2026/2/28

八尾市の令和8年度市政運営方針では、「行政DXの推進」が重点項目として掲げられています。
「書かない窓口」やオンライン手続きの拡充、業務効率化、人材育成――方向性としてはとても妥当です。人口減少社会において、行政が持続可能であるための“基礎工事”です。
ただし、ここで一つだけ釘を刺しておきたいのは、DXは“計画をつくった”だけでは不十分であるという点です。大事なのは運用段階でどこまで踏み込めるか。つまり、技術導入ではなく、役所組織の再設計ができるかどうか、です。
私はこれまで、岐阜県関市、広島県呉市、大分県庁など、いわゆるDX先進自治体の取組を視察し、担当部局の職員さん方から現場での具体的なお話を伺ってきました。各自治体で共通して感じたのは、次の一点です。
「システムを入れる」より先に、“人・評価・文化・データの使い方”を動かしている。
今回は、八尾市が“デジタル化止まり”にならず、市民のための行政機能の高度化を実現するために必要な論点を、整理しておきます。
八尾市人材育成方針の中では、デジタルスキルを業務遂行能力として位置付け、評価に反映していく考えが示されています。方向性としては重要です。
ただ、行政(現在の八尾市)の人事評価は基本的に上長評価です。
ここで起こりがちなのが、
といった、「役所あるある」現象です。
DXを進めるなら、「評価される側」より先に、「評価する側」のDXが必要になります。
管理職が最低限のITリテラシーと、評価の物差しを持っていないと、制度は“書類上は存在するだけ”という状態になりかねません。
重要なのは、単なるデジタル研修の実施有無ではなく、
このあたりとなります。
全庁的にDXを進めるなら、管理職が最低限のITリテラシーを持つことは前提条件です。
現場に「デジタルで変えていこう」と言う一方で、指揮する側が基礎用語すら通じないと、組織は静かに崩れます。音もなく。
先進自治体では、管理職昇任とIT資格の接続を検討している例もあります。ここで大事なのは、「資格を取らせること」が目的ではありません。目的は、
この“組織としての地ならし”です。
制度化(昇任・昇格要件化)まで踏み込むか、まずは推奨・努力義務として始めるか、段階・手段はいろいろ考えられます。
ただ、少なくとも「検討の俎上に載せる」こと自体が、役所のDXの本気度を示すシグナルになります。
令和6年度から八尾市はDX推進リーダー制度を創設し、全庁的なDX人材の育成を本格的に開始し、庁内研修も実施しています。
DX推進リーダー制度や研修の実施は、取り組みとして大きな前進です。
しかし役所の現場では、往々にして研修が“参加して終わり”になりがちです。これは行政に限らず、
といった、どの組織でも起こり得る現象でもあります。
だから問うべきは、単に研修の実施回数(アウトプット)ではなく、
といった、「結果」に目を向けることです。
ここが曖昧なままだと、現場にはこう伝わります。
「結局、やってもやらんでも同じやろ?」
これが一番危険。結局、DXは熱意で始まり、無関心で終わってしまいます。
こうならないために、評価制度との接続が重要です。
「結果」に目を向けることは重要ですが、DXの成果指標としてよくあるのが、
です。
しかし、これらは“手段のカウント”であって、成果そのものではありません。
市民目線で考えると、役所のDXの成果は、本来こう置くべきです。
創出された職員時間(業務縮減時間)、
それを 住民サービスや政策立案に再投資できたか
先進事例では、AIやRPA導入の効果を、現場ヒアリングで業務縮減時間として積み上げ、組織全体で可視化している自治体もあります。
ポイントは、完璧な測定ではなく、「測って改善する」サイクルを回すことです。
業務縮減時間を集計できれば、
といったことが可能になってきます。
これらはDXを“事業”で終わらせず、“戦略的行政経営”につなげるための必須パーツです。
行政DXは単なるデジタルツールの導入ではありません。
ここで鍵になるのが、BPR(Business Process Re-engineering)、すなわち役所の業務のやり方そのものを抜本的に見直す考え方です。
今の仕事の流れを一度分解し、「本当に必要な作業は何か」「もっと簡素化できないか」を問い直し、最適な形に組み直す――それがBPRです。
を経なければ、待っているのは、
「非効率な業務の電子化」
=やり方はそのまま、手触りだけデジタル
という結末です。
必要なのは、全庁的に
この設計思想を明確にすることです。
BPRは片手間でできるものではありません。
今の業務を細かく分解し、不要な工程を減らし、標準化し、効果を測る――こうした工程を体系的に進める専門性が求められます。
DX推進室があっても、BPR機能が弱ければDXは片輪になります。
庁内の横断体制や、必要に応じた外部知見の活用も含め、実装の“筋肉”を持てるかどうかが分かれ目です。
ここでも重要なのは、理念ではなく、具体的な目標設定です。
ここが明確になったとき、DXは単なる「改革宣言」から、行政経営のツールへと変わります。
DX先進自治体で共通していたもう一つの共通点は、「データに基づく政策形成(EBPM)」への関心、実装への取り組みです。
施策を「やりました」で終わらせず、「何がどれだけ変わったか」を測り、次の改善につなげる仕組みをつくっている。
EBPMを進めるには、まず現状確認が必要です。
その上で、民間事業者が提供する匿名加工済みの人流統計データ等を活用すれば、
といった、役所が実施している施策の検証精度を上げられる可能性があります。
重要なのは、データ取得は「コスト」ではなく、
政策の当たり外れを減らし、税金の使い方の質を高めるための基盤投資
だという認識です。
“節約のための投資”ではなく、“失敗しないための投資”。
この感覚が組織に根付くと、DXは一気に「行政のOS更新」になります。
DXは技術導入ではなく、組織変革が鍵です。
組織変革には、人事制度と成果の可視化がセットで必要です。それは同時に、「人への投資」と「役所文化の進化」を意味します。挑戦が評価され、成果が見える化され、努力が報われる。その循環が生まれて初めて、DXは根付きます。
八尾市のDX推進プランの素案では、「書かない窓口」の実現など、市民や事業者の皆さまにとって分かりやすい取組も掲げられています。
こうした“見えるDX”はもちろん重要です。手続きが簡素化され、待ち時間が短縮されれば、それ自体が利用者の利便性向上につながります。
しかし、もう一つ大切なのは、“見えないDX”です。
庁内の業務が効率化され、無駄な作業が減り、職員の時間が生み出される。
その結果、歳出の抑制につながり、限られたマンパワーの中でも、より質の高い市民サービスへ振り向ける余力が生まれる。
市民の皆さんから見れば、「手続きが楽になった」ことも改革ですが、「財源が無駄なく使われている」こともまた、立派な改革です。
DXとは、単に便利になることではなく、行政が持続可能であるための体質改善でもあります。
目立たなくても、確実に効く。それが本当の意味での行政改革に繋がる様な準備を行い、これから3月議会に臨んで参ります。
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