【現地ルポ】2回の討論会で見えてきたシンプルな「争点」とトランプ氏の「真意」

2016/10/11

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海外の選挙・政治

徐 東輝

副編集長の徐東輝(そぉとんふぃ)です。
アメリカに来てから早くも1ヶ月近くが経とうとしています。現地の方の声を聞きながら、あるいはたくさんの東海岸発の情報に触れながら、次第に「アメリカ人は何に怒り、トランプは何を代弁しているのか」が感覚的に理解できるようになってきました。そして、昨日に二回目を終えた大統領候補の公開ディベート、そして先週行われた副大統領候補の公開討論会を通して、今回の選挙の最大のテーマが見えてきたのでここに整理しようと思います。
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最大のテーマは「格差社会」と「多様性」

今回の最大のテーマは「格差社会」と「多様性」です。民主党、共和党両陣営が言い争っている内容はほとんどのことが「格差社会」を根底に置くことが討論会を通じて感じられました。言わずもがなアメリカの格差社会の広がりは異常であり、人口の1%が99%の人々と同じ富を持っているといわれている社会です。これまで経済成長をもってだましだまし続けてきた国家運営の歪みが、トランプというモンスターの出現と同時に一気に大爆発を起こしたと言えるでしょう。

そして、トランプの異常な問題発言は、実は「格差社会」に苦しむ人々の声を誇張して代弁しているのであり、マイク・ペンス副大統領候補という通訳者を介して翻訳してみると、その真意は意外なほどに腑に落ちる内容なのです。

討論会の質問はほとんど「格差社会」「多様性」について

926日に行われた大統領候補による初回の討論会は、90分間の時間を6つのパートにわけ、それぞれのパートで両候補者に共通の質問が提示されるという形式のものでした。実はこの質問はヒラリー氏、トランプ氏両候補が事前に知ることはできないのですが、討論会の主催者ですら事前に把握できず、司会者がテーマに沿って事前に考える仕組みになっています。したがって、どのような質問が繰り出されるのかも討論会では注目されていました。

今回のディベートは、「繁栄の実現」、「米国の方向性」、「米国の安全」という3つのテーマが指定されていたのですが、司会者が出した質問は雇用政策、税制改正、警察と人種の問題、オバマ大統領の出生地問題、ホームグロウン・テロリズムへの対策、そしてサイバーセキュリティに関する問題でした。

さて、まず雇用政策と税制改正は経済格差の是正を象徴するもので日本でも党首討論で話題になるテーマですね。次に出生地問題はトランプ氏の誤った発言を是正させるためのものなのでひとまず於いて、警察と人種の問題というのは、根本的には人種に基づく経済格差と人種差別問題がテーマになっているものです。ホームグロウン・テロリズムとは、9.11のように国外の組織が起こすテロリズムではなく、国外の過激思想に共鳴した国内出身者が独自に引き起こすテロリズムのことを指しますが、その多くは貧困や人種間差別、宗教差別に原因があるとされています。

そして昨日行われた第2回目の討論会でも、引き続き「オバマケア(医療保険制度)」、「税制」、「ムスリム、難民への対応」などが新たに質問され、1%の人々が99%の人々の富を持っているという現状をどのように打開し、再分配を行うのか、更に多様性を享受する社会にしていくためにはどのような政策が取られるべきかを議論していました。

このように、格差社会をいかに是正していくのか、そして多様性をどう受け入れ、実現していくのかというのが、現在アメリカの直面している課題であり、ヒラリー氏、トランプ氏に問われているお題目なのです。ヒラリー氏も取り組もうとしている課題は変わりません。「格差社会」と「多様性」にどう向き合うのか。実はこの課題については、ヒラリー氏もトランプ氏も争ってはおらず、お互いにその解決方法が違うということで争っているんですね。

余談ですが、日本の政治は長らく争点ずらしが行われてきました。与党が主張する争点と野党が主張する争点が異なり、識者はどちらの視点に立脚するのかで対立し、有権者たちは何を基軸に投票すればいいのかがわからないという状況です。これは有権者一人ひとりが自ら争点(判断基準)を決定し、そのための情報(判断材料)を収集できる、高度に洗練された民主主義の中では成り立つのですが、複雑化した現代社会ではむしろアメリカのようにきちんと対立軸とテーマを作ってくれたほうが、民主的手続きの正統性が高まると考えます。

根底に根ざす「懐疑」と「信頼」~トランプの場合~

トランプ氏はこれまで非常に多くの暴言、失言を生み出してきました。「安倍首相はアメリカ経済の殺人者」発言や、「中国、日本がアメリカの雇用を奪っている」発言、「メキシコとの国境に壁を作る」発言などは、すべてアメリカ経済の中で苦しむ方々の声を誇張して代弁しているのです。
円安ドル高となったせいで、アメリカの輸出業に従事する労働者は非常に苦労し、多くの中南米諸国からの移民のせいで、単純労働に従事する労働者は職の奪い合いをしています。確かに頭の良い有識者たちは、失業率が2009年以降改善されていたり、実はそれほど職の奪い合いをしていないのだという客観的な数字を提示して、トランプが巧みな嘘を使いまわし有権者を洗脳していると馬鹿にします。しかし、ブルーカラー労働者にとってはそんな数字どうでもよいのです。とにかく給料はあがらないし、リストラは終わらない。この現実的な恐怖は、どんな客観的な数値をもってしても消えないのです。トランプはこのような恐怖と怒りを持つ労働者たちが相当多い点に目をつけ、徹底的にマーケティングしているにすぎません。

トランプ氏は、1980年代にレーガン大統領が行った「小さな政府」によるトリクルダウンを行おうとしています。トリクルダウンとはすなわち、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる」とする経済理論で、トランプが主張しているのは、富裕層・大企業への減税を行えば、彼らが投資にお金を回すことで経済が成長し、雇用は創出されるし給与も上がっていくという構図です。そこにはトランプ氏の強烈なまでの「市場への信頼」が見て取れます。

さらにトランプは、上記の「国境の壁」発言に加え、「不法移民は国外追放する」、「イスラム教徒は一定期間入国禁止にする」などの強行的な政策を主張しています。ここに見て取れるのは、移民やイスラム教徒への強烈な「懐疑」です。たとえイスラム教徒の99.9%以上がテロとは無関係であっても0.1%関わっているという可能性があれば、その「懐疑」を残りの全体にも反映させた政策を提言しているのですね。ただし、トランプ氏は一定の南部白人層から票を得るためにこのようなポジショントークをしてきたのかと考えたこともあったのですが、過去何十年も移民に対して差別的発言をしていたことなどを考慮すれば、その「懐疑」は本音に近いのだと思います。

次ページ:実はシンプルなヒラリーの主張。そして市民が今、期待しているものとは

根底に根ざす「懐疑」と「信頼」~ヒラリーの場合~

さて、対してヒラリー氏は「経済格差」と「多様性の実現」にどう向き合うのでしょうか。

トランプ氏が市場を信頼するのに対して、ヒラリー氏は市場に「懐疑」的です。2008年以降に起きたリーマンショックは、富裕層への減税政策を含め、市場に任せすぎた結果起きたものだと考えていることから、「小さな政府」ではまたもやアメリカ経済は失速すると主張します。そして、ヒラリー氏はむしろ「超富裕層への課税」を提言しています。実はヒラリー氏も経済格差の弱者の代弁を行っていて、結局は99%の人々の富を1%の人間が握っていることはおかしいと言っているんですね。また、最低賃金を引き上げようとしているのも、市場原理だけには任せたくないというヒラリー氏の価値観が見て取れます。

他方で、逆に多様性という観点では、ヒラリー氏は移民やイスラム教徒への「信頼」を強く持っています。トランプ氏が移民やムスリムの方へ暴言を吐いた際には、きっちりと対立候補らしく、「私はあなた方ムスリムと同じアメリカ人であることを誇りに思います。」などの発言を繰り返してきました。これはヒラリー氏が政治家として120カ国以上を渡り歩き、様々な文化圏の方々と触れ合わざるを得なかったこと、そして寛容性を通じた理解が可能であることを経験してきたから持つ価値観だと思われます。

このように、両者はお互いに抱いている懐疑と信頼がちょうど交差するようになっていて、非常に対照的な候補者なのです。ただし、冷泉彰彦氏が著書『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』で述べられているように、「市場への信頼」は「政府への懐疑」、「市場への懐疑」は「政府への信頼」へと言い換えることができます。そう考えると実はトランプ氏は「懐疑」を根底の価値観とする共和党候補者として、ヒラリー氏は「信頼」を根底の価値観とする民主党候補者として、ふさわしい主張をする候補者なのですね。

無党派層が抱く「懐疑」

二大政党制が実現しているアメリカでは、日本の「組織票」とは少しニュアンスは異なるものの、選挙の時期にかかわらず、常に民主党に投票する人(州)、共和党に投票する人(州)は一定数あって、選挙の行末を決めるのは無党派層(Swing Voter)と激戦州(Swing States)です。では、このような現状に対して、無党派層(どちらの候補に投票するか迷っている、揺れているという意味で”Swing Voters”と言われます)は何を考えているのでしょうか。
無党派層が抱いているのは、両候補者への小さくない「懐疑」です。

トランプ氏に対しては、これはもう言わずもがなですが、政治的手腕への「懐疑」です。本当に彼は大統領としてホワイトハウスを動かせるのか。ホワイトハウスを動かし、アメリカ軍を動かし、外交を行い、内政を安定させるには、緻密な計算、根気強い交渉と根回し、微妙な折衝を繰り返し続けなければなりません。そのようなリーダーとして彼を選んでよいのかという「懐疑」です。
他方で、ヒラリー氏に対しては、あまりにも長く政治家として働いていることへの「懐疑」です。彼女は超富裕層へ課税をして、再分配を強化すると言っていますが、実はその超富裕層から最も多く献金を受けているのはヒラリー氏です。なんという矛盾、皮肉でしょうか。まるで口だけ言っているかのようですよね。そして、オバマ政権のもとでISISを生み出し、シリア情勢を取り返しのつかないことにしてしまったヒラリー元国務長官(これはトランプ派のキャンペーンの一つですが)への懐疑です。

副大統領候補の討論会を見ていると、マイク・ペンス氏が丁寧にトランプ氏の主張を意訳してくれたおかげか、かなりフラットに両陣営を眺めることができるようになりました。しかし、このように政策と争点を冷静に見るのは、ほとんどいません。リーダーとしての人格、人柄、リーダーシップという点を、有権者はみているのです。政策に票が集まらないのが良いことではありませんが、それ以上に、その人格に票が集まらないようなリーダーは大統領にはなれないのです。

徐東輝@マイアミ

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徐 東輝

弁護士(法律事務所ZeLo/株式会社LegalForce)、NPO法人Mielka代表、JAPAN CHOICE運営者。京都大学法学研究科に在籍中、ivote関西を創設。「若者と政治」をテーマにした事業を展開し、2年間で1万人以上の学生らにアプローチする。2015年に世界経済フォーラム(ダボス会議)グローバルシェイパーに選出。同年、『在日韓国人京大生が教える、憲法の視点からの日韓問題』を出版。https://twitter.com/tonghwi17

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