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種田 昌克 ブログ

酷暑の街に響いた吉田拓郎「夏休み」―失われた風景と、変わらない夏

2026/8/20

8月14日。お盆のさなかではありましたが、地元を戸別訪問していました。
昼間の街は、酷暑という言葉がぴったりでした。照りつける日差しの下、人影もほとんどありません。聞こえてくるのはセミの鳴き声ばかり。
そんな静かな街を歩いていると、突然、どこからともなく大音量の音楽が聞こえてきました。
吉田拓郎の「夏休み」です。
思わず足を止めました。
一昔前なら、若者が自宅のステレオから近所迷惑もお構いなしに音楽を鳴らしている、ということもあったように思います。しかし、今の時代に、しかも吉田拓郎をこれほどの音量で流しているとは珍しい。
「いったい、どこから聞こえてくるのだろう」
少し気になって、その“震源地”を探して歩いてみました。
30メートル、いや50メートルほど歩いたでしょうか。ようやく見つけました。
そこでは、大工さんが住宅の修繕作業をしていました。年齢はおそらく70歳代。傍らには、いわゆる「ラジカセ」が置かれ、そこから吉田拓郎がかなりの音量で流れていました。
大工さんは電動丸鋸で木材を切っています。
なるほど。この音量でなければ、丸鋸の音に負けてしまうのでしょう。
思わず話しかけて、
「拓郎、好きなんですか。実は私も好きなんですよ」
と言ってみたくなりました。
しかし、仕事の手を止めさせるのも申し訳ないと思い、そのまま通り過ぎました。
それでも、その光景が妙に心に残りました。
真夏の昼下がり。人の姿もない街。セミの声。そして木を切る丸鋸の音。その中に響き渡る吉田拓郎の「夏休み」。
「ああ、夏休みだなあ」
久しぶりに、そんなことを感じました。
「夏休み」という歌には、子どもの頃にあった日本の夏の風景が描かれています。
昔は、子どもたちが麦わら帽子をかぶって遊び回っていました。でも、今では麦わら帽子をかぶって走り回る子どもの姿を見かけることも少なくなりました。
田んぼにはカエルがいて、畑にはトンボが飛んでいました。
ところが、その田んぼや畑そのものが、街中から次々となくなっていきました。
そして、子どもの頃に心を寄せた「姉さん先生」。学校が変われば、もう会うこともできない。
時代が進むということは、便利になることである一方、かつて当たり前にあった風景が少しずつ姿を消していくことでもあります。
吉田拓郎自身、この歌について、何か特別な政治的メッセージを込めたものではなく、自分を育ててくれた子ども時代の夏の風景を描いたものだという趣旨の説明をしています。
「姉さん先生」も実在した先生がモデルなのだそうです。
体が弱かった少年時代の拓郎が、相撲で倒れた際に、その先生に背負われて医務室まで連れていってもらった――。初恋と呼ぶほどでもないけれど、少年の胸の中にずっと残った甘酸っぱい記憶だったのでしょう。
だからこそ、この歌には不思議な力があります。
聴いている人それぞれの「自分の夏休み」を呼び起こしてくれるのです。
私自身も、子どもの頃の夏を思い出します。
今のように危険なほどの暑さではなかったような気がします。子どもたちは外を走り回り、田んぼや水路が遊び場でした。夏休みは長く、毎日がどこか特別でした。
もちろん、それは記憶の中で少し美化されているのかもしれません。
街も変わりました。
田んぼがなくなり、空き地がなくなり、子どもの声が聞こえなくなった場所もあります。夏の過ごし方も大きく変わりました。
それでも、音楽ひとつで、何十年も前の空気が突然よみがえることがあります。
8月14日、酷暑の大垣の街で、大工さんのラジカセから響いていた吉田拓郎。
おそらく大工さんにとっても、あの歌には何か特別な思い出があるのでしょう。
声をかけなかったので、それを聞くことはできませんでした。
けれど、聞かなくてもよかったのかもしれません。
大工さんには大工さんの「夏休み」があり、私には私の「夏休み」がある。
失われてしまった風景は戻りません。
それでも、セミが鳴き、真夏の日差しが照りつけ、どこからか懐かしい歌が聞こえてくると、心の中にはあの頃の夏が戻ってきます。
時代は変わっても、「夏休み」という言葉を聞いたときの、あの少しだけ胸が躍る感覚は変わらない。
そんなことを思わせてくれた、お盆の昼下がりの出来事でした。

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種田 昌克

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