7月18日に始まった共和党党大会は、共和党大統領候補に正式にトランプ氏を指名することで21日に閉会しました。この党大会は、これまでの予備選挙の結果から大統領候補として内定していたトランプ氏を正式に指名する他、共和党として一致団結して大統領選を戦っていくことを確認する場でもあります。そのため、かつてトランプ氏と争ったテッド・クルーズ上院議員など多くの著名人がトランプ氏のために応援演説を行いました。そんな中、トランプ氏の妻である、メラニア・トランプ氏のスピーチが話題になっています。
【関連】盛り上がりに欠けた都知事選。選挙事務所にも入りやすく、楽しいアメリカ大統領選 >>

(トランプ氏HPより)
大統領候補の妻が夫のためにスピーチをすることは、アメリカではごく当たり前のことです。ご多分にもれず、トランプ夫人もトランプ氏の愛国心を賞賛したり、共和党が好む勤労の美徳を説いたりしていました。
しかし、今回そんなスピーチにとんでもない疑惑が浮上しました。彼女のスピーチに「パクリ疑惑」が浮上したのです。しかも、彼女がパクったとされる元のスピーチは、民主党の現職大統領オバマ氏の妻、ミシェル氏が丁度8年前に行った、民主党大統領候補指名演説に際して行われたものだというのです。
民主党 サンダース氏に見るアメリカ政治の懐の深さ >>
既にアメリカのメディアを中心に、多数のパクリ疑惑を検証する記事が出ています。その中で、最も強烈なのは、二人のスピーチを逐一比較したCNNのこの動画でしょう。
この動画を参考に、トランプ夫人とオバマ夫人のスピーチを比較してみましょう。下線部に注目してください。
トランプ夫人
“From a young age, my parents impressed on me the values that you work hard for what you want in life; that your word is your bond and you do what you say and keep your promise; that you treat people with respect. They taught and showed me values and morals in their daily life.”オバマ夫人
“Barack and I were raised with so many of the same values that you work hard for what you want in life; that your word is your bond and you do what you say you’re going to do; that you treat people with dignity and respect, even if you don’t know them, and even if you don’t agree with them.”
トランプ夫人
“That is a lesson that I continue to pass along to our son, and we need to pass those lessons on to the many generations to follow,” “Because we want our children in this nation to know that the only limit to your achievements is the strength of your dreams and your willingness to work for them.”
オバマ夫人
“Barack and I set out to build lives guided by these values, and pass them on to the next generation. Because we want our children — and all children in this nation — to know that the only limit to the height of your achievements is the reach of your dreams and your willingness to work for them.”
このように、トランプ夫人のスピーチには、明らかにオバマ夫人のものを真似たと言える部分が多々あります。
オバマ夫人のスピーチは、オバマ大統領のスピーチとともに、アメリカではごく有名なものです。そのため、今回このパクリ疑惑は演説終了後早い段階で浮上しました。では、なぜこんなことをしたのでしょうか。
アメリカ政治においては政治家やその関係者のスピーチは極めて重要視されています。それは、アメリカは議員「個人」としての責任が問われる場面が多いことと関係しています。一方、日本では、政権選択の選挙である衆議院総選挙において、どの「政党」が与党になるのかが重視されます。日本が採用する、内閣は議会の信任に基づくとする議院内閣制と、アメリカが採用する、大統領は議会から独立するとする大統領制との違いでしょう。そのため、アメリカでは個人としての力量がスピーチで問われるのです。スピーチ一つである政治家が一気に知名度を上げたり、勢いが失速したりするくらいです。その最も良い例がオバマ大統領でした。彼は当初無名の若手上院議員でしたが、2004年大統領選に立候補した民主党ジョン・ケリー氏(現国務長官)の応援演説によって一気に名を挙げました。そこから2008年大統領にまで昇りつめたのは周知の通りです。実際、英語が分からない人でも、オバマがいいことを言っているらしいということは画面から伝わってきます。アメリカでは、そのような人々を奮い立たせるスピーチが評価されます。当然、彼のスピーチには思わずパクリたくなるような名言が散りばめられているわけです。
しかし、日本では上記のようにそこまでスピーチは重視されません。演説で問題視されるのは、漢字の誤読や基本的な事実誤認や偏見、政策の内容といったもので、例えば棒読みであることはほとんど問題視されません。スピーチ中のギャグが面白かったかどうかが見られることもありますが、それはアメリカのスピーチ的な感動とは大きく違うものです。そのため、パクリもほとんど問題にならないと言ってよいでしょう。
以上のことから、当然アメリカの政治家は自らのスピーチの準備は念入りに行います。専門のスピーチライターを雇うこともごく当たり前です。今回のスピーチもスピーチライターが書いたものでした。現に、スピーチライターのメレディス・マクアイバー氏は盗用を認め、謝罪をしています。マクアイバー氏がどうしてこんなパクリをしたのかまではわかりません。単純に面倒臭かったからかもしれませんし、実はこうなることを見越してトランプ氏を貶めようとしたのかもしれません。それはわかりません。
むしろ、今回のこの一件は、トランプ氏の伝統的なスピーチの軽視の顕著な例と言えそうです。ミスとしては明らかにレベルの低いものであり、スピーチの草稿の段階で気づいて然るべきものでした。今回の一件は、たびたび指摘されるトランプ氏の選挙戦略の甘さを再び露呈したものと言えるでしょう。
この記事をシェアする
選挙ドットコムの最新記事をお届けします