2026/8/9
こんにちは、古田ひろきです。
第1回では、大津市が抱える移動の足の課題と、県内では甲賀市がすでに「公共ライドシェア」の実証運行を始めていることをお伝えしました。
実はこの「公共ライドシェア」という言葉、大津市の計画づくりの現場でも混乱のもとになっています。
市が策定中の第2次大津市地域公共交通計画(案)へのパブリックコメントでは、「公共ライドシェア」と「日本版ライドシェア」という2つの言葉についてきちんと説明を載せてほしい、という意見が寄せられ、市側も用語解説に記載すると回答しています。
行政の計画づくりの現場でさえ整理が必要になるくらいですから、私たち市民にとって分かりにくいのは当然かもしれません。
そこで今回は、この2つの制度がそれぞれ何なのか、根拠となる法律や仕組みに沿って整理します。
一般に「日本版ライドシェア」と呼ばれているのは、正式には「自家用車活用事業」という制度です。道路運送法第78条第3号を根拠に、令和6年(2024年)3月に新しく設けられました。
この制度の主役はあくまでタクシー事業者です。
タクシーが不足する地域・曜日・時間帯を特定したうえで、タクシー事業者の管理のもとで、地域の自家用車と一般ドライバーを活用して不足分を補うという発想でつくられています。
運賃もタクシー事業者の事前確定運賃制度に準じ、原則キャッシュレスです。
対象になる地域も限定的です。
まず東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸・福岡など、都道府県庁所在地の政令市を含む大都市部が優先的に対象とされ、それ以外の地域では、簡易な方法(金曜・土曜の夜間帯をタクシー不足時間帯とみなす、など)で不足車両数を算出したうえで、タクシー事業者に実施意向がある場合に導入されるという建て付けです。
つまり日本版ライドシェアは、「タクシー会社が忙しい時間帯を、地域の自家用車で補う」という、既存のタクシー業界を前提とした仕組みだと言えます。
一方の「公共ライドシェア」は、正式には「自家用有償旅客運送」(その中でも交通空白地に対応するものは「交通空白地有償運送」)と呼ばれる制度です。
根拠は同じ道路運送法ですが、条文は第78条第2号にあたり、こちらは平成の頃から存在する制度を、近年の運用改善によって使いやすくしたものです。
こちらの主役は、市町村やNPO法人などです。
「バス・タクシーによることが困難で、地域公共交通会議等で協議が調った場合」に、市町村やNPOが運行主体となり、第一種運転免許を持つドライバーと自家用車を使って運送サービスを提供します。
運賃は実費の範囲内とされ、目安として地域のタクシー運賃の約8割程度が一つの基準になっています。
甲賀市の「甲賀流公共ライドシェア」は、まさにこの制度を活用したものです。市町村が運行主体となりながら、運行管理などの実務を地元事業者に委託する「事業者協力型」という形を取ることで、タクシー・バス事業者と対立するのではなく、協力し合う関係を築いているのが特徴です。
なお令和5年以降の制度運用の改善により、運送区域の設定が柔軟になったほか、一定範囲内でのダイナミックプライシング(時間帯による運賃の変動)も認められるようになっており、以前よりも地域の実情に合わせやすい制度になっています。
項目 | 公共ライドシェア(交通空白地有償運送) | 日本版ライドシェア(自家用車活用事業) |
|---|---|---|
運送主体 | 市町村・NPO等 | タクシー事業者 |
対象地域 | バス・タクシーの利用が困難で、地域公共交通会議等で合意が調った地域 | タクシーが不足する地域・時期・時間帯として国が指定した地域 |
運賃 | 実費の範囲内(タクシー運賃の目安約8割) | タクシー事業者の事前確定運賃制度に準ずる |
使用できる車両数 | 制限なし | 事業者ごとに運輸局が通知する範囲内 |
大まかに言えば、公共ライドシェアは「地域に合わせて自治体が設計する制度」、日本版ライドシェアは「タクシー会社の需給調整の延長線上にある制度」という違いがあります。
ここで大切なのは、日本版ライドシェアが優先的に導入されているのは、東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸・福岡など、都道府県庁所在地の政令市を含む大都市部だという点です。
大津市はこの枠組みには入っておらず、簡易な方法での導入を検討する場合も、タクシー事業者側に実施の意向があることが前提になります。
一方で公共ライドシェア(交通空白地有償運送)は、すでに全国で約700地域が活用しており、滋賀県内でも甲賀市が事業者協力型という形で実証運行を進めています。
市町村やNPOが主体となって地域の実情に合わせて制度設計できる分、大津市のように「観光需要の多い中心部」と「生活の足に困る郊外・山間部」が同居する自治体にとっては、こちらの制度の方がまず検討しやすい選択肢だと考えられます。
次回は、公共ライドシェアをすでに導入している他の自治体の事例を、規模別に見ていきます。人口規模の異なる自治体がどのように制度を設計し、運用しているのかを知ることで、大津市に当てはめる際のヒントを探ります。
出典:国土交通省物流・自動車局旅客課「自家用有償旅客運送(公共ライドシェア)ハンドブック」、滋賀運輸支局資料「ライドシェア 自家用車活用事業・自家用有償旅客運送について」、第2次大津市地域公共交通計画(案)パブリックコメント、滋賀県ホームページ(甲賀流公共ライドシェア実証運行について)
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