やまもといちろうさんへのインタビュー第2回は、世論調査の分析から見えてきた有権者の投票行動について。争点や候補者の人柄は、どのように影響しているのでしょうか? 聞き手は選挙ドットコムCCOで選挙プランナーの松田馨が務めます。(全4回掲載)
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松田:選挙においては「争点」が大事だと言われますが、争点について有権者がどう考えているか、それに候補者陣営がどう応えるかで投票行動は変わりますよね。
やまもと:もちろんです。争点は、投票行動の決定において大きなウェイトを占めています。「固有の争点」と「時宜的な争点」の大体2つありますが、時宜的な争点というのは、例えば、民主党政権時代にあった中国の不審船事件とか、もしくは爆買い報道とか、そういうゆらぎの部分も含めて時宜的な争点を選びます。
その最たるものは、小泉さんが仕掛けた「郵政選挙」ですね。「郵政民営化」というどうでもいいことが、あたかも国民全体の問題であるかのように大きく騒いで、「自民党 対 自民党抵抗勢力」の選挙にして圧勝しました。
朝日新聞、読売毎日など各新聞社や時事、共同、NHKなどメディアでやる世論調査は、とても正確です。しかも、きちんと結論を提示してくれるので、大枠の数字は信頼して良い。その上で、何をどう読み取るのかが大事なのです。
ちょっと前だったら原発問題や安保法関連、熊本の大震災など、というのがその都度出てきましたね。でも、もっと根底にある部分、いわゆる国民の関心事に関する調査というのはどこもやっている。
名前はいろいろ違うんですけど、「あなたにとって政治に期待するものはなんですか?」とか「どの候補者を選びましたか?その理由はなんですか?」って質問した際の回答を集計するものです。
昔は「経済・雇用」や「景気対策」など、国民の生活に関わる経済問題であるこの2つがワン・ツーだったんですよ。これが段々下がって、むしろ「介護・医療」と「年金・社会保障」という2つが急浮上しました。これはやっぱり有権者に占める高齢者の増加や、そういう高齢者を支える勤労世代の関心の高まりもあって、シルバー・デモクラシーと呼ばれる一つの新しい胎動となっています。どうやってこれを各政党・各選対がわきまえて自分たちの街頭で訴えていくのか、ポスターのキャッチコピーにするのか、そういったところまで影響しているのが現状ですね。

やまもと:一方で定番の問題として、子育てや出産といった「少子化対策」や、「治安・防災」だとか「外交安全保障」は、重要な政策だけど難解な分野があります。本来政治がやらないといけないけど、理解するべきハードルが高すぎて国民からは人気がない様々な分野があるんですよ。最近、ようやく「保育園落ちた日本死ね」みたいなイベントがあり、待機児童や夫婦共働きに関する意識も高くなってきましたが、調査ではせいぜい8%から12%ぐらいの国民しか反応しません。でも、この政策は日本が本腰を入れて取り組まなければならない少子化対策で重要政策ですから、国民に関心がなかったとしても推し進めなければならないわけですね。そういう個別の政策の関心度や重要度にフォーカスして、どこまで固い票をとるかというのが結構重要なポイントになります。
松田:関心がある人の割合は高くない分野が、実は重要ということですね。
やまもと:そうです。例えば東京選挙区というのは、保育園に預けられなない、だから母親が働けないという子育て層は深刻に問題を捉えるけども、全体の割合で見るとすごく少ない。子育てを重視している政党や候補者は、支持基盤がなくともこういう層にアピールできれば基礎票を底上げできるわけです。子育てにフォーカスしている候補者に関して、有権者は必ずいい印象を持っています。なので、そこに対して目配せを忘れないというのは、一つのセオリーなんですね。
子育てを重視する、小さい票だけど固い票がある。分析する側は大きく政党でくくって「VS共産党」とか、「VS公明党」とか言ってますけども、実際の選挙では彼らの持っている票に対抗して、どこまでこの小さいけど固い票を獲れたのかを調べる必要があります。そこでの支持の動きを見て、その政治家に先があるのかないのかがわかることになります。
つまり、共産党や公明党に対して、たとえば子育てや社会保障の論点で互角か勝てる候補者は議席を守りやすいんですよ。定点観測を続けていると「その政治家はなぜ連続当選できるのか」という分析になっていきます。組織票とは別に、どういう層から支持を受けているのかが分かると、定番の言わなければならない政策に対して、どういう態度を取っていれば有権者の信頼を勝ち取りやすいのかが理解できます。つまりは、国民もしくは選挙区の有権者にとって納得性の高い政治家が勝っていることがわかる。
地元のおじいちゃん、おばあちゃんに対して、「あの先生だったら」という信頼をいかに積み上げていくのか、議員としてのイメージを有権者に定着させていくのかが、連続当選には非常に重要になります。
松田:なるほど。それは政治家の評価で言うところの「人柄」とか「実績」といった、曖昧な言葉で表現されていた部分でしょうか?
やまもと:まさにそうです。「人柄」や「実績」がどこに相関する数字になっているのかというと、実は「子育て」だとか「地域の安全」とか、あの先生だったらついていける、あの先生だったら自分の子供を任せられるという評価基準になっていっているという政治家に対する信頼が、おそらくは数字上に現れているんだということが、私たちが分析している中でわかってきたように思います。
ただ、それを政党に言いに行くと、「子育ては票にならない」とか「教育は好きなやつがやればいいんだ」ってなりやすい。まあ、もちろんそれはそうです。確かに、普通に争点調査でやると、子育て関連はずっと低位なんですよ。最近、少し上がってきましたが。で、安全保障だと5位とか6位と。それよりもまずおじいちゃんおばあちゃんの生活を安心させるのが先だとなって年金問題を街頭でみなさん先に言い始めるんですね。勝ちに行くのが選挙ですから、仕方ないといえばそれまでなんですが。
松田:まさに、現場ではそうした判断が行われています。
やまもと:気持ちはわかりますが、ああいうのって痛いことなんですよ。政治家が「国民の皆さんにバンバン年金配りますよ」とは言えない時代になってきたじゃないですか。財源もはっきりしないのに、口先だけで「年金減らしません」とか「生活を守ります」とか演説してしまう。だからこそ、それが何を意味しているんだっていうのをもうちょっと掘り下げていかないとあとあとそんな政策実現できないじゃないかという話になるし、Webサイトだとか有権者とのコミュニケーションでどんな政策を前に立てていくのかを判断できなくなります。どういう現実味のある政策で自分は頑張っていくのかを説明できないわけです。
目先の選挙で勝つだけでなく、勝ったあと、きちんと実現にコミットできる政策をどう主張して、次の選挙に繋げていくのか。こうした視点が、大枠で言うところの「選挙対策」で欠けているものだろうと僕は思っています。
調べれば数字は出てきます。その数字からその政治家が何をしなければいけないのかは、かなり明確に分かるようになっています。ただしそれが実現できるかは、その政治家本人と選対チームの考え方の、もしくはコミュニケーション能力だったりとか、それに対する知見の深さだったりとか、その政治家の信念だったりとか、大きく影響してくるのかなという風に思いますね。

松田:いやぁ、すごく面白い。以前に関わったある市長選挙で印象に残っている事例があるんですが、事前の世論調査で「あなたは何を重視して投票しますか」という質問をすると、回答1位は「政策・マニフェスト」なんですよ。
やまもと:皆さんそうおっしゃるんですよ。
松田:じゃあ、投票終わった後の出口調査で、その候補に投票した理由を聞くと「人柄」が回答の第1位になっていたんです。
やまもと:実際そうですよね。
松田:じゃあ、その「人柄」とか「実績」とかって、中身はなんだろうってずっと疑問に思っていたんです。所属政党や経験、経歴なども含めた候補者の総合力なんだろうかとか、有権者が候補者に抱くなんとなく「いい人そう」というイメージなんだろうかとか。それが数字で見えているというのは衝撃でした。
やまもと:世論調査の手法が劇的に進化したのが2010年、2011年くらいなんですよ。それこそ日本だと、2008年のアメリカ大統領選挙で、いわゆるデータ民主主義とか言われ始めてネイト・シルバーさんが脚光を浴びた頃に、ようやくみんなの視野にデータの分析が入ってきた頃に調査手法自体も進化した。
2006年とか2007年位のデータをみると、項目に「信頼」とか入っているんですね。信頼ってもっとも微分の難しいもので、じゃあ目の前にいる人の何を持って信頼するのかという話になってくる。実はこれ、接触回数とか選挙カーで連呼された回数とかに反応するんですね。
松田:「選挙カー」と言えば、あまり政治に関心のない層から、嫌がられる選挙運動の代名詞ですよね。それが実は、信頼の獲得につながっていくということですか?
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