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噂される10月解散総選挙、その真相と注目ポイントは(選挙コンサルタント・大濱崎卓真)

2020/9/2

大濱崎卓真

大濱崎卓真

ここ1週間ほどで、永田町では総裁選直後に解散総選挙ではないか、という噂が再燃してきました。5月から6月に言われていた「10月13日公示、25日投票」という日程がまことしやかに言われています。実際のところどうでしょうか。

結論から言うと、筆者はここ数日注目されている「10月解散総選挙」は、そこまで現実的ではないと考えています。しかし、政変の永田町では朝令暮改も当然であり、今回の総理突然の辞任表明などもあることから、予断を許すことができません。今日の記事は今日時点での分析で、明日にも変わるような様相です。ですので、今回は解散総選挙の時期を見極めるためのポイントを中心に考えていきたいと思います。

外に目を向ければ野党合流に大阪「秋」の陣

解散総選挙をやるかやらないか、この判断はひとえに「勝てるか勝てないか」にあります。そもそも政権を担っている与党からすれば勝てないのにわざわざやる必要はありません。自民党の中の話をする前に、外の話に触れておきたいと思います。立憲民主の合流新党は、一応のゴールが見えてきました。代表選の実施を踏んで、臨時国会前の結党が確実です。

一方、玉木新党と呼ばれる玉木議員を中心とした政党も政党要件を満たす可能性が高まったほか、連合の影響が大きい同盟系組織出身の議員らが合流新党にも玉木新党にも入らないことで決まったとも報じられており、二大勢力は完全な大きな塊になることはかないませんでした。分党の方式や同盟系組織出身の議員らの方向性はこれから決まっていくことになりますが、この状況から選挙区調整や野党共闘体制の構築を早期に行うことは(地域にもよりますが)厳しいとみられることから、最短日程とも言われる10月解散総選挙は野党にとって不利になると思われます。

ただし、自民党にとっても必ずしも追い風という状況ではないはずで、現有議席から増やせるか、というよりは維持できるか、という選挙戦になるでしょう。

それでもなお解散総選挙をするならば、考えられるのは「自民・公明・維新」の選挙協力です。大阪都構想の住民投票が11月1日に行われる予定で、現在最終の調整が進んでいます。菅官房長官と近いと言われている松井一郎日本維新の会代表は、選挙のコスト削減や効率化からも同日の衆議院解散総選挙が望ましいと発言しており、ここに焦点を合わせる可能性もあります。

既に大阪では市長選にも立候補した元大阪府議の柳本顕氏ら数名が、大阪都構想の賛否問題で維新側の支援に回った公明党との直接対決のために、自民党を離党してでも小選挙区で公明・維新と戦うなどと発言しており、結果の見えた自民党総裁選よりも興味深い展開となっています。松井代表の発言通り11月1日に行われれば、大阪を含む関西地区では都構想に乗じて維新の躍進が期待されるほか、仮に自民党が(合流野党の勢いが思ったより強く)10議席程度を失ったとしても、憲法改正発議に必要な3分の2は維新と組めば可能な状態にできれば、選挙結果としては及第点と判断することもできるはずです。

維新は与(よ)党でも野(よ)党でもない「ゆ党」を標榜していますから、閣外協力ということになると思われますが、是々非々の政策論争の中で憲法改正さえ握っていれば、「自公維」の協力も現実的になるでしょう。また、後に触れる東京五輪が中止となれば、次の目標は2025年大阪万博になりますから、万博成功のために政府与党との連携をしっかり行うことは自民・維新双方にメリットがあるとの見方もできます。

ちなみに、11月3日にはアメリカ合衆国大統領選挙が行われます。バイデン氏がトランプ氏に先行していると言われていますが、まだ確実な状況とは言えません。安倍総理がトランプ大統領の当選決定後すぐにチャネル構築を急ぎトランプ氏の信頼を獲得したのと同様に、日本にとって最大の同盟国アメリカ合衆国の次期大統領が決定し次第すぐに首脳レベルでの外交チャネルを構築するためにも、11月3日時点で総理不在ということは避けると思われます。

 

予算概算要求が1ヶ月遅れている

来年度通常予算に向けて、財務省は各省庁から受ける「予算概算要求」の締め切りを、通例の8月末から9月末に変更しました。コロナ対策などを理由にしていますが、仮に新総理総裁が目新しい政策を打ち出すようなことがあれば、9月後半は再度の予算概算組み直しとなる可能性が高く、霞ヶ関も永田町の様子を心配していることでしょう。

11月中旬には、7〜9月期の経済指標が概ね出そろいますが、これを受けた追加経済施策は(安倍総理が次の総理に残したとも言える)残余の予備費で賄うことも可能でしょうから、当面の政策は安倍政権の継承路線プラス予備費を活用した追加経済施策ということになるでしょう。

来年度の通常予算も、「通常じゃない」通常予算になる可能性が高くなってきました。コロナ対策の費用が目立った令和2年度予算でしたが、令和3年度予算も同様の予算を組むことになると、いよいよ財政健全化に対する意見表明が求められます。自民党内には、現代貨幣理論(MMT)を表だって肯定して減税を訴える政策グループなども出てきており、今後の財政の問題に対して、一定の答えを次の首相は示す必要が出てきているとも言えます。

一方、財政の問題は財務大臣抜きには語れません。これまで政権の屋台骨でもあり、安倍総理の盟友でもある麻生財務大臣・副総理が財務省の財政健全化政策を守り続けていました。新総理が誰を財務大臣に選ぶかにもよりますが、麻生財務大臣の交代は安倍政権からの大転換となることからも、否定的な意見が永田町には多くあります。話が脱線しましたが、衆議院解散総選挙は予算編成のスケジュールにも関わるため、今年秋の解散総選挙は少なくとも霞ヶ関にとっては厳しいものだと言えるでしょう。

 

東京五輪の「中止」発表は11月から12月にも

東京オリンピック・パラリンピックは本当に開催されるのでしょうか?開催に懐疑的な見方が広がりつつある一方、東京オリンピック・パラリンピックの準備は着実に進んでいます。IOCとJOCが発表しているスケジュールでは、今月中に理事会が開催されて費用分担についての結論を出す方向であり、11月には実施に向けたプロジェクトレビューが行われる予定です。

最終的な転換点となるのは、11月のプロジェクトレビューを受けた12月の理事会であり、ロードマップでも12月の理事会までは「コロナ対策等の追加施策」、それ以降はテストイベント開催などの「実施準備」と位置づけられていることからも、12月の理事会が最終的な実施可否になると思われます。

一方、東京五輪の開催可否が内閣支持に与える影響はもはや軽微ではないかと考えています。既に東京五輪の開催中止が濃厚というのが世間一般のコンセンサスです。一方、旅行業などインバウンド施策の恩恵を受ける業界にとっては、東京五輪の開催に最後の望みを賭けている事業者も多く、今回のGoToキャンペーンも含めて国内需要喚起によって旅行事業者を延命した上で、東京五輪の開催を最後まで狙いたい政府の強い希望も透けてみえます。

開催となれば経済効果が見込まれる一方で感染拡大を不安がる声が広がる、中止となれば妥当なラインとの判断の一方で一部業界には厳しい結果となる、というところではありますが、その結果が極端に内閣支持率に影響を及ぼすほどのことではなくなってきているのは明らかです。

 

党員票を集めない両院議員総会での正当性の問題

今回の総裁選は、「緊急を要する」場合に定められた両院議員総会方式に決定しました。これまでも任期満了ではない総裁選の多くは、党員投票を行わない方式で行われてきたことを考えれば、ある程度この結果は永田町の関係者は読んでいたと思います。

一方、自民党歴代青年局長らが主導した「党員投票の実施」署名は、140名前後の国会議員が署名したことが明らかになっています。これは党所属議員の3分の1を超える署名であり、特に党員獲得に苦労する若手議員らを中心に、説明材料としての署名が広がったとみる向きもあります。

さらに、党員の直接投票を経ない形での総裁選出は、党員が自らの手で総理大臣を選ぶことができない流れということになります。これでは、石破氏が「民主主義的ではない」「党員に対する侮辱」とコメントするように、民主主義的観点による正当性の問題が指摘されることになります。

そうなると、その指摘に対抗するためにできることは、首班指名後の解散でしょう。大義として、解散総選挙で国民に信を問うことが、民主主義的には誰もが納得のいくリーダーの決め方であることは自明ですから、そういった理由での解散総選挙を念頭に入れて、直近の選挙を避けたい若手議員らが署名を集めたという見方も、一部では出てきています。

一方、二階幹事長は総務会に先んじた役員連絡会において、「政治空白は一刻も許されない。コロナウイルスの感染で国民が大変な不安に陥っているときに、積極的な対応を早急に講じていかなければならない」(朝日新聞)と発言しているほか、総務会においても「首相の突然の退陣や新型コロナウイルス対応」を理由に両院議員総会方式を挙げたことを踏まえれば、二階幹事長としては即解散総選挙ということは考えてないのかも知れません。実際、総選挙となると政治的空白がおよそ1ヶ月程度発生することからも、即時の解散総選挙を否定する材料になるでしょう。 

 

クローザーなのかリリーフなのか

色々とポイントを書いてきましたが、結局のところ、新総裁の役割が、7年8ヶ月続いた安倍政権のクローザー的役割なのか、それとも延長戦を見越したリリーフなのか、に尽きると思います。仮に最も強い候補者であると言われる菅官房長官が新総裁となった場合、安倍政権の官房長官として政権運営に長年務めてきた立場から、安倍政権の継承と実現こそがミッションとなります。

安倍政権下で打ち出された政策をひっくり返すことはおろか、新しい政策を打ち出すことも厳しいのではないでしょうか。現実的に考えて、総務大臣時代からこだわりを持つ携帯電話料金の引き下げなどを除いて、目新しい政策を打ち出すことは難しいと思われます。

ただ、長期政権を担うためならば、解散総選挙は必須です。日程上は、衆議院の任期満了よりも先に総裁としての任期が満了しますが、衆議院解散総選挙をその前に行い与党が大勝すれば、1年弱の総裁を早々と交代させる理由は無くなります。

また、総選挙によって新総裁が公約を打ち出すことによって、安倍内閣の継承から、新内閣による新しい政策ビジョンの打ち出しとなり、オリジナリティある政策を打ち出すことができるのではないでしょうか。そうすると、仮に東京五輪が中止となれば、夏の選挙ということも十分に考えられます。

もしくは、各派閥をまとめた菅官房長官が実は1年のクローザー登板であることを条件に派閥をまとめていたとするならば、次期総裁選挙に向けた動きがすぐに加速化すると思われます。その動きは新内閣の顔触れや党役員人事に色濃く反映されるでしょう。まずはその動きにも注目したいと思います。

 

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大濱崎卓真

大濱崎卓真

1988年生まれ。青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。衆参国政選挙や首長選挙をはじめ、日本全国の選挙に与野党問わず関わるほか、「選挙を科学する」をテーマとした選挙に関する研究も行う。

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