2026/7/3
自民党では久しぶりに「日本版マイスター制度」に関して提言を取りまとめることとなりました。ヒアリングにご協力くださった皆様へ感謝します。木原官房長官はじめ、片山金融担当大臣、松本文科大臣、国交省、経産省、厚労省にも提言を届けます。

日本版マイスター制度に関するPT提言
1.現状認識と問題意識
我が党においては、平成27年に政務調査会の下に「日本版マイスター制度に関する特命委員会」を立ち上げ、同年8月に中間とりまとめ(一次提言)及び平成29年に第二次提言を取りまとめ、「安さ」を過度に追求する社会から「付加価値」を認め合う社会への変革を促し、職人が高く評価され、生き生きと活躍できる「日本版マイスター制度」の確立に向けた議論を行ってきた。
これらの提言を受け、政府関係省庁においては着実に各種施策が実行に移されてきた。例えば、「職人の『稼ぐ力』確立応援パッケージ」に基づくビジネス・創業支援の展開(中小企業庁)をはじめ、若年者の技能検定受検手数料の減免措置(厚生労働省)、グッドスキルマーク事業の創設(厚生労働省)、現場の就業履歴を蓄積し処遇改善につなげるCCUSの運用拡大(国土交通省)などが進められてきた。
しかしながら、人口減少・少子高齢化が想定以上のスピードで進む中、依然として職人の後継者不足は深刻であり、我が国の高付加価値な生産基盤や伝統文化を支える「技能」が消失するリスクは残存している。特に、2028年に愛知県で開催される技能五輪国際大会が予定される中、過去の施策の成果と課題を総括し、時代に即した新たな支援のあり方を再構築することが急務である。
2.目指すべき方向性
(1)「技能を守る」の再定義
これまでの多角的な議論や、有識者等からのヒアリングを通じて浮き彫りとなったのは、一口に「技能を守る」と言っても、対象となる技能の性質や、それが消失した際に直面する社会的リスクには差異が存在するという事実である。時代に即した実効性のある政策を展開するためには、「技能」が果たす役割の解像度を一段引き上げ、概ね以下の三つのカテゴリに大別して整理・定義することが肝要である。
①文化財保護の要請から保護すべき技能
我が国の歴史的・芸術的アイデンティティを形成し、後世へと継承すべき伝統文化の存立基盤となる技能。(例:文化財の修理・保存技術、伝統的工芸品に係る技能等)
②インフラ維持の要請から保護すべき技能
国民生活の安全・安心や社会経済活動を根本から支える社会インフラを構築し、また適切に維持・更新していくために必要不可欠な技能。(例:建設産業における現場技能等)
③産業競争力の維持のための技能
我が国の中核産業において、高付加価値な製品・サービスを創出し、熾烈なグローバル市場における国際競争力を力強く牽引するための技能。(例:最先端のものづくり技能等)
(2)関係省庁の役割分担
「技能を守る」という国家的な課題に対処するにあたり、対象となる技能の性質やそれに求められる振興・保護のアプローチは多岐にわたる。また、対象とすべき技能か否かの選別についても、一律に線引きをするのではなく、それぞれの趣旨目的に沿って整理することが適当である。したがって、単一の枠組みに押し込めるのではなく、それぞれの領域に精通する担当省庁が、その専門性を存分に活かして主体的かつ機動的に政策を検討・運用していくことが最も適切である。
前述のカテゴリに基づき、今後の政府内における役割分担を以下のように整理し、推進していくべきである。
第一に、「①文化財保護の要請から保護すべき技能」については、文化財の保存・継承体制の構築を担う文化庁を中心に、伝統技術の保護と担い手支援を強力に推進する。
第二に、「②インフラ維持の要請から保護すべき技能」については、建設現場等における処遇改善や生産性向上を所管する国土交通省を中心に、持続可能な就労・技能継承環境を整備する。
第三に、「③産業競争力の維持のための技能」については、経済産業省を中心に、成長戦略の視点から職人や企業の自律的発展を後押ししていく。
そして、これら三つのカテゴリ全てに共通する最重要基盤が「人づくり」、すなわち教育訓練を通じた次世代への技能継承である。これについては、専門高校等の学校教育を通じて産業界の変化に即応した職業人材を育成する文部科学省と、技能検定制度の拡充や技能競技大会の推進、社会実践的な職業能力開発を担う厚生労働省が両輪となり、密接な連携の下にシームレスな支援体制を構築・担当していくことが適当である。
現在の各省庁の任務に照らせば、これらの施策を横串的に管理し、総合調整する機能を持つ省庁は存在しない。このため、各省庁の施策の実施状況については、本PTにおいて、継続的にフォローアップを行うことにより、司令塔機能を果たすこととしたい。
3.今後に向けた提言
上記の目指すべき方向性を踏まえ、我が国が誇る技能を持続的に継承・発展させるため、各担当省庁が連携して当面取り組むべき課題と、社会情勢の変化を見据えて今後更なる検討を要する中長期的な課題を以下のとおり整理する。各省庁における各施策の実施に向けて前向きな検討を期待する。
(1)当面取り組むべき課題
・「文化財の匠プロジェクト」の策定等を通じた支援(文化庁)
文化財保護のために不可欠な技能(選定保存技術等)について、持続可能な技能の保存・継承体制の構築を図るため、「文化財の匠プロジェクト」の次期計画を策定すること。特に、後継者不足が深刻化し、技術断絶の危機にある技能を特定し、いわゆる「最後の一人リスト」として整理・可視化すること。また、用具・原材料の安定的な確保や伝承者育成に対する支援を抜本的に強化すること。
・「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想(アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援)」の推進(文部科学省)
産業構造や仕事の内容が急速に変化する中、専門高校において変化に即応した職業人材を育成することが急務である。これまで実施されてきた、産業界等と専門高校が一体となって企業等から管理職相当(CEO)や産業実務家教員を招聘する「マイスター・ハイスクール」の取組は、新たに創設された高等学校教育改革促進基金による「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想(アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援)」へと継承されている。この新たな枠組みの中で、マイスター・ハイスクールが培ってきた最先端の職業人材育成エコシステムを確実に発展させ、全国的な専門高校の機能強化・高度化を強力に進めること。
・職業教育の充実と専門高校等の維持支援(文部科学省)
義務教育の段階から労働市場や職業に対する意識を涵養し、個々人の意欲と適性に応じて、工業系高校をはじめとする職業教育を主体的に選択できる環境を整備すること。また、地域創生を支える核となる専門高校の機能強化・高度化に向けた一層の支援を検討すること。このほか、大学等だけでなく工業系高校の活用も含めたリカレント教育(学び直し)の充実を図ること。
・「ブルーカラービリオネア」の育成支援(経済産業省)
優れた技能を持つ職人が、その付加価値に見合った適正な対価を得て、 経済的にも高く評価される社会を構築することが必要である。職人の経営ノウハウの向上や創業支援及び物価高騰等にも対応できる経済支援、さらには自らの強みを活かした海外市場開拓などのビジネス支援を包括的に強化し、高い収益力を誇り自律的に成長できる職人や事業者、いわゆる「ブルーカラービリオネア」の育成・輩出を後押しする施策を推進すること。
・「グッドスキルマーク」事業の復活と普及(厚生労働省)
一級技能士等が製品等の完成まで一貫して関与した製品に付与される 「グッドスキルマーク」は、消費者が技能による付加価値を認知し、技能者が適正な対価を受けるための有効な手段であった。現在休止中となっている本事業の復活に向けて前向きに検討するとともに、その認知度向上、実効性確保のため、関係省庁と連携して、公共事業等における一級技能士や「グッドスキルマーク」の要件化等も含めた、その普及・啓発活動を推進すること。
・「技能検定3級」職種の更なる拡充等(厚生労働省)
技能継承の強固な土台を築くためには、エントリークラスの若年技能者や他分野からの転換人材の育成が不可欠である。若年者の受検を促す環境整備を継続するとともに、ニーズが高く、業界団体等の協力が得られる分野について、これまで以上に技能検定3級の対象職種の一層の拡大や、受検しやすい環境整備・他分野からの転換人材が訓練を受けやすい環境整備を検討すること。また、民間ニーズに即した訓練環境の整備のため、訓練校の認可基準も含め、その運用のあり方について、民間事業者の意見を聴取した上で、必要な見直しを検討すること。
・「2028年技能五輪国際大会」の機運醸成(厚生労働省)
若年技能者の目標付与と裾野拡大のため、「若年者ものづくり競技大会」や「技能五輪全国大会」等の各種競技大会を強力に推進すること。特に、2028年に愛知県で開催される「技能五輪国際大会」に向け、官民を挙げた機運醸成と支援体制の強化を図ること。
・技能の「見える化」と処遇改善に向けたシステムの推進(国土交通省)
技能の維持・向上には、それに見合った適正な処遇が不可欠である。国土交通省が進める「建設キャリアアップシステム(CCUS)」のように、技能者の資格や就業履歴を業界横断的に蓄積し、経験や能力に応じた適切な賃金支払い(処遇改善)に直結させる仕組みの普及・拡大を強力に推進すること。
・金融機関を通じた技能マッチングと「企業価値担保権」の活用(金融庁)
地域の金融機関を通じた伴走支援により、職人の技術や伝統的工芸品等のブランディング・販路開拓等で新たな付加価値が創出されている先進事例の横展開を図ること。また、事業の将来性や技術・ノウハウ等に着目して資金調達を後押しする新たな制度「企業価値担保権」の活用を促進し、職人や企業の持続的な成長に向けた資金供給の円滑化を図ること。
(2)今後の検討課題
・インバウンド需要と技能の活用可能性:南部鉄器がフランス向けに新たな 需要を創出した事例等も踏まえ、我が国の高い技能や伝統技術とインバウンド需要を掛け合わせた新たなビジネスモデルや付加価値創出の可能性について、引き続き検討を進めること。
・働き方改革と技能維持のための教育訓練・研修の関係整理:技能維持のためには絶え間ない教育訓練や自己研鑽が必要不可欠である一方で、働き方改革を進める現場においては「どこからが自己研鑽であり、どこからが労働(研修)なのか」といった深刻な悩みが存在している。こうした実態を十分に考慮し、技能継承との均衡も踏まえつつ、働き方改革全体のあり方について、引き続き検討を進めること。
・新たな外国人材制度(育成就労等)下での教育とキャリアパス:人口減少下における深刻な人手不足に対応するため、技能実習制度に代わる新たな「育成就労制度」の導入を見据え、外国人材に対する効果的な技能訓練・教育のあり方や、CCUS等と連携したキャリアパスの構築について、関係省庁と連携して早期に検討を進めること。
・芸術・アートを支える経済界からの持続的な支援体制:芸術・アート分野は、既存の経済政策や文化財保護の枠組みからはみ出してしまう部分もあるが、そこに伴う高度な技能も多く存在する。個人のパトロン的な支援に留まらず、経済界全体としてこれらを支え、育成していくための持続可能な支援体制のあり方について、引き続き検討を進めること。
4.結語
本報告書において多角的に論じてきたように、我が国の極めて高い技能を持続的に継承していくためには、政府横断的な政策支援や産業界の尽力が不可欠である。しかしながら、それと同等に忘れてはならないのが、消費者一人一人の理解と行動の重要性である。
技能がもたらす高い付加価値は、最終的な製品やサービスの享受者である消費者がその真の価値を認識し、適正な対価を支払う社会環境が形成されなければ、維持することは極めて困難である。過去の提言等でも触れたとおり、我々は、これまで長らく続いた「安さ」のみを過度に追求する社会から脱却し、「付加価値」を認め合い、職人が正当に評価される社会へと変革していかなければならない。これは、「規模」や「量」だけを追うのではなく、「質」や「価値」、そして社会としての「成熟」に重きを置く価値観への転換でもある。
また、「技能」は知識として保存するだけでは必ずしも十分ではない場合もあり、その能力を絶えず発揮し続ける実践の場があってこそ維持・研鑽されるという特質を持つ。例えば、コロナ禍において、花火職人の技能維持と継承のために、あえて無観客で花火大会が実施された事例は、技能を発揮する機会を確保し続けることの切実な重要性を物語っている。技能を維持できないリスクは、職人個人の問題ではなく、消費者自身の生活や文化を貧困化させることにも直結する。
我が国の伝統と革新を根底で支える「技能」は、国家の宝である。技術立国として世界のものづくりを日本が支えていることへの誇りを醸成するため、伝統的工芸品やものづくり産業全般、そしてそれらを支える工業系高校の重要性の啓発に加え、本提言に掲げた各種施策の早期実現を政府に強く求めるとともに、それらの前提とも言うべき消費者教育や国民への啓発活動を通じて、社会全体で職人の「技能」を守り、育て、そして次世代へとつないでいく機運を醸成するため、引き続き各省庁一丸となった取組の推進を期待する。



https://www.jimin.jp/news/policy/213699.html
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