
7月14日公開の「選挙ドットコムちゃんねる」では、山本太郎代表が辞任を表明したれいわ新選組について、これまで取材・分析を重ねてきたノンフィクションライターの石戸諭氏が解説!日本の左派ポピュリズム、そして新興政党の特徴についても、MCの選挙芸人・山本期日前氏と解説していただきました。
石戸氏:僕はれいわ新選組が出てきた2019年参院選で、日本で初めての左派ポピュリズム政党が誕生したっていう原稿をいち早く書いたんですよ。こないだ、れいわを研究している政治学の研究書を読んでいたら、「れいわ新選組は日本版左派ポピュリズム政党である。いち早く位置付けたのは石戸諭である」と明記されていました。この政党の性格を明確に位置づけた人間として、政治学者の間でも評価していただけていたのは嬉しかったですね。名付け親というか、左派ポピュリズム政党だとしっかり位置づけた功績があります。(中略)
MC期日前氏:左派ポピュリズムというと、ニューヨークのマムダニ市長の誕生なども話題になりました。
石戸氏:それから、アメリカ下院議員のアレクサンドリア・オカシオ=コルテスらの路線に、れいわはかなり近いと僕は思っています。良くも悪くも、れいわは世界のトレンド、少なくともアメリカの左派のトレンドを日本で先取りしていたと思います。
MC期日前氏: アメリカやヨーロッパで起きていることが日本にやってくるパターンは多いですが、これに関しては日本が先行していたと?

石戸氏: ヨーロッパの基準から比べると「遅れてきた左派ポピュリズム」ではありますが、アメリカ版の動きと比べると面白い。僕は山本太郎さんに関して、ある種「不幸なところ」があると思っていてね。
マムダニやコルテスが躍進すると、左派系の人たちはすぐそっちに飛びつくじゃないですか。でも、アメリカでいう「社会主義」と日本におけるそれは全然違うんです。アメリカにおける社会主義的な主張というのは、「福祉を拡充しろ」「再分配をしろ」「住宅政策や貧困層にもっと目を配れ」「課税強化しろ」といった内容が中心です。
MC期日前氏: 日本でいう「健康保険(の主張)イコール左派」のようなイメージですか?
石戸氏: まさにその通りです。だから、彼らの政策を見ると、はっきり言って今の東京都の方がかなり先に進んでいる部分があるんですよ。東京都は国の制度も含めて、0歳から6歳までの保育の事実上無償化に踏み切りましたし、高校授業料も実質無償化へ舵を切った。区によって差はありますが、幼児の医療費だってかなりの割合で無料です。これを海外の都市インテリ層に伝えたら、「日本って社会主義国なのか?」という感じになると思いますよ。
MC期日前氏: 海外から見るとそういう目線になるんですか。
石戸氏: 特にアメリカのマムダニの主張をみると、日本ではほとんど実現しているか、それ以上に進んでいる。だから彼らからすると「東京ってすげえな」となると思います。
MC期日前氏: じゃあ、小池百合子都知事が左派ポピュリストみたいに見えるということですか。
石戸氏: アメリカ的な基準で言ったら「社会主義者」に見られてもおかしくない(笑)。それくらいアメリカにおける社会主義のハードルはそこにあるということです。だから日本で同じことをやろうとしても、すでに結構な部分が実現してしまっている。やっていないことと言えば、金持ちへの「課税強化」くらいですが、今の東京都にそれをする必要があるかと言えば、税収は普通に入ってきているからむしろ「減税しろ」という声の方が勢いがあるわけです。
ただ、税金の使い方の方向性として、アメリカの左派が言っているような再分配的なものに近い形(再分配になっているかは疑義がありますが)は、ざっくり言えば東京ではすでに機能している。
それを踏まえて山本太郎さんの姿勢を見ると、「1対99(1%に富が集中し、俺たちは残りの99%だ)」という姿勢や、2019年の参院選で見せたような「消費税廃止・減税」という強烈な再分配の訴えは魅力的でした。足りない分は金持ちから取るんだという主張ですね。
国政において、消費税減税というテーマをここまで広げたのは山本太郎さんの影響がすごいと思います。「消費税廃止」と言って、「それ、言っていいんだ」という空気を作った。共産党だけではここまで広がらなかったところに、山本太郎が現れた。演説とかを聞いていても圧倒的に上手い。

MC期日前氏:モニターを使いながら、疑問視しながら見ている人も「そういう面もあるのか」と納得させていました。
石戸氏:熱量が高いところも含めて、彼は稀代のポピュリストだったと思います。
MC期日前氏: これまで日本の左派系で、そこまで知名度と人気を兼ね備えた人は最近いなかったですよね。
石戸氏: そこに2019年に突然現れた左派ポピュリズムという感じです。
僕は基本的に、山本太郎が過去に福島や原発の問題に関して発言してきた内容には相当問題があると思っていましたし、「それはどうなのよ」と批判的に見ていました。ただ、それとは別に、彼が意図したかどうかは分かりませんが、やっている手法・主張は完全にポピュリズムに接近していた。
ここで言う「ポピュリズム」は悪口のレッテルではなく、政治学的な定義に基づいています。ポピュリズムというのは気持ちの良いことを言っていればそれで良いというものではありません。ざっくりと言うと、ポピュリズムは右でも左でも真ん中でも色んなものと結びつく、非常に柔軟なものです。さらに、【罪なき人民(市民) vs 腐敗したエリート(既得権益)】という敵対する二つの陣営の構図を作ること。
これは元N党の立花(孝志)さんも使った方法ですし、参政党の神谷(宗幣)さんも使っています。山本さんも使っている。こう考えると、今出てきている新興政党は、みんなこのポピュリズム的な手法を使っているんです。
MC期日前氏: 「対権力」みたいな構図ですよね。
石戸氏: そうです。かつ、「その権力が腐敗して機能不全に陥っている」という構図ですね。「エリートはダメだ」と。エリートの中にはメディアや永田町の国会議員・既成政党、官僚、経済人などが含まれます。彼らに対して「あいつらよりも俺たちの方が答えを知っている。そして俺たちの後ろには、色んなものを奪われた無垢なる市民がついている」という構図を作る。これが左派的な主張と結びつくか、右派的な排外主義、あるいは減税や反メディアと結びつくかで政党のカラーが変わる。いずれにしても僕がポピュリズムと言う時は、こういう二項対立を作って政治を動かそうとする人たちのスタイルを指しています。
その中で、左のゾーンのポピュリズムをがっつり掴んだのがれいわ新選組だった、というのが僕の見立てです。
MC期日前氏: なるほど。だから既存の左派ポジションである立憲民主党などには、このポピュリズムの枠に入れなかったわけですね。
石戸氏: 入れないですね。一時期の枝野(幸男)さんはその空気がありましたが、結局は永田町の流儀にのっとった人でした。山本太郎は永田町の流儀にのっとらない人なんですよね。
れいわは2019年参院選で「れいわ旋風」を起こし、今でも覚えていますが、当時は朝日新聞などのリベラル系メディアの記者も「これが新しい民主主義だ」みたいな。山本太郎のためになけなしの金を握りしめてカンパしていると。
MC期日前氏: 当時、演説会場でのカンパ集めなどはものすごく話題になっていましたね。
石戸氏: かたや自民党は企業献金、企業や財界人が多額の寄附をする。ところが、無垢なる市民が必死になって稼いだ・貯めたお金を、握りしめてしわくちゃになった千円札を置いてくれるんです、という話を美談としてめちゃくちゃ取り上げていました。僕も「確かにそうだけど、もうちょっと俯瞰して見よう」と思って追いかけて、本人や周囲にインタビューを重ねる中で分かったのは、山本太郎さんは「元祖選挙フェス」の人だということです。最近は「選挙はフェスであり、祭りである」ということをこぞっていうようになってきましたが、先取りしていた。
MC期日前氏: 音にこだわっていますよね。演説の後ろで演奏している人がいますよね。
石戸氏:音響やバンド編成、サウンドの充実にめちゃくちゃこだわっています。これでドン引きする人もいるかもしれないけれど、僕は結構先どりしてたのではないかと思います。スマートでシュッとした出で立ちも含めて今までの政治家とは違う人に見える。元俳優・バラエティタレントとしてのメディア慣れしていることも大きい。カメラの前で臆せず話せることは意外と重要です。普通、カメラの前では人間は普通にしゃべれない。
MC期日前氏:「化け物」級の能力ですよ。
石戸氏: 普通の政治家だと、誰が聴いているか分からない街頭ではたどたどしくなったり、声が小さくなったりしますよね。そう、自分が恥ずかしくなっちゃう瞬間があるんです。だけど山本さんの引きつける能力は群を抜いている。あれは教えられてできることではない。実際に、普通の人が足を止めてるんだもん。
MC期日前氏:僕も最初見た時は動員かと思いましたが、全くそんなことはない、普通の帰宅途中のサラリーマンが足を止めてじっと聞き入っていきますよね。
MC期日前氏:ああいう票の掘り起こし方ができる政治家は日本にはそうそういません。
MC期日前氏:知名度のある政治家でも、普通はカメラだけ撮って通り過ぎる人が多く、段々減っていきますね。
枝野さんが立憲を立ち上げた時は悲壮感があったから同情で応援していた人もいましたが、山本さんの場合はそれとはまた違う能力でした。これは色んな人たちが認めるべきです。
ところが、彼が一番失敗した、あるいはおそらく失敗したと思っていたのは野党共闘だったと思います。
MC期日前氏: 選挙区の調整ですか。
石戸氏:選挙区調整も含めてです。2021年の衆院選の時、東京8区(杉並区)から山本さんが出るか、立憲の吉田晴美さんが出るかで「東京8区問題」という騒動がありました。最終的には山本さんが折れる形になりましたが、裏では「参院選に回るなら」という何らかの打診や約束があったとされています。しかしそれが不十分な形になり、揉めに揉めた。山本さん側は相当なフラストレーションを溜めていましたよね。
MC期日前氏:本来なら「権力に向かって立ち向かう」ポジションのはずが、権力を振りかざして女性候補者を下ろすように見えてしまった。
石戸氏:これは本意ではなく、おそらく約束が不十分なものだったのでしょう。これを機に、れいわは野党共闘を離脱して独自路線へと舵を切ります。結果として、2024年衆院選と2025年参院選では比例票を380万票ほどまで伸ばした。野党共闘をやめた方が政党としては勢いがつくんですよね。150万くらい増えているので。
MC期日前氏:野党に対しても批判的なポジションを取っていましたもんね。
石戸氏:そう、だから独自路線で言った方が票は取れるんですが、ここでまた別の「ジレンマ」に陥る。これこそが僕の考える「日本におけるポピュリズムの限界」です。今の衆院選の小選挙区制の仕組みでは、新興政党は小選挙区での議席が取れない。参院選の1人区でも取れない。そうなると比例頼みになる。結果として、都市部の比例票の掘り起こしだけに終始してしまう。
MC期日前氏:一定のラインから先は伸ばせる余地がなくなってしまうということですね。
石戸氏:だから、ガーンと伸びて「9議席はすごい」となるけれど、2月の衆院選では1議席にまで減りました。
MC期日前氏:特に都市部では3年に1回、新しい政党が出てきますもんね。
石戸氏:都市部の風頼み政党になってしまいます。ただ、僕は山本太郎に関しては一貫して粘るべきだという立場なんです。本当にれいわを大きくしたいのなら、はっきり言うと山本太郎以外に看板はいないと思います。確かに秘書給与のスキャンダルがありましたが、身内の告発です。どこまで正しいか分かりませんが、これまでの会見を聴く限り何らかの処分や進捗があるようです。(中略)少なくとも、山本太郎の一枚看板であるということは2026年衆院選において分かったわけです。れいわの得票数は167万票まで減り、半減しました。これは「風の終わり」を意味しています。
MC期日前氏:伸びてた分が減ったという印象があります。
石戸氏:独自路線の左派政党として、山本太郎1人がいるだけで最大380万票まで伸ばせた実績はすごいですし、今回の167万票も「いずれ山本太郎が復帰するかもしれない」という期待票かもしれない。そう考えると、山本さんが票を伸ばしたのはでかいと思います。
MC期日前氏:2019年に1人で99万票とっているんですよね。だから、あの人が出たらひとまず1議席はとれますね。
石戸氏:そういう意味で言うと、地方議員が弱いのは致命的な弱点だと思います。左派政党によくある話ですが、組織作りが苦手。共産党はすごい組織力がありますが、新興政党だと足腰が弱くなる。僕は参政党は右派ポピュリズム的な性格があると思いますが、その性格も大分弱くなってきていて、いずれ普通の右派政党になると思います。組織をつくっていこうとか、小選挙区に支部をつくるなど地域に根差してやっていこうとしています。彼らのやり方で小選挙区で勝とうと思ったら、自民党と競合するためにウイングを真ん中に広げなければならない。これまでの懸念されているような主張はどうやってもさすがに強すぎる。実現不可能な「消費税をゼロにして国債をバンバン発行すればいい」といった尖った主張や極論は言いにくくなる。尖った主張は一部に刺さって一気に伸びますが、真ん中の層には絶対に刺さらないので、マイルドにせざるを得ないんです。

ポピュリズムでバーンと跳ねた後は、じわじわやっていくしかない。おそらく神谷さんは気付いていて、参政党もこのままだと埋没しかねないことに気づいてくると、路線としては尖り続けるか、マイルドになるかしかない。地方に支部を立てて小選挙区で勝とうとするならマイルドにするしかない。しかし、れいわはその組織作りという面で弱かったと思います。
MC期日前氏:支援者は熱い方が多い印象ですが……
石戸氏:熱いけれど、熱さって続かないんです。そして、どう考えても「山本さんの政党」だから。参政党は「神谷さんの政党」、「国民民主党は玉木さんの政党」、組織を体現してくれるような強烈なリーダーがいる政党は、そのリーダーが引っ張り続けないと瓦解します。
それが今回のれいわの一連の騒動には色濃く出ています。つまり、山本太郎がいないとダメなんですよ。健康面の不安やスキャンダルを抱えている自覚もあるのでしょう。でも、山本太郎がいないとれいわは崩壊します。で、左派ポピュリズムは終わりです。
MC期日前氏:元々ネット上でもすごかった。発信も多く、TikTokでも一時期は山本太郎代表と神谷宗幣代表がツートップでした。しかし、山本代表が議員辞職した後の先日の衆院選でれいわは全く話題にすらならなくなりました。
石戸氏:山本太郎の過激な部分や尖った部分をパフォーマンス的に引き継ごうとしても、それは無理なんです。大石(晃子・共同代表)さんの言動や国会でのふるまいなどは単なる「左派の悪目立ち」みたいになってしまう。
MC期日前氏:あの能力は再現性がないですよね。
石戸氏:好みは分かれますが、唯一無二の個です。僕はれいわの支持者ではなく、左派ポピュリズムにおける分析・取材対象としてきました。その上で、れいわが強かったのは山本太郎さんがいたからです。例えるなら「ハーランドのいないノルウェー代表」です。良い選手はいるし悪いチームではないけれど、彼がいないと決勝トーナメントの入り口止まりで、それ以上上には行けない。
MC期日前氏:トップの能力に代わる人がいないというのは、どの政党でも共通する傾向ですね。

石戸氏:そしてこれこそが、日本においてポピュリズムの波が他国に比べて穏やかである最大の理由です。
選挙制度上、比例で数議席は取れても伸びない。伸びるためには「既存の大きな勢力」を結節させていかなくてはならない。例えばアメリカなら二大政党制(民主党・共和党)なので、共和党ならトランプさんのような「ザ・ポピュリズム」みたいな人が「共和党という組織そのものを丸ごと奪い取る」という手法が使えます。共和党の中には穏健な保守派から強硬派まで色々いますが、「トランプの共和党」となります。左派も同じやり方で、民主党の中には穏健なリベラルもいれば現実的な人たちもいる、中道的な人たちもいる。トップを取れば、巨大な組織をそのままとれるということです。日本では組織が分裂しますが、自然と手に入る。(中略)日本でそれをやろうとしたら、山本さんが野党の中で主導権を握る「甲斐性」が必要でしたがありませんでした。よく我慢した方だと思いますが。
山本太郎の政治家キャリアは小沢一郎さんの「小沢イズム」から始まっています。れいわを実力組織に拡張し、他党とタフな交渉を行う能力がなければ、日本でポピュリズム政党が伸びていくのは相当難しい。(中略)基本的に衆院選と参院選の今の仕組みを維持していく限り、日本だとポピュリズム勢力っていうのがある時ガッと伸びて注目されることはあるけども、10~20議席で頭打ちになるっていうのが今の見立てです。
MC期日前氏: 今の制度の限りは、カリスマ的な人が出てきても基本的に新興政党で止まって、大きな政党にはなかなかなれない。
石戸氏:それで、いつの間にか既存政党になっていくサイクルに入っているんですよね。
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