
自民党は今秋の臨時国会で、教育公務員特例法を改正し政治的中立に背いた教員に対して罰則規定を設ける方針を固めました。自民党がこのタイミングで改正法案を提出することを決めた背景には、教育現場での政治的中立の確保が大きな課題となっている現状があります。自民党中堅議員は「教師は日本教職員組合(日教組)の支持する民進党に有利な発言をするに決まっている。」と語り、警戒感をあらわにしています。
自民党の懸念もわからなくはありません。しかし、民進党への投票の誘導などといった“あらぬ”疑いをかけられ不満を感じる先生も少なからずいるのではないでしょうか。求められる主権者教育、それに伴う教員に対する政治的中立の要請。先生が政治教育に関して抱える不満、ご紹介します。
「政治的中立は絶対に必要で、教員が考えを押し付けることはあってはならない。だが、自分の意見を聞かれて答えられないような現場も問題」(東京・30代女性)
「罰則が科されるなら自粛ムードが広がる。どこまで許され、許されないのかが分からないことが、これを助長させる」(神奈川・60代男性)
「教員と生徒が問答により理解を深めていくために、時として自分の意見を表明するのも必要だ。そうでないと、何も掘り下げられない」(岩手・40代女性)
(以上、引用「全国公民科・社会科教育研究会」の全国研究大会でアンケート結果)
教員が政治的に中立の立場から授業をすることの必要性を理解しつつも、自らの意見を伝えられないことに不自由さを感じる声や、罰則の規定があることにより、教員が政治教育に対して消極的なイメージを持ってしまう懸念があるとの声があげられています。また、「スマホで授業を録音し、発言の一部だけを切り取られて偏っていると言われる可能性もないとはいえない」と、具体的な状況を想定しての懸念もあがっています。
次に、あまりメディアでは語られることのなかった「主権者教育の導入の実態」について語った教員の声をご紹介します。
「投票年齢が下がったから主権者教育が必要だと言われるが、これまでも教えてはいる。ただ、受験科目じゃないから授業中に「内職」をしている子が多く、ほとんど覚えていないのかもしれない。」
「選挙について教えるのは「現代社会」か「政治・経済」。いずれも2単位で、授業時間にすると年間約50時間しかなく、文科省の作成した高校生向け副教材が勧めるディベートや模擬投票をする余裕はない。」
投票年齢が18歳に引き下げられることを受け、政治機関や各メディアでは教育現場での主権者教育導入の必要性が盛んに唱えられています。しかし、受験科目でないため学生の関心が低いこと、本格的に導入するには時間が十分ではないことなどから効果的な主権者教育の導入は一筋縄ではいかないようです。
今回は18歳選挙権の導入に伴う、主権者教育の必要や政治的中立の要請に対する教育現場の本音をご紹介しました。学校で政治教育をする上で、学生に対して大きな影響力をもつ教員が政治的に中立の立場でいることはとても重要なことです。それを達成するためには罰則も必要なのかもしれません。しかし、実際に授業を担うのは教員です。先生が積極的に主権者教育に取り組むことができる制度作り、最大限に現場の声を取り入れた制度作りを望みます。
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