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蓮舫氏、民進党代表に~求められる「解党的再出発」

2016/9/16

児玉 克哉

児玉 克哉

予想通り、民進党の新代表には蓮舫氏が選出された。蓮舫氏は一回目の投票で衆参の国会議員・立候補予定者の票のポイントと地方議員、党員・サポーターの「地方票」のポイントをあわせて、過半数を獲得した。圧勝だ。前原誠司元外相、玉木雄一郎国対副委員長は票をのばすことはできなかった。

本来はこの代表選は、これからの民進党の方向性を決める重要なものになるべきものであった。民進党には様々な経歴の政治家が入っている。それだけに、右派ー左派、改革派ー保守派の幅が広い。安全保障一つとっても、現実派から理想派までの政治家が揃っており、核となる政策がみえてこない。それが民主党政権が誕生した時に、沖縄米軍基地問題で右往左往した根本的な原因だと思う。「挙党一致」というのは聞こえはいいが、結局は難題を棚上げにするということであった。改憲、安全保障政策、TPP、消費税増税など主要な課題で明確な路線を打ち出せないでいる。分裂覚悟で、激論を行い、明確な路線を打ち出すことが今回の代表選のあるべき姿と思っていた。

しかし、蓮舫氏、前原氏、玉木氏はかなり路線が異なるはずであったのだが、結局は曖昧な議論にとどまり、どうやらまた「挙党一致」「ノーサイド」となりそうだ。

この代表選で最も注目を浴びたのが、蓮舫氏の二重国籍問題であった。蓮舫氏の対応もかなり問題はあった。発言もかなり揺れ動いた。また過去のインタビュー記事なども出てきて、蓮舫氏は二重国籍を認識しているばかりでなく、それを自分の特性として肯定的評価をしているようであった。日本でも二重国籍の人は少なくない。罰則がないので、手続きをしないままにしている人も多い。確かに10年後、20年後にはどういう事が起きるかも知れない。保険の意味も含めて、そのままにしておくのは悪くない、と考える人もいるだろう。ただ、蓮舫氏は政治家の道を歩み、野党第一党の党首になった。これから首相の座も目指そうというポジションだ。早い段階で明確にしておく必要があった。

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これから蓮舫民進党は厳しい逆風の中を進まなければならなくなった。確かに民主党政権時代の不手際があり、強い批判が寄せられてきた。やっとそれらが徐々に弱まり、新しい展開も可能か、という時だっただけに、今回の二重国籍問題の打撃は大きい。

まず、蓮舫代表に対する個人的な「資質」問題が浮かび上がってきた。今回の問題は蓮舫氏の「対応の不手際」も大きなポイントになっている。問題が浮上した時にすぐに明確な態度を示し、問題の解消にあたっていたらここまでの問題にはならなかった。記憶間違いや思い込み、日本人の母親なので「本来なら生まれた時から日本人」であるべきだった、という強い思いもあったのだろう。結局、発言を訂正したり、修正したり、特別な説明を加える必要が出たりした。代表選の終盤であったので民進党内部からの批判の声は大きくはなかったが、それでも出てきた。蓮舫氏の体制はかなり脆弱になったといえる。求心力がかなり弱い状態での出発となる。内部から批判が出ると体制はもろく崩れていく可能性がある。

これからの自民党政権との対応も厳しくなる。これから日本にとって、中国、台湾を含む東アジア問題は非常に重要な課題だ。また外国人労働者、移民などの受け入れも難しい重要課題だ。今回の二重国籍問題の過熱議論は、蓮舫民進の進む道に少なからずの影響を与えそうだ。何を言っても色眼鏡でみられる、というハンディを背負った形だ。「民進党」という名称も蓮舫代表となると微妙だ。台湾の民進党との関係やイメージがついてくる。中国と民進党政権の台湾の関係は悪化している。複雑な東アジア関係がさらに複雑になりそうだ。今更ながらに、なぜ台湾の政党と同じ名前にしたのか、だ。名称の投票の時には、あまり明確な議論はなかった。蓮舫民進党は、東アジア問題では予期しない批判も警戒しなければならない。

また地方で有権者に対するとき、厳しい声があがりそうだ。民主党政権から3年半の間、有権者からの批判に耐えなければならなかった。これがしばらくは続きそうだ。代表選で、信頼回復をして、一気に攻勢をかけるというシナリオは消えてしまった。

舛添氏の問題の時も、次々とスキャンダルがメディアから出されてきた。これだけ話題になった上で、民進党代表となった蓮舫氏の新たなスキャンダルはメディアにとっては部数を伸ばし、視聴率を上げる恰好のテーマになる。しばらくの間はそのリスクもある。嵐の中での船出だ。

見落とせないのが、衆議院解散総選挙の可能性だ。安倍首相は衆参同時選挙を目論んだが、熊本地震も起き、見送らざるを得なかった。熊本地震の後に舛添前知事の問題が噴出し、イギリスのEU離脱決定も日本経済への不安を駆り立てることになった。安倍首相はとうてい衆議院解散総選挙を打てる状況ではなくなったし、強行していたら、自民党はかなり議席を失っていたかもしれない。

民進党の代表選があり新代表となるとしばらくは期待感が高く、民進党支持はアップすると考えられていた。私もおそらく2年間は衆議院解散はない、とみていた。しかし、状況はかなり変わっている。蓮舫氏への批判がさらに強くなれば、安倍首相は年内総選挙、新春総選挙も決行するかもしれない。年末にはプーチン大統領との会談もある。北方領土返還の期待ができる会談であれば、内閣支持率アップも考えられる。アメリカ大統領選直後に、パールハーバーを訪れ、日米関係の結束をアピールして、総選挙というスケジュールも考えられる。

民進党は総選挙の体制は整っていない。今回の代表選で、野党共闘路線への態度は曖昧なままだ。やや距離を置こう、という雰囲気が強くなっているが、総選挙は遠のいたという予想のもとでの話だ。明確な対応はわからないままだ。不意打ちの総選挙があれば、安倍自民はまた大勝しそうだ。安倍首相の長期政権の可能性が高まる。

民主党政権が終わったあとでは、「解党的再出発」ということが何度も叫ばれた。本当に解党しても構わないくらいの激論をして、再出発するしかないだろう。この中途半端な状態で、「挙党一致」の「ノーサイド」は万年野党の民進党を作ってしまいそうだ。蓮舫氏も民進党も追い込まれた。蓮舫民進の開き直りの爆発でもなければ、この嵐を乗り切ることはできないように思う。

※本記事は「児玉克哉-個人 Yahoo!ニュース」の9月15日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

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児玉 克哉

児玉 克哉

三重大学副学長・人文学部教授を経て現職。トルコ・サカリヤ大学客員教授、愛知大学国際問題研究所客員研究員。専門は地域社会学、市民社会論、国際社会論、マーケティング調査など。公開討論会を勧めるリンカーン・フォーラム事務局長を務め、開かれた政治文化の形成に努力している。「ヒロシマ・ナガサキプロセス」や「志産志消」などを提案し、行動する研究者として活動をしている。2012年にインドの非暴力国際平和協会より非暴力国際平和賞を受賞。連絡先:kodama2015@hi3.enjoy.ne.jp

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