強力なアンチテーゼです。

最後に、自分自身に問いかけてみてください。

 「あなたの住む街に、若者が匿名で、何も持たずに、目的もなく逃げ込める場所はありますか?」

若者の孤独を「個人の問題」ではなく「社会の構造」として捉え直す。その第一歩は、私たちが彼らのための「隙間」を許容することから始まるのかもしれません。

#日高ちほ

#三郷市議会議員

#創政MISATO

 

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