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【米大統領選】誰がトランプに投票したのか

2016/11/15

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※本記事は「室橋祐貴のYahoo!ニュース個人」の転載となります。記事内容は執筆者個人の知見によるものです。

まさかのトランプ大統領の誕生である。過去の大統領選で正確に結果を予測してきたネイト・シルバー氏が主宰する「FiveThirtyEight」が予測していた通り、300議席近く、低くても280議席前後でのヒラリー・クリントン勝利かと思っていたが、結果は見事に外れてしまい、「232対290」でトランプ氏の勝利に終わった。

共和党予備選におけるトランプ氏は一貫して高い支持率を継続しており、予測の範囲内であったが、本選では一貫してヒラリー支持が上回っており、直感や願望ではなく科学的に予測できたものはほとんどいないであろう(その意味では、社会調査は大きな課題に直面したと言える)。

だが、当選が確定した今でも大きな疑問がある。それは誰がトランプ氏に投票したのか、だ。

そこで本稿では、出口調査を元にトランプ支持層の詳細を見ていきたい。

 

 

「白人低所得者層」ではなかったトランプ支持層

投票前までによく言われていたトランプ氏の支持層は「白人低所得者層」だ。しかし、結果を見れば、それは間違いであったことがわかる。

確かに白人の支持率は58%と高かったが(後述するが、白人の支持率は言われていたほど高くなかった)、所得はヒラリー支持層の方が低く、従来の共和党支持層=富裕層がトランプ氏を支持したものと見られる。これは、トランプ氏が本選になってから掲げていた法人税や所得税引き下げが功を奏したと言えるだろう。

一方、別な観点から見れば、2012年大統領選ではオバマ大統領が年収5万ドル未満の低中所得層の60%から支持を得ており、トランプ氏は低中所得層からも比較的多く支持を得たと言える。これはインフラ投資や反自由貿易による雇用改善を大きく掲げていたためであろう。

年齢に関しては事前の報道通り、若者がヒラリー氏、高齢者がトランプ氏を支持している。

 

 

勝敗を左右したヒスパニックの高い支持率と低い投票率

そして今回の勝敗を分けたのはヒスパニックの高い支持率と低い投票率である。

前回の2012年大統領選では、ミット・ロムニー共和党候補が白人の59%、マイノリティの17%しか支持を獲得できず、人口構造の変化から今回のトランプ候補が仮に同じ17%の支持であれば、白人の65%近くを獲得する必要があると見られていた。仮に20%であれば、63%程度だ。

元々共和党は白人が中心の支持層であり、マイノリティは低い。2008年のジョン・マケイン共和党候補もマイノリティは19%しか獲得できず、2004年に勝利したジョージ・W・ブッシュ元大統領でさえ26%だ。

だが、結果的には、ヒスパニックの29%がトランプ氏を支持し、アジア系も29%が支持。黒人はさすがに低かったが、マイノリティの21%と比較的高い支持を獲得した。

今回勝敗を分けた激戦州においてトランプ氏がほぼ全て勝利したのはこのヒスパニックの動向が大きいだろう。特に直近1ヶ月でトランプ氏への支持率が19%も上昇した、共和党予備選に出ていたルビオ上院議員と同系のキューバ系ヒスパニック(ヒスパニックは大きくキューバ系とメキシコ系に分かれている)が大きく左右したと思われる。

なぜヒスパニックがトランプ氏に投票したのかは正直よくわからないが、今後違法移民がさらに増えることで、自分たちの立場(生活)が脅かされると思った、というのが大きな要因ではないだろうか。

一方、先述した通り、白人の支持率は思っていたより伸びず、58%に留まっている

結果的に得票数で見れば、ヒラリー氏の方が多い。

トランプ氏の得票数は前回敗れたミット・ロムニー共和党候補が獲得した得票数(6093万票)よりも少ない5916万票であった。

それに対し、ヒラリー氏は5933万票。わずかに上回っている。

ではなぜヒラリー氏は敗れたのか。もう一つの敗因は、投票率の低さにある。

確かに今回ヒラリー氏の方が多く票数を獲得したが、前回大差で勝利したオバマ大統領が獲得したのは6591万票。約600万票も票が少なくなっている。上記で確認した通り、この約600万票がトランプ氏に流れた訳ではない。一部はリバタリアン党と緑の党に流れたが、約400万票が失われている、つまり投票に行っていない。

2012年大統領選は投票率が54.87%であったが、今回の投票率は53.1%と約400万人が投票に行っておらず、詳細の数字が発表されなければわからないが、予備選でも、共和党の票数が増え民主党の票数が減ったことを考えると投票に行かなかったのは従来の民主党支持者、若者やマイノリティが中心であろう。

 

 

既に大きく分断されていたアメリカ

このように明らかに一部とは言えないトランプ支持層であるが、Brexitと同様に、やはり都市部と郊外の分断は深刻である。

激戦州はもちろん、ヒラリー氏が選挙人を獲得した州でさえも、郊外はトランプ支持が上回っている場所が多く、もはや同じ政策を適応するのが難しいのではないかとさえ思えてくる。

NewYork(基本的には都市名が書かれている場所が都市部) http://edition.cnn.com/election/results/states/new-york

NewYork(基本的には都市名が書かれている場所が都市部)
http://edition.cnn.com/election/results/states/new-york

トランプ氏は勝利が確定した後、最初のTweetで「忘れられた男女はもう二度と忘れられてはならない」と発言したが、まさに今回支持を集めた理由が集約されていると言えるだろう。

 

WikileaksとFBIが動かしたトランプ票

また、筆者をはじめ、多くのメディア関係者や専門家は3回の討論会や女性蔑視発言など今までの経緯からヒラリー支持は堅いと見ていたが、実際は直前に動いたようである。特にWikileaksが非公開メールを公表した10月とFBIが捜査再開を発表した1週間前に大きく動いており、その意味では、政治的に動いたWikileaksとFBIが今回の結果を左右したと言っても過言ではない。

数日前だとヒラリー支持が戻っているのは2日前に無実が証明されたからだろう。

 

大統領、両院議会、最高裁いずれも握った共和党

そして今後どうなるかであるが、トランプ氏の人事も不透明性が高く多くはわからない。だが、まず確認しておきたいのは、大統領だけではなく、上下両院議会で共和党が過半数を維持した点だ。

同日行われた上下両院は、事前予測では上院は民主党が過半数を奪還するかと思われていたが、共和党がどちらも過半数を維持した。

結果的には「ねじれ」は解消され、原理的には大統領が運営しやすい環境になった。しかし、今までのトランプ氏と共和党主流派の関係を見る限り、そう簡単にはいかないであろう。

また、スカリア最高裁判事が急逝した後、一席空いている最高裁判事はトランプ氏が選任すると見られ、大統領、両院議会、最高裁いずれも共和党が握ることになる。

今後最も注目されるのは、共和党がトランプ大統領に対してどういう姿勢を示すかであり、それ次第でトランプ政権の実績は大きく変わる。共和党のポール・ライアン下院議長は今までずっとトランプ不支持を表明しており、来年1月に再任されるかも注目される。

今後実行していく大きな政策としては、国内的にはオバマケアの見直しや税制度の見直し、国外的には同盟国への防衛費負担増、TPP/NAFTAの修正、ロシアとの関係強化(今年のはじめに書いた記事「安倍政権はトランプが大統領になると予想?ー深まる日露関係」の通りになるとはまさか思いもしなかったが…)、中東への介入減が考えられるが、特に不透明性が高いのが東アジアへの対応だ。

経済的にアメリカを利する代わりに防衛は中国にあまり関与しない、という可能性が高そうではあるが、とりあえずは今後の動向に注目したい。

※本記事は「室橋祐貴のYahoo!ニュース個人」の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

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