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大垣演劇鑑賞会、最後の公演に思う―50年間、ありがとうございました―

2026/6/21

2026年6月21日、大垣演劇鑑賞会の最終公演がありました。
演目は、前進座の『さんしょう太夫』でした。
この日、私は息子と一緒に会場へ向かいました。
大垣演劇鑑賞会としての最後の公演です。会場には多くのお客さんが来ておられ、長年この会を支えてこられた方々、最後の舞台を見届けようと足を運ばれた方々、それぞれの思いが静かに集まっているように感じました。
大垣演劇鑑賞会は、50年もの間、大垣の地に演劇を届け続けてきました。
年間5本前後の公演を重ねてきたとすれば、実に約250本もの舞台を、市民に届けてきたことになります。
50年で250本。
数字にしてみると、あらためてその歩みの重さに驚かされます。
一度や二度の公演ではありません。毎年、毎年、会員の皆さんが力を合わせ、劇団を招き、会場を整え、観る人を集め、芝居を大垣に届けてきた。その積み重ねが50年続いたのです。
これは本当にすごいことだと思います。
東京や大阪であれば、良質な舞台に触れる機会は比較的多いかもしれません。しかし地方都市では、演劇は決して身近なものではありません。そうした中で、大垣にいながら本物の舞台に触れる機会をつくってきた大垣演劇鑑賞会の存在は、とても大きなものでした。
私自身も、その恩恵を受けてきた一人です。
忘れられない光景があります。
1995年、『喜劇・キュリー夫人』の公演のときのことです。スイトピアセンターのアートギャラリーで、黒柳徹子さんが一般のお客様に交じって展覧会を鑑賞されていました。しかも、そのお姿は舞台衣装のキュリー夫人のままでした。
舞台の人物が、そのまま現実の空間に降りてきたような、不思議で、ぜいたくな時間でした。
地方都市に暮らしていても、こういう瞬間に出会える。
舞台の熱気や、役者の存在感や、物語の余韻が、日常の空間にまで広がってくる。
それは、演劇鑑賞会があったからこそ味わうことのできた時間でした。
劇団民藝の『根岸庵律女』も、私にとって忘れがたい作品です。
正岡子規の妹・律の生き方を描いた作品でした。
そこに描かれていたのは、歴史の表舞台に立つ人ではなく、その人を見えないところで支える人の姿でした。
華やかではないけれど、確かに誰かの人生を支えている。
その姿に、深く心を動かされました。
演劇の魅力は、単に物語を楽しむことだけではありません。
登場人物の生き方に触れ、自分とは違う人生を想像し、人の痛みや喜びに心を寄せることができる。
時には、自分の人生を振り返るきっかけにもなる。
そこに、演劇の大きな力があると思います。
今回の最後の公演『さんしょう太夫』も、まさにそうした力を持った舞台でした。
安寿と厨子王の物語は、つらく悲しい物語です。けれども、その中には、家族を思う心、人としての誇り、そして次の世代へ道を開こうとする強さが描かれていました。
私は、この最後の公演を息子と一緒に観ることができて、本当によかったと思っています。
もちろん、息子がこの舞台をどのように受け止めたのかは分かりません。
物語のすべてを理解したかどうかも分かりません。
けれども、同じ空間で、同じ舞台を観て、同じ時間を過ごしたこと。
それだけでも、私にとっては大切な記憶になりました。
文化というものは、すぐに結果が出るものではないのだと思います。
その日に観た芝居の意味が、その日にすべて分かるとは限りません。
けれども、何年も経ってから、ふとした瞬間に一つの場面や一つの台詞がよみがえることがあります。
私にとっての『喜劇・キュリー夫人』や『根岸庵律女』がそうであったように、今回の『さんしょう太夫』も、息子の心のどこかに、静かに残ってくれたらうれしいと思います。
大垣演劇鑑賞会は、50年の歴史に幕を下ろしました。
これは本当に残念なことです。
しかし、その50年は決して消えるものではありません。
約250本もの舞台を大垣に届け、多くの人の心に記憶を残してきた。その歩みは、このまちの中に確かに刻まれていると思います。
最後の公演が、前進座の『さんしょう太夫』であったことにも、何か象徴的なものを感じました。
前進座。
「前に進む」と書きます。
大垣演劇鑑賞会としての歩みは、ここで一区切りとなります。
けれども、そこでいただいたもの、観せていただいた舞台の数々、心に残った場面や言葉は、これからも私たちの中に残り続けます。
安寿が厨子王のために道を開いたように、文化もまた、誰かが次の誰かのために道を開いていくものなのかもしれません。
大垣演劇鑑賞会の皆さま、50年間、本当にありがとうございました。
約250本もの舞台を、この大垣に届けてくださったことに、心から敬意と感謝を申し上げます。
最後の舞台を息子と一緒に観ることができたことを、私はきっと長く忘れないと思います。

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種田 昌克

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