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種田 昌克 ブログ

タコが入っていない「たこ焼き」は許されるのか

2026/6/17

6個入りで100円のたこ焼き屋さんがあります。
いつも中高生の行列ができている人気店です。私もその店の前を通るたびに、「よく並んでいるなあ」と思って見ています。ただ、私は何事も並ぶのがあまり好きではありません。人気のラーメン店でも、行列を見るとそれだけで気持ちが引いてしまうタイプです。ですから、そのたこ焼き屋さんでも、実はまだ一度も買ったことがありません。
ところが先日、知人がその店に並んだそうです。
すると、すぐ前に並んでいた高齢の女性が、親切にこう教えてくれたそうです。
「ここはタコじゃなくてイカだからね」
知人は「えっ」と思ったそうです。
そして、実際に作っているところを見ると、たしかに小さくさいころ状に切ったイカを、生地の中に入れていたとのことでした。
では、その知人は「タコが入っていないなら買わない」と言って帰ったのか。
そうではありません。
結局、買って食べたそうです。
「うまかったのか、まずかったのか」と聞くと、「まずまずうまかった」とのことでした。6個入りで100円。しかも、かつお節もかかっている。マヨネーズが必要な人は、10円追加すれば袋入りのマヨネーズをつけてもらえるそうです。
それなら十分ではないか、と私は思いました。
しかし、知人は納得がいかない様子でした。
「タコが入っていないのに、たこ焼き屋というのはどうなのか。せめてイカ焼き店にした方がいいのではないか」
たしかに、言われてみればその通りです。
たこ焼きというからには、タコが入っていると思うのが普通です。もしメニューにも看板にも何も書かれていないなら、「それは少し違うのでは」と感じる人がいても不思議ではありません。
ただ、ここでふと疑問がわきます。
そもそも、たこ焼きの定義とは何なのでしょうか。
もちろん、一般的には「小麦粉の生地の中にタコを入れて、丸く焼いたもの」がたこ焼きです。ところが、辞書的な説明を見ても、必ずしも一枚岩ではありません。たこ焼きを「刻んだタコやイカの足、ネギ、ショウガ、干しエビなどを入れて焼き上げたもの」と説明しているものもあります。つまり、広い意味では、イカが入っていても「たこ焼き」と呼ばれる余地が、まったくないわけではないのです。
そう考えると、「たこ焼き」という言葉には、二つの意味があるのかもしれません。
一つは、文字通り「タコが入った焼き物」としてのたこ焼き。
もう一つは、あの丸い鉄板で焼かれ、ソースやかつお節がかかり、舟皿に乗って出てくる、あの形状と雰囲気を含めた食べ物としてのたこ焼きです。
後者の意味でいえば、中身がタコでなくても、たこ焼きと呼ばれているケースはあるのではないでしょうか。
たとえば、チーズ入りたこ焼き、エビ入りたこ焼き、ウインナー入りたこ焼きなどもあります。厳密に言えば、それらはすでに「タコだけのたこ焼き」ではありません。それでも多くの人は、それをたこ焼きの一種として受け入れています。
だとすれば、イカ入りのたこ焼きも、まったく別物とまでは言えないのかもしれません。
もちろん、値段が安ければ何をしてもよい、という話ではありません。食べ物である以上、安全であることは大前提です。また、明らかに人をだますような売り方であれば、それは問題です。
ただ、そのお店は6個入りで100円です。
私は知人に言いました。
「でも、100円なんだから、そこまで文句を言うのはどうなのだろう」
すると、話は少し面白い方向へ進みました。
では、200円だったら文句を言ってもよいのか。300円だったらどうなのか。いくらを超えたら「タコが入っていないじゃないか」とクレームをつけてよいのか。
その分岐点は、いったいどこにあるのでしょうか。
これは、なかなか難しい問題です。
いまや観光地でたこ焼きを食べようと思うと、なかなかの値段がします。大阪の道頓堀に行けば、たこ焼き6個で最低1000円はする、という感覚すらあります。少なくとも、財布から1000円札を出す覚悟で観光地の店に並ぶ人は多いのではないでしょうか。
もちろん、道頓堀のたこ焼きには道頓堀の価値があります。観光地で食べる楽しさ、店の雰囲気、ブランド力、そして本場・大阪で食べているという満足感も含めての値段なのでしょう。
一方で、この店の100円たこ焼きには、また別の価値があります。
学校帰りの中高生が、小銭で買える。部活帰りに友だちと立ち寄れる。ちょっとお腹がすいたときに、気軽に食べられる。そうした日常の中にあるありがたさです。
いわば、費用対効果です。
100円で、温かいたこ焼き風のものが6個食べられる。学校帰りや部活帰りの中高生にとって、それはとてもありがたい存在なのかもしれません。中身がタコであろうがイカであろうが、彼らにとっては大きな問題ではないのでしょう。
おそらく、彼らの多くは、中に入っているのがタコではなくイカだと知っているのではないでしょうか。それでも並んで買っている。つまり、彼らにとっては「タコかイカか」よりも、「100円で6個食べられる」「そこそこおいしい」「小腹が満たされる」ということの方が大事なのだと思います。
もちろん、もし高校生たちがある日突然、「タコが入っていないじゃないか」と言い出して、その店を支持しなくなれば、それはそれで仕方のないことです。商売というのは、最終的にはお客さんに選ばれるかどうかです。
しかし現状では、多くの人が並び、多くの人に支持されています。
それならば、中身はイカでもよいのではないか。
そんなふうにも思います。
この話は、単なるたこ焼きの話のようでいて、実は少し考えさせられます。
私たちは、物事を見るときに、どうしても「名前」と「中身」が一致しているかを気にします。たこ焼きならタコが入っているべきだ。ラーメンならこうあるべきだ。行政サービスならこうあるべきだ。政治家ならこうあるべきだ。地域の行事ならこうあるべきだ。
もちろん、原則は大切です。
しかし一方で、利用する人、支える人、喜んでいる人がいるのであれば、その現実もまた大切です。
大事なのは、看板の正しさだけではなく、実際に人の役に立っているかどうかではないでしょうか。
100円のイカ入りたこ焼き。
それを「看板に偽りあり」と見るのか、「中高生の胃袋を支えるありがたい店」と見るのか。
同じものを見ても、人によって感じ方は違います。
私はまだその店のたこ焼きを食べたことがありません。
相変わらず、行列に並ぶのは苦手です。
しかし、そこまで多くの中高生に支持されているなら、一度くらいは並んで食べてみてもよいのかもしれません。
そのとき私は、たぶん心の中でこう思いながら食べることになるでしょう。
「これはタコではない。でも、これはこれで、たこ焼きなのだ」と。

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種田 昌克

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