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お盆企画「道義国家試論」1戦後の栄光と喪失戦後、わが国は現行憲法と日米安保体制の下で、自国の防...

2026/8/11

お盆企画「道義国家試論」1

戦後の栄光と喪失

戦後、わが国は現行憲法と日米安保体制の下で、自国の防衛を米国に委ねる一方、国土を基地として駐留米軍に提供し、経済成長に専念する道を選んだ。その結果、未曾有の経済復興と高度成長を遂げ、経済的繁栄は1980年代のバブル期に頂点に達した。わが国は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまで称されるに至ったのである。

しかし、バブル崩壊後の日本経済は一転して長期停滞に陥り、いわゆる「失われた30年」を経験することとなった。その結果、世界経済におけるわが国のプレゼンスは大きく後退した。バブルが崩壊した1991年、わが国の一人当たり名目GDPは世界3~4位であったが、2025年には34~36位にまで低下した。実質GDPで見ても、世界10位前後から20位前後へと順位を落としている。企業の時価総額ランキングを見ても、1989年には世界トップ50のうち日本企業が32社を占めていたのに対し、2026年7月時点ではソフトバンクとトヨタの2社にとどまっている。(図)

では、経済成長さえ実現できれば、それで十分だったのか。必ずしもそうとはいえない。
戦後のわが国では、長らく国民の道徳的指針とされてきた教育勅語が廃止され、天皇や国家に対する忠義、親や祖先に対する孝行といった価値観は全体主義につながる封建道徳として否定されることとなった。また、急速な経済成長の陰では、故郷の山河が産業化によって破壊・汚染され、村落共同体や家族といった伝統的な共同体も、都市化の進展や戦後民主主義における個人主義的価値観の浸透と相まって衰弱していった。

その結果、国民は経済成長によって物質的な豊かさを享受した反面、孤独やニヒリズム(価値の喪失)、マモニズム(拝金主義)による道徳的荒廃の淵に立たされることとなった。かつて三島由紀夫は、「このまま行ったら日本はなくなって、その代わりに、無機質な、からっぽなニュートラルな、中間色の裕福な抜け目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう」と予言した。しかし、長期にわたる経済停滞の結果、わが国は経済大国ですらなくなりつつある。

日本株式会社

もっとも、戦後の米国は、わが国に政治体制の民主化と軍事力の放棄を求めた一方、米ソ冷戦が激化してからは、わが国を反共の防波堤として戦略的に重視するようになった。そのため、社会経済システムについてはわが国に一定の自律性が認められた。こうした背景の下、わが国では、年功序列や終身雇用といった雇用慣行、政府主導の産業政策、メインバンク制や株式持ち合い、護送船団行政などを特徴とする、「日本株式会社」と呼ばれる独自の社会経済システムが形成された。この日本型資本主義ともいうべき経済システムの下で、農村や地方、拡大家族から離れた国民は、会社を新たな帰属と忠誠の拠り所とするようになった。また、会社は大企業を頂点として中小企業や下請け企業を結びつけることで、企業を中心とした共同体を形成していった。こうした独自の資本主義構造が経済成長の原動力となり、わが国は宗主国の米国を凌ぐほどの経済成長を実現するとともに、「一億総中流」と呼ばれる国民共同体を現出させたのである。

米国の対日攻勢

ところが1980年代末になると、米国はソ連との冷戦における勝利をほぼ確実なものとし、日本の対ソ戦略上の重要性は相対的に低下していった。そこで米国は、経済的繁栄の絶頂にあった日本を、自国の覇権を脅かす次なる競争相手と見定め、貿易・通商政策を通じて対日攻勢を強め、市場開放を求めるようになった。同時に、日本の経済的成功を支えた「日本株式会社」についても、市場における公正な競争を歪める特殊な制度・慣行として批判し、社会経済システム全般にわたる構造改革を要求するようになった。

そもそも米国は、戦後のマーシャル・プラン以来、わが国を含む西側諸国からの輸出を受け入れ、各国の経済発展を支援することで、共産化を防ぎ、同盟国を自陣営につなぎ留めてきた。しかし、その反面、慢性的な貿易赤字と財政赤字という「双子の赤字」に苦しむこととなり、日本やドイツなどかつての敵国に製造業の優位を奪われることとなった。そこで米国は、日本との貿易が不公正であるとして市場開放や輸出規制を迫り、USTR(米国通商代表部)を司令塔として、「スーパー301条」の発動など経済制裁も辞さない姿勢で圧力をかけた。

今日、「産業のコメ」と呼ばれ、経済安全保障の要とされる半導体もその一例である。かつてわが国は1980年代に世界最大のシェアを誇っていたが、1986年に締結された日米半導体協定を契機として、日本の半導体産業は急速に衰退していった。この協定では、日本市場の開放とダンピングの防止が謳われ、日本国内における外国製半導体のシェアを20%まで引き上げるサイドレターも交わされた。また、米国が算出した「公正市場価格」を下回る価格での販売も禁止された。こうした措置の結果、1981年には世界シェアの70%を占めていたわが国の半導体産業は急速に競争力を失い、やがて韓国や台湾にその地位を明け渡すこととなった。(図)

さらに米国は、日本国民が蓄積してきた莫大な貯蓄資産にも目を向け、金融市場の開放を求めるようになった。米国は金融経済のグローバル化を主導することで、貿易による赤字を金融市場から得られる利益によって補おうとしたのである。こうした米国による対日圧力の象徴ともいえるのが、1994年に宮沢政権とクリントン政権の間で始まった「年次改革要望書」である。今世紀初頭に発足した小泉純一郎内閣は、竹中平蔵氏を司令塔として新自由主義的な構造改革を推し進めたが、その背景にはこの要望書の存在があった。

なかでも郵政民営化は、「市場における公正な競争」と「サービスの向上」を大義名分として、郵便事業と郵貯・簡保などの金融部門の分割・民営化を断行したものである。しかしその背景には、350兆円にも及ぶ巨額の「郵貯マネー」に目を付け、商機の拡大を狙うグローバル金融資本と米国政府の思惑があったと考えられる。郵政民営化の結果、06年に運用資産(350.2兆円)の75.1%を占めていた公共債(国債と地方債)の比率は、25年(248.6兆円)には49.7%に低下した一方、株式や外国証券は1%未満から約31%まで拡大した。額にして約140兆円の公共債が減ったことになる。(図)

移民問題の淵源

近年、わが国では在留外国人や外国人労働者が急速に増加し、外国人問題が国政の主要な論点となっている。しかし、この問題の発端は、小泉政権による新自由主義改革とも無縁ではない。
2003年の労働者派遣法改正などによって労働市場の自由化が推し進められた結果、非正規雇用が拡大した。そしてリーマン・ショック後には、いわゆる「派遣切り」によって大量の失業者が生まれた。

非正規雇用の拡大は、低所得や雇用の不安定化を通じて婚姻率の低下と少子化の進行に拍車をかけた。その結果、人手不足を背景として外国人労働力への依存が強まっていった。折からの円高に加え、ヒト・モノ・カネが国境を越えて自由に移動するグローバル化が進展するなか、技能実習生や留学生などが、事実上の移民労働力として日本に流入するようになった。その結果、今世紀初頭に約30万人だった外国人労働者数は、2025年10月末には257万人を突破した。また、在留外国人数も約169万人から約413万人へと増加している。(図)

安倍内閣の挫折

こうした小泉・竹中政権以来の新自由主義路線は、「ウォール街中心の強欲資本主義から脱却し、瑞穂の国の資本主義を取り戻す」と訴えて政権に返り咲いた安倍晋三内閣においても、完全に転換されることはなかった。周知のように、安倍内閣が打ち出した経済政策「アベノミクス」は、大胆な金融政策、機動的な財政出動、成長戦略という「三本の矢」から構成されていた。しかし、異次元の金融緩和が実施された一方で、財政出動は十分とはいえず、成長戦略も産業投資より規制緩和に偏重した。

安倍政権では、「安倍一強」と官邸主導による政権運営の下、一部の官邸官僚やグローバリストが政策形成に強い影響力を持ち、種子法(主要農作物種子法)の廃止、コンセッション方式の導入による水道民営化を可能とした水道法改正、インバウンドの増加を口実として全国で民泊を解禁した民泊新法(住宅宿泊事業法)の制定などが行われた。

また、外国人労働者が本格的に増加したのも安倍内閣の時期である。第二次安倍内閣が発足した2012年の外国人労働者数は約68万人であったが、安倍首相が退任した2020年には172万人を超え、100万人以上増加した。このように、安倍内閣もまた、グローバリズムと結びついた新自由主義路線から完全に脱却することはできなかったのである。

新自由主義改革の帰結

1990年代以降に進められた一連の新自由主義改革の結果、わが国では中間層が痩せ細り、所得格差が拡大した。バブル崩壊直後の1992年に約545万円だった世帯所得の中央値は、2023年には427万円まで低下し、約118万円減少している。中間層の衰弱は家計消費の縮小をもたらし、経済的理由による婚姻率の低下、少子化の進行、人手不足、それを補うための移民受け入れ、賃金の下方硬直、さらなる消費の縮小という悪循環を招いている。

また、政府による長年の緊縮財政は、中央政府からの所得再分配に依存する地方財政を疲弊させ、東京一極集中と地域間格差の拡大を加速させた。地方は、農林水産業などの生産基盤であると同時に、祭りをはじめとする伝統文化の保存・継承を担う場でもある。したがって地方の衰退は、農家の減少による食料自給率の低下だけでなく、地域共同体における伝統文化の喪失をも意味する。さらに金融市場の自由化は、海外投資家やヘッジファンドの参入を促進し、日本株の取得を拡大させた。2024年末時点で、外国法人等による日本株の保有比率は32.4%に達し、過去最高を記録している。

バブル崩壊後、日本企業では雇用・設備・債務の「三つの過剰」が問題視され、将来に向けた投資や借入が過度に抑制された。さらに、大企業の資金調達が銀行借入から株式・社債市場を通じた直接金融へと大きく移行したことで、配当やキャピタルゲインなど短期的な株主利益が優先され、長期的な設備投資や研究開発(R&D)が抑制され、日本企業の成長が阻害されたとの指摘もある。

実際、安倍内閣が発足した2012年から直近の2024~25年までの間に、日経平均は6~7倍に上昇し、企業利益は約2.5~3倍、内部留保は約330兆円から約600兆円へと倍増した。また、株価を安定させるための自社株買いは約5倍に増加した。その一方で、設備投資と研究開発費の増加は約3~4割にとどまっている。労働分配率も約72%から約64~65%へと低下した。

さらに政府は、「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)、企業型DC(確定拠出年金)の非課税枠を拡充するなどして、約1,120兆円ともいわれる家計の預貯金を株式や投資信託への投資に振り向けることを奨励している。これは個人の資産形成と経済成長を目的とした政策である。しかし、実際にはその多くが米国株や全世界株式の購入に向けられており、NISAとiDeCo、企業型DCを合わせると毎月5,000億から6,500億円が海外資産へ向かっているともいわれる。(図)

そもそも国民の預貯金は、従来、メガバンクによる国債や財投債の引き受けなどを通じて、政府の産業政策や公共投資の原資となってきた。そう考えれば、外国株への投資が拡大することは、国民資産の海外流出と、わが国の産業基盤の浸食につながるのではないかという懸念も生じる。
このように考えるならば、わが国の「失われた30年」は、金融経済のグローバル化と歩調を合わせて進められた新自由主義改革の帰結として捉えることができる。

サナエノミクスの成否

安倍路線の継承を掲げて発足した高市早苗内閣は、「責任ある積極財政」を掲げ、AIや先端半導体など17の戦略分野に対し、今後10年間で370兆円規模の官民投資を行うとしている。こうした、いわば産業政策の復活ともいうべき戦略分野への投資は、産業の生産性を高め、経済成長をもたらす可能性がある。一方で、財源を国債に頼り日銀が引き受けると円安とインフレを助長し、企業収益を圧迫するだけでなく、長期金利の上昇を通じて民間投資の阻害要因となるとの懸念もある。そもそも政府が主導する計画主義的な産業政策は失敗するとの指摘もある。とはいえ、戦略産業の選定や資金調達を金融市場の自律性に委ねれば、資本が海外へ流出し、世界の強豪と伍することのできる産業を国内で育成することも難しくなる。

また、ウクライナ戦争やイランに戦争による原油価格の高騰を受け、国内ではコストプッシュ型のインフレが加速し、家計消費を圧迫している。こうしたなかで高市政権は消費減税を決めたが、その財源を国債で賄うことになれば、円安とインフレをさらに加速させ、かえって国民の実質所得を引き下げることにもなりかねない。

したがって、サナエノミクスの成否は、金融経済のグローバル化に抗しつつ、国民が保有する金融資産を国内における投資と成長、分配の循環へと結びつける経済システムを構築できるか否かにかかっているように思われる。

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著者

折本 たつのり

折本 たつのり

選挙 千葉県議会議員選挙 (2023/04/09) [当選] 14,940 票
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浦安市選挙区

肩書 千葉県議会議員、オピニオン誌主宰、会社役員
党派・会派 無所属
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