2026/9/6
ち気象。

海上で人工的に雨や雪を降らせ陸地での豪雨災害を軽減しようという実験が千葉大学や富山大学などの研究チームによって始まった。豪雨をもたらす雨雲が陸地へ近づく前に海上で水分の一部を降らせ雨量の集中を和らげる構想である。成功すれば気象災害への備えを大きく変える可能性がある。実験では航空機から雲にドライアイスを散布する。雲の中の過冷却水滴を氷の粒に変え成長させて雪や雨として落とす「シーディング」と呼ばれる方法だ。雨を消滅させるのではなく危険な場所に到達する前に海上で少しずつ降らせる。いわば、満杯になりそうなバケツの水をあふれる前に抜いておく発想である。将来、線状降水帯による雨量のピークを引き下げられれば河川の氾濫や土砂災害、都市部の浸水を減らせるかもしれない。豪雨を完全になくせなくても堤防や排水施設が耐えられる範囲まで雨量を抑えられれば防災上の意味は大きい。人工降雨の用途は豪雨対策に限らない。渇水時にダム上流で降水を促し貯水量を回復させることも考えられる。山間部に雪を降らせればそれが天然の貯水池となり春から夏にかけて水資源として利用できる。干ばつに苦しむ農業地帯や森林火災の危険地域、砂漠化が進む国々への応用も期待される。ただし、人工降雨は何もない空から雨を生み出す魔法ではない。水分を含み、雨を降らせる可能性のある雲が必要である。雲の状態や風向きによっては効果が得られず、意図しない地域の降水量を増やす恐れもある。砂漠化対策でも植林や土壌改良、貯水施設、効率的な灌漑と組み合わせなければ持続的な効果は望めない。
避けて通れないのが国際的なルール作りだ。ある国が人工降雨を実施した際、隣国で干ばつや洪水が起きれば、科学的な因果関係が不明でも「雨を奪われた」「災害を引き起こされた」との疑念が生じかねない。現在の環境改変技術敵対的使用禁止条約は主として軍事的、敵対的な利用を禁じるもので平和目的の人工降雨を詳しく規制してはいない。今後は散布物質や量、実施区域、高度などの安全基準を設ける必要がある。国境付近で実施する場合の事前通報、気象データや散布記録の公開、第三者機関による検証、被害発生時の補償と紛争処理も欠かせない。世界共通の基本条約を定めたうえで東アジアや河川流域など目的を共有する国々が地域協定を結ぶのが現実的だろう。気象制御は人類に恩恵をもたらす一方、「誰が、どこに雨を降らせるのか」という重い問題を伴う。技術の完成を待ってから制度を考えるのでは遅い。研究を進める今こそ雨を利用する権利と他国の気象を無断で変えられない権利を両立させる国際的な議論を始めるべきである。
#人工降雨 #気象制御 #豪雨災害の軽減
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