シリアへの空爆、不穏な動きが目立つ北朝鮮への警告発言など、ここ最近もトランプ氏の言動が連日メディアでは報道されています。次の行動が予想できないトランプ氏ですが、その当選も予想外でした。
しかし、大統領選挙1年前からトランプ当選を冷静に予想し続けていた人物がいます。それが、渡瀬裕哉氏。政治・選挙界隈では知る人ぞ知る存在です。トランプ氏率いるアメリカ共和党保守派とのコネクションや、選挙戦略に関する知見を活かし『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)を上梓した渡瀬氏に、「なぜトランプ氏当選が予想できたのか?」さらには迫る都議会議員選の情勢予想までお話を伺いました。
-選挙ドットコム編集部(以下、編集部)
多くのメディアがヒラリー氏優勢を報じる中、渡瀬さんは一貫して、トランプ当選はデータを見ていれば当然の結果とおっしゃっていましたよね。(関連:トランプ大統領誕生は「数字」を見れば当たり前のことだった )
ズバリ聞きたいのですが、なぜ大統領選挙1年前からトランプ氏の当選が分かっていたのですか?
-渡瀬裕哉氏(以下、渡瀬氏)
「公開されているアメリカの世論調査をチェック、分析していただけ」ですよ。アメリカでは様々な世論調査が行われていて、それらの多くはしっかりと公開されています。私はその調査の結果を見ていただけです。
加えて、現地の情報をどう解釈するかを分かっているから正確だと思います。例えば、共和党の人たちは日本人と全く異なる考え方をしているので、文字面通りに解釈していると、読み間違えることが多いと思います。
選挙が終わった後も日本のコメンテーターの発言を見聞きしていると、ホワイトハウスのホームページすら見ていないんじゃないかと感じます。
-編集部
具体的には共和党の人と日本人でどのような考え方の違いがあるのでしょうか?
-渡瀬氏
例えば、「税金を下げる」というと、日本人は「経済政策」だと考えますよね。でも向こうの人たちからすると、憲法で保証された「財産権を守るもの」という意味になります。税金を下げることは日本で例えるなら「憲法9条改正」にあたるイデオロギー的なもので、経済政策ではなく思想に近い。だから、絶対に譲れないんです。そういう感覚は日本人には分からないものです。
自分の固定概念を捨てて、相手の立場に立って情報やデータを解釈・分析する、そういった観点がないコメンテーターの予想は外れますよね。
-編集部
ということは選挙時だけでなく当選後の今も、コメンテーターのトランプ氏に対する意見は間違っていることもあるのでしょうか?
-渡瀬氏
はい、全然検討違いなことを言い続けていますよ。それは、CNN、ニューヨークタイムズ、ワシントンポストなどの言っていることを丸写しに翻訳しているだけだからでしょう。昔はそれらの大手メディアの報道を現地の人もそのまま信じて、大体メディアの予想通りの投票行動をしていたんですよ。でも今のアメリカ人、特に共和党支持者はリベラルなメディアの言うことを全く信じていませんし、その報道の通りには行動しません。
日本の有識者は未だにこのことに気づかず、それらの情報を鵜呑みにしてそのままコメントしています。情報源が古くて間違っていることを理解しておらず、ナンセンスです。
–編集部
トランプ氏当選を予想したことで一躍有名になった渡瀬さんですが、振り返れば2007年に東国原英夫氏が宮崎県知事選に出馬した際の政策ブレーンとしても名を馳せています。選挙・政治との関わりはいつからなのですか?
-渡瀬氏
大学・大学院在学時のときから、選挙事務所での手伝いや自民党系の学生部で活動をしていました。毎日身も心もボロボロになるまで有権者の声を伺う貴重な経験をしました。このときに教えを乞うた事務所が非常にシステマチックで強い事務所でした。この事務所から門前の小僧として一通りノウハウを盗まさせて頂きました(笑)
その時の仲間でNPO法人を立ち上げ、大学の教授たちと一緒に自治体の「事業仕分け」をサポートする仕事をするようになりました。これは民主党が政権交代するよりも大分前で「事業仕分け」は元々自治体が先に取り組んでいたんですね。
その活動の中で、「“政策”の本音と建て前」を学びました。その後、しばらくして政策と選挙に関する知見も深まり、選挙で通用する政策作りを行うPR会社を作るに至りました。
-編集部
アメリカ政治、共和党保守派とのつながりはどこで生まれたのですか?
-渡瀬氏
その会社を経営していた頃、たまたま付き合いのあった国会議員秘書にアメリカの共和党保守派の人たちに縁がある方を紹介してもらったことがきっかけです。
アメリカの共和党は、税金を下げたり、規制緩和を進めることが優先で、「無用な政策はいらない」という考えの持ち主。日本の政策の在り方に疑問を持っていた頃だったので、是非その仕組みを勉強させてもらいたいと希望して、アメリカと行ったり来たりするようになりました。
ちなみに、共和党系の運動員は、選挙のやり方や政策の考え方を独自の「学校」のような機関で学ぶことができます。私も泊まり込みで通わせてもらいました。日本人なんてほとんどいない環境でしたね、最初は物珍しい目で見られました。
そのため、共和党の選挙のやり方はおおよそ想像が付きます。実際に大統領選挙の際もトランプ選対や共和党関係者に事実確認のヒアリングも行いました。
ところが、通常の学者は共和党、特に保守派の人たちを田舎者の白人と馬鹿にしているのでほとんど彼らと接点すらないのです。誰でも参加できる共和党保守派の年次総会でも日本人など滅多に見かけません。選挙のど素人が知り合いもいない共和党の選挙について解説していたのが当時の大統領選挙の解説の実態だと思います。
日本の報道はもう少しトランプ・反トランプ両者の見方を紹介する中立的なものに変わっていく必要があります。
-編集部
アメリカ政治もしかりですが、ファクトベースで選挙を分析する渡瀬さんには、都議会議員選はどう見えていますか?
-渡瀬氏
都議会議員選挙の特徴は多くの選挙区が「中選挙区選挙」だということです。1つの選挙区から複数当選者が出るため、一部の強い議員は必ず当選するし、それ以外は無党派層の風頼みという構図があります。
特に無党派層の支持を受ける政党が毎回変わることも特徴であり、前回たまたま勢いがあった政党が勢いを失って、現在人気の政党が議席を得る傾向にあります。例えば、2009年の都議選では民主党(当時)が54議席も獲得していますが、前回2013年は15議席にとどまっています。自民党を見てみると、2005年は48議席、2009年は38議席、前回は59議席とこちらも振れ幅が大きいことが分かりますよね。
-編集部
都議選では、小池都知事率いる都民ファーストの会が本命とされていますが、各党はどのような動きに出ると考えていますか?
-渡瀬氏
都議会の各政党の重鎮たちも過半数を維持するためには本来は、自党のイメージを大切にする必要がありますが、選挙に強い都議会議員(=政党執行部)は自分自身は選挙区で勝ててしまうので党全体のイメージ戦略を作ることは苦手です。むしろ、自分の選挙区で無党派層の票が取れそうな同じ政党の新人候補者がいる場合、そちらの得票を上回りたいというインセンティブすら働き、自党の無党派からのイメージを軽視して自身の選挙活動にさらに打ち込むことになります。
そのため、都議会議員は自党全体のイメージづくりに積極的に関与せず、各個人が頑張るだけなので、相対的にマスメディアが良しとする政党に無党派層が流れてしまうことになります。これが毎回の都議会議員選挙で人気の政党が変わる理由です。
都民ファーストは豊洲問題などでケチをつけつつありますが、大きなスキャンダルが無ければ相当議席数を伸ばすものと予想されます。しかし、その後同党が何をやりたいのかはいまだ不明確であるため、現在のブランドイメージを維持することは難しいと思います。
また、現状のままいけば、都民ファーストが無党派票を食うので、自民党の当選ラインぎりぎりの現職は大量落選し、重鎮化している自民党議員の大半は再選することになると思いますよ。むしろ自民党は古い体質の議員が残ることになってフレッシュさは一層失われていくのではないでしょうか。そして、重鎮議員は都民ファーストの当選1期生の取り込みを図る老獪さも合わせ持っていることでしょう。
都議会の体質が本質的に変わっていくためには、自民党・民進党などの主要政党の期数が多い都議会議員が落選し、都議会野党側も代替わりしていくことが大事とも言えるでしょう。
そのため、都議会議員選挙では、時流に乗る都民ファーストが過半数取るか否かだけでなく、自民党や民進党など既存政党の代替わりが進むかどうかも併せて注目して欲しいですね。
渡瀬 裕哉
早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。創業メンバーとして立ち上げたIT企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。同取締役退職後、日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。また、国内では東国原英夫氏など自治体の首長・議会選挙の政策立案・政治活動のプランニングにも関わる。主な著作は『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)
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