7月7日投開票の東京都知事選挙では無所属の石丸伸二氏が、立候補者56人中2番目の約165万票を獲得しました。政権与党からの支援を受けて3選を果たした現職の小池百合子氏の票数とは大差がありましたが、野党勢力が支援した元参院議員の蓮舫氏を超えた次点という選挙関係者にとって衝撃的な結果でした。組織力も地盤もない無所属の新人候補が急激に支持を集めて得票した、いうなれば「石丸現象」はどのように起きたのでしょうか。独自の収集データや各種調査などから読み解いていきます。
石丸氏の都知事選戦略として突出していたのがYouTubeの活用でした。
今回の都知事選で得票数上位もしくは事前に有力候補としてあがっていた候補者7人のYouTube動画について、選挙ドットコムが選挙告示の前日(6月19日)から投開票日の前日(7月6日)まで独自に調べたのが以下の表です。
チャンネル登録者数もさることながら、注目してほしいのは選挙期間中の17日間に公開された関連動画数とその再生数です。
石丸氏の動画数も再生数も飛び抜けており、当選した小池氏と比べてもいずれも2倍以上となりました。
なぜこれほどの大差がつくことになったのでしょうか?
この謎を解くヒントがネット広告です。
選挙前の6月初旬に「広告経由のYouTube視聴回数」が上がった後のタイミングで「石丸」のWEB検索、「石丸」のYouTube検索が急激に上がっています。
この3要素の軌跡からは、利用者がまず広告経由で石丸氏の動画を見て、その後WEBで検索し、動画の検索へとつながったという行動がみてとれます。
石丸氏のバズりは偶然ではなく、広告が着火剤となったともいえるのです。
1点補足しておきますが、選挙期間に入る前の有料広告動画で、「選挙の特定」「候補者の特定」「得票の依頼」の3要素が入っていない内容であれば公職選挙法には抵触しません。今回の石丸氏の動画広告はこうした法律や媒体ごとの規則に従った形で発行しています。
さらに、各候補者のどんな動画が見られているのかを調べました。
この表は得票順の上位3人の名前がタイトルに入っている動画のリストです。
これらの動画の内容をみると小池氏と蓮舫氏の動画がそれぞれへの批判的な内容を含んだものがほとんどなのに比べて、石丸市の上位10チャンネルは選挙期間中の街頭演説や安芸高田市長時代の会見や議会答弁、などの切り抜き動画が多いのが特徴です。
報道の量や時間の枠が決まっている新聞やテレビに比べると、ネット番組はボリュームの上限がありません。こうした街頭演説やネット番組の出演した際の受け答えは、切り取り動画として急速に量産され、拡散されていきました。
YouTubeの特徴はエコチェーンバーです。石丸氏に好意的な動画を見た人は、次から次へと同様の動画が「おススメ」されて繰り返し見ることを促される環境に置かれます。さらに、情報の取得方法としてYouTubeを利用している層は投票意向が高い傾向があります。YouTube上で量産された❝石丸応援動画❞は、無党派層だけでなく、既存政党の支持層からも注目を集めやすい状況になりました。
マーケティングの理論に沿うと、こう仮定ができます。石丸氏を広告で「認知」し、「興味・関心」が湧いて検索をし、投票先として「比較・検討」した結果、「購入(投票)」した。
政治経験が豊富で、保守とリベラルの地盤を固めた小池氏と蓮舫氏に対して、新人で知名度の劣る石丸氏が無党派層が多い「ネット地盤」を固めていたと考えられます。
こうした石丸現象はネット上での知名度さえあれば再現可能なのでしょうか?そうとも言い切れません。石丸現象の総仕上げは、ネット上のバズリと地上戦をつなげることにあります。
石丸氏は選挙期間中1日10カ所以上の街頭演説に立ち、各現場で「写真や動画をとって拡散してください」「今日の思い出の1枚として家族や友達に見せてください」と呼び掛けました。夜はネットの討論番組や対談番組にも出演しました。
ポイントになるのは、「アテンションからファン獲得へ」という観点です。
まず、ネット広告でエコーチェンバーに引き入れてから、自身への投票へと導く仕組み、そして「ファンとして定着させるためのコンテンツやコミュニケーション」を充実させること、この流れを作ることこそ肝要です。
「既存マスメディアに頼れないとなると、ネットメディアしかなかった。しかし、ネットメディアにはマスメディアにない拡散力、伝播していく力があった」
7月19日公開の選挙ドットコムちゃんねるに出演した際、石丸氏は自身の選挙戦をこう振り返っていました。知名度が勝敗を分ける要因となる東京都知事選で、あまり知られていない「弱者」の立場から、いかに戦略的に知名度を上げていくかを意識したといいます。
選挙前のネット広告に加えて、選挙期間中には「公約の発表会見や候補者討論会など限られた露出の機会で最大限インパクトを出す」ことや、刺さる言葉選び、なども徹底しました。
また、リアルの場での選挙運動で、街頭演説も15分前後に区切って、演説を行う場所の数を増やしたのは聴衆の立場で企画したとも説明し、「相手の満足度を高めるというのは当たり前のサービス。その視点が政治にはない」と指摘。「国民のため、都民のためというのは行政サービスだけではない。普段の接し方、態度・姿勢からしてサービスすることが大事です」との考えを示しました。
今回の都知事選によって、ネット選挙解禁以来なんとなく漂っていた「空中戦より地上戦」「ネット選挙は亜流」という空気感が一気に変わりました。石丸現象は、政治にかかわりがなかった新人が政治に参画しやすくなるという希望もはらんでいるのではないでしょうか。
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