「野党共闘で譲れないラインは『消費税5%』。野党がこれに乗れないと言うならば、私たちは次の総選挙で100人の候補を立てて独自に戦う」
自称「永田町の野良犬」、れいわ新選組(れいわ)の山本太郎代表が吠えている。
山本自身は7月の参議院議員選挙で落選し、6年間務めた参議院議員としての議席を失った。しかし、れいわは重度の身体障害者である木村英子、舩後靖彦の2人を「特定枠」で国会に送り出し、日本に9つしかない国政政党の一つとなった。新聞・テレビなどのマスメディアが選挙期間中にれいわの動きをほとんど報じない中、山本自身が全比例候補者の中で最多の99万2267票を獲得したことは“事件”ともいえる大きな「時空の歪み」だった。
山本の発言力が衰えないのは、選挙で目に見える数字と実績を示したからだ。
参院選後、山本は次期衆議院議員総選挙を見据え、党の街宣車とともに全国を遊説して回るツアーを開始した。そのスタイルは演説会場に集まった聴衆にマイクを渡し、ガチンコの質問に答えていく「街頭記者会見」だ。
演説会場では、山本やれいわに対する厳しい批判の声も寄せられる。北海道ツアーでは、高校生がれいわの主張する「消費税ゼロ」を論破しようとマイクを握った。九州・沖縄ツアーでは、山本への怒りに任せてマイクを投げつけて立ち去る者もいた。それでも山本はこのスタイルをやめようとしない。
「私はリアルに人とつながらなきゃ意味がないと思っています。リアルにつながって、リアルに話しているところを判断してもらう。そのことによる『その後の影響』の方が大きい」
山本は誰にでも発言のチャンスがある街頭記者会見を「ドブ板」と位置づけている。
「多岐にわたる問題を私一人でカバーできるはずがありません。だから最初に『みなさんが育てて下さい。みなさんが先生になってください』と言っています。これからも道場破り的な人たちが現れてきて、何かの分野においては破られることもあるでしょう。でも、私たちは逆に『それ吸収させてもらいます!』ってところで大きくなっていこうと考えている。だから、一切、負けはないんです」
政治への諦めや無関心は、50%を切った低投票率にも現れている。強者への批判は忖度で薄められ、弱者への攻撃は勢いを増す。そんな状況で政治参加へのハードルを下げていくことは、れいわが「新たな時空の歪み」を生み出せるかどうかの生命線になってくる。
「(街頭記者会見は)非常に効率が悪いように見えますけど、先々につながっていけばいいという思いでの『投資』ですね」
新興勢力のれいわは、資金力では既存政党にかなわない。現段階で強みがあるとすれば、票の上積みに対する期待値だ。山本は期待を集めるための旗を「消費税」一点に絞っている。
れいわは4月の結党以来「消費税廃止」を掲げてきた。しかし、野党である限り、直ちに政策を実現することは不可能だ。だから山本は「総理大臣になりたい」と公言し、「私たちに政権を取らせてください」と訴えてきた。
冷静に考えれば、今は夢物語にすぎない。れいわの現時点での議席は定数248の参議院で2つ。定数465の衆議院では0だからだ。
それでも山本は「3〜5年の間に『時空の歪み』を利用して総理大臣になりたい」と筆者に語ってきた。そこでここからは、山本の野望が実現する可能性について探ってみる。
まずは次期総選挙でれいわが野党共闘に加わらず、独自で100人の候補を立てるケースを考えてみる。これでは仮に全員が当選したとしても過半数には届かない。野党票も割れる。得をするのは与党側で「消費税5%」は絵に描いた餅で終わる可能性が高い。
また、独自で100人の候補を立てるには、各候補を支える選挙スタッフが必要になる。れいわはNHKから国民を守る党のように地方議員や選挙経験者を抱えているわけではないため、人的リソースがあるとは考えにくい。
そもそも、れいわの候補者公募は11月11日に始まったばかりだ。参院選での応募者が200人を超えたことを考えれば、簡単に100人は超えるだろう。しかし、勝てる人、勝たせたい人が集まるかは未知数だ。公募開始前の11月8日に聞いた時点では、「めぼしい人はまだ20名ぐらい」と山本は認めた。
資金面での課題もある。山本は全国ツアーで「次期総選挙の資金として20億円が必要」と訴えてきたが、寄付額は「まだ全然」という。億どころか、一週間の地方ツアー1回に必要な経費・約300万円の一部にあてる程度しかないと山本は言っていた。
つまり、れいわが総選挙を独自路線で戦う体制はまだ整っていない。現時点で「時空の歪み」を生み出せる可能性があるとすれば、「野党共闘での政権交代」ということになる。
今、山本が手にしている武器は、参院選で得た支持と期待値。もう一つは鉄砲玉としての役割だ。だから山本は「(野党共闘ができれば選挙区は)どこでも行ける」「お楽しみカードの一つとして使っていただける」と語り、候補者としての価値を最大化しようとしている。
筆者は参議院選終了後から、折に触れて山本に次期総選挙の見通しを尋ねてきた。何度も聞いたのは、野党共闘か独自路線かを決断する時期の見極めについてだ。
山本は「解散を宣言されてからじゃ遅い」と答えるものの、時期については明らかにしなかった。「立憲民主へのアプローチはどうするのか」と聞いても、「私たちからアプローチはなかなかできない。野党第一党がイニシアチブを取りながら、というのが一番なのかなと思っています。私たちは今、外堀から埋めようとしているので」と答えるにとどめてきた。その間、野党共闘の本丸である立憲民主党との間で表立った会談は行なわれていない。
しかし、「外堀」が全く埋まっていないわけではない。
山本は9月12日、共産党の志位和夫委員長の呼びかけに応じて国会内で会談。「消費税5%」で協力していくことを確認した。
9月13日には馬淵澄夫衆議院議員(無所属)が主催する「一丸の会」にゲスト講師として登壇。10月25日には馬渕とともに消費税5%への減税を目指す「消費税減税研究会」を立ち上げた。同研究会には、立憲、国民、社保、無所属などから22名が参加した。
さらに、11月2日には、玉木雄一郎国民民主党代表のユーチューブチャンネル『たまきチャンネル』で玉木と会談。山本は「(政策的には)ズレてない」と感触を話した。
塊になる可能性は、まだゼロではない。(文中敬称略)
(記事中の写真撮影:畠山理仁)
【編集部注】
本記事は前編・後編の二部構成です。
後編を15日に公開しました。
後編はこちら>>「山本太郎氏は永田町を動かし野党共闘を実現できるのか。れいわ新選組の道のりは険しい(後編)|畠山理仁」
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