2026/7/22
NHK BSで『ウルトラマン』が放送されていたので、懐かしくなって見入ってしまいました。
子どもの頃は、ウルトラマンが怪獣を倒す場面に胸を躍らせながら、毎週のように見ていたものです。怪獣が現れ、科学特捜隊が出動し、最後にはウルトラマンが地球の平和を守ってくれる。幼い私には、そんな単純明快なヒーロー番組として映っていたのだと思います。
しかし、大人になったいま見直してみると、『ウルトラマン』は決して子どもだけを対象にした番組ではなかったことに気づかされます。
当時の社会情勢に対する批判や、科学技術の進歩がもたらす光と影、国家と個人の関係、正義とは何かといった、人類普遍の哲学的な問いが物語の中に盛り込まれているのです。
今回見たのは、第23話「故郷は地球」。1966年12月18日に放送された、ジャミラが登場する回でした。
ジャミラは、もともと怪獣ではありません。ある国が打ち上げた有人衛星に乗っていた宇宙飛行士でした。
ところが宇宙船は帰還できなくなり、事故を起こした国は、国際社会から批判されることを恐れて、その事実を公表しませんでした。ジャミラは救助されることなく、宇宙に取り残されてしまったのです。
過酷な環境の惑星で生き延びるうちに、ジャミラの身体は怪獣のような姿へと変わっていきました。そして長い年月をかけて宇宙船を改造し、自分を見捨てた祖国と人類への復讐のため、地球へ戻ってきます。
事情を知った科学特捜隊のイデ隊員は、激しく動揺します。
ジャミラは、もともとは人間であり、自分たち科学者や隊員の先輩ともいえる存在です。自分たちも、いつ同じように国家や組織から見捨てられるか分からない。だからジャミラとは戦えない――イデ隊員は、そのような思いを訴えます。
怪獣が現れたから倒せばよい、という単純な話ではありません。
ジャミラは確かに人々を襲い、国際平和会議を妨害しようとします。しかし、彼を怪獣にしたのは誰なのか。ジャミラだけを「人類の敵」として葬り去ることが、本当に正義なのか。
物語は、見る者にその問いを突きつけます。
最後に、ウルトラマンは水に弱いジャミラをウルトラ水流で倒します。雨と水を浴び、泥の中でもがきながら倒れていくジャミラの姿には、悪い怪獣を退治したという爽快感はありません。
そこにあるのは、何とも言えない後味の悪さと悲しさです。
事件の後、ジャミラのために墓標が建てられます。そこには、
「人類の夢と科学の発展のために死んだ戦士の魂、ここに眠る」
という美しい言葉が刻まれていました。
しかし、その墓標を見つめながら、イデ隊員はつぶやきます。
「為政者(犠牲者?)はいつもこうだ。文句だけは美しいけれど」
この短い言葉が、胸に突き刺さりました。
生きているときには助けようとせず、不都合な事実を隠し、最後には怪獣として抹殺する。それでいて、死んだ後には「人類の夢」や「科学の発展」といった美辞麗句を並べ、英雄として祭り上げる。
そこには、組織や国家の都合によって個人を犠牲にしながら、その責任を曖昧にしてしまう権力の姿が描かれています。
「為政者(犠牲者?)はいつもこうだ」という言葉は、科学技術や宇宙開発だけに向けられたものではないでしょう。
戦争や公害、労働災害、さまざまな政策の失敗など、社会の発展や国家の利益という大きな言葉の陰で、声を上げることもできず犠牲になった人々は少なくありません。
私たちは、犠牲になった人を後から顕彰するだけでなく、なぜその人が犠牲になったのかを考えなければなりません。そして、同じことを繰り返さないために、組織や政治の責任を問い続ける必要があります。
この作品が放送されたのは、いまから約60年前です。
当時、この番組を見ていた子どもたちは、ジャミラの悲しみや、イデ隊員の言葉をどこまで理解していたのでしょうか。おそらく私自身も、ジャミラの不思議な姿やウルトラマンとの戦いばかりを見て、物語の奥にある意味までは分かっていなかったと思います。
けれども、子どもの頃には分からなかった言葉が、大人になってから突然、重みを持って迫ってくることがあります。それこそが、優れた作品の力なのでしょう。
『ウルトラマン』は、怪獣を倒して終わるだけのヒーロー番組ではありませんでした。
誰が本当の怪獣なのか。
正義とは何なのか。
科学の発展のためなら、一人の人間を犠牲にしてもよいのか。
国家や組織が隠した不都合な事実を、私たちはどのように受け止めるべきなのか。
「故郷は地球」は、いまを生きる私たちにも、こうした重い問いを投げかけています。
ぜひ、いまの子どもたちにもこの作品を見てもらいたいと思います。そして、ジャミラをどう思ったのか、ウルトラマンはジャミラを倒すべきだったのか、イデ隊員の言葉をどう受け止めたのか、率直な感想を聞いてみたいものです。
子どもたちの答えの中に、私たち大人が忘れてしまった大切なものが見つかるかもしれません。
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