皆さんは「Civic Tech」という言葉をご存知ですか?
FinTech(フィンテック)などは既にバズワードになっていますが、実は「Civic Tech(シビックテック)」というのも「一人ひとりが当事者となって、ITで社会を変えていく」という意味で世界的には徐々に市民権を得つつあるワードです(日本ではあまり聞き慣れないかもしれませんが)。
今回は、その「Civic Tech」と「選挙」をテーマにしたイベントがあるということで、選挙ドットコム副編集長の東輝が単身乗り込んでまいりました。世界では既にテクノロジーが選挙、政治のあり方を変えつつある中、これから日本の選挙・政治はどう変わっていくのか、4人の登壇者のお話をご紹介します。
まず登壇されたのは、NPO法人ドットジェイピーの関信司さん。ドットジェイピーは、政治家の政治資金の透明性を向上し、政治とカネの問題に取り組むために、6月に「ラポール・ジャパン」というWebサービスをローンチしました。
今年に入ってからも、甘利元経産相や舛添都知事の政治資金の問題など、「政治とカネ」の問題は国民の信頼を失う大きなイシューとなっていました。皆さんの中にも、「もっとちゃんと情報公開してよ」という思いを持っていらっしゃる方は少なくないと思います。
しかし、実はきちんとそれぞれの政治家は政治資金の収支報告を公開はしているのですが、それがオンラインに上がってこなかったんですよね。総務省は公開しているんですが、都道府県では公開しているところが半分ほどしかない。
しかも、公開されているのは、紙の収支報告書の画像データなので、見るのも大変でした。そもそも収支報告書の内容が複雑すぎて一般の人は見てもわからない。
そんな状況を打破すべく、生まれたのが「ラポール・ジャパン」です。
関さんは言います。「このサービスは、民主主義のコストを可視化することで、政治家のコンプライアンスの意識向上と有権者のリテラシー向上へとつながります。そして資金の集め方を知ることで政治家の地盤・かばんがわかり、資金の使い方を知ることで政治家の人間性がわかるようになるんです。」と。
確かに、IT音痴な僕が触ってもとても直感的に使えるユーザーインターフェースで、遊び感覚で楽しむことができるサービスでした。
今後、情報公開がさらに進み、「あの政治家はどういう風にお金を集めて、何に使ってるんだろう」ということが有権者自身の手で知ることができる、そんな時代がやってくるんですね。そして、いつしか政治とカネはイシューではなくなっていくのだと。
続いて登壇されたのは、Webメディア『政治山』を運営されている株式会社パイプドビッツの市ノ澤充さん。市ノ澤さんが開口一番に切り出したのは、「ネット投票」でした。「今日は共通投票所がネット投票への第一歩であるというお話をしたいと思います。」
皆さんも、投票率向上のための一番の施策は、マスコットキャラクターを作ることでも、かわいい女優をPR大使にすることでもなく、ネット投票の実現だということを感じていらっしゃると思います。
しかし、今ではそもそも決められた一つの投票所以外の場所ですら投票ができなかった。そんな中で、オンラインのネット投票なんていつ実現するんだということを感じていらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか。
しかし、実はこの共通投票所制度って、オンラインで部分的に本人認証をできるようになっているんです。市ノ澤さんによると、これはネット投票につながる大きな第一歩とのこと。
もっとも、ネット投票の一番むずかしいポイントは、自治体を超えた本人認証で、共通投票所制度もあくまで自治体の中で選挙人名簿の生成が委任されているので、自治体を超えたデータベース共有ができる段階ではないんだそうです。そこをどう共有させるかがポイントなんだとか。
パイプドビッツは、実は某アイドルグループの巨大選挙でネット投票を業務受託している会社で、毎秒1万アクセス、1000投票に耐える実績を持っていたり、自民党のオープンエントリーなども請け負っているのだそう。
市ノ澤さんは、まずは在外投票のコスト削減のために、在外投票からネット投票を実現したいとおっしゃっていました。ネット投票は、まだ先進国でも日本ほどの人口と比肩できるような国での実施はないため、これからどれくらいのスピードをもって実現していくのかが非常に気になります。
次にお話しされたのは、BuzzFeed Japanから石戸愉さん。少し話は変わり、「インターネットは政治に直接的な影響を与えていないのではないか」という観点からお話しされました。
3年前、TwitterやFacebookが流行ってきた結果、「ネット選挙」というのが解禁されました。その頃は、世代を超えて「ネット選挙だ!」という熱気が生じ、何かが変わるかもしれないという社会の雰囲気がありました。
しかし、あれから3年、インターネット選挙が解禁された結果、政治の世界で大きな変化があったかというと、実はほとんど何も変わっていない。インターネットは政治に直接的な影響を与えていないんです。
考えてみたら当たり前で、そもそもアメリカとは違って、日本は政治的なイシューをSNSで言ったりしませんし、政治的な課題をシェアしたりはしませんよね。だからいま日本の政治でインターネットというのがどういうポジションにあるのかが非常に揺らいでいる状況なんです。
石戸さんは、BuzzFeedで「【参院選】ネット党首討論 で憲法を語り、街頭で経済を語る首相 改憲は争点なのか?└ネット党首討論で憲法を語り、街角で経済を語る首相」という記事を書かれました。
石戸さんは、「政治家が『語らない』というコミュニケーションを覚えた」とおっしゃいます。街頭では憲法は語らず、インターネットでは憲法を語る。なぜならインターネットは直接的な政治の影響力を持っていないのだとわかっているからです。
ネットと政治の関係性を考える上で、このような視点をネットメディアの記者さんが語ることは非常に示唆的でした。
そういえば、最近津田大介さん(『ウェブで政治を動かす!」の著者)も、「『文春砲』では、やっぱり政治は動かない」で、「最近とみに思うのは、政治は『ウェブ』じゃなくて、『お金』と『電話』で動いているなぁということです。」と語っていらっしゃったことも思い出しました。
会はヒートアップしていき、次第に「現状の投票システムの問題点」がテーマになっていきました。
最初に出たのは、「自署方式」の問題点。そもそも、候補者の名前を有権者自身に書かせるシステムって世界的には珍しいことなんです。名前を書かせるのがまずい最大の理由は、自署方式のせいで候補者は有権者にとにかく名前を覚えて貰う必要があり、「名前の連呼」運動が合理的になってしまうこと。結局名前を覚えてもらえるかどうかが勝負になってしまうから、選挙カーで名前と政党を連呼しまくることになるんですよね。まずはマークシートや自署式以外のかたちで選挙をしていかないといけないという話になりました。
ただし、そんな簡単に自署式は変えられないという意見も。なぜなら議員は何十年もかけて名前覚えてもらったんだから。自分の利益を失わせるシステムなんかにはできないし、議員の中には二世、三世議員も多くて彼らも名前は有名だから、自書式は辞められないはずだと。
登壇謝たちの間でもっとも議論がわかれたのが、「人工知能(AI)が発達した先の世界の選挙がどうなるか」というテーマでした。
ドットジェイピーの関さんは、究極は、AIに任せるにしかないとおっしゃっていました。問題は、いつ議員が政治的意思決定のパワーをAIに渡すのかだと。そして、どこの国もAIで政治判断を下すのであれば、国同士の利害調整をAI同士がしていく。とすると、さらにもう一段階上に置くべきAIが生まれて、最終的にはそのAIが世界の利益配分を行うのではないかという着地点を見出していました。
これに反論したのが、弊社の佐藤哲也です。佐藤によると、政治はAIに切り替わらないと考えていて、その理由は、人々は合理的な、もっともらしい政治の答えを求めていて、正解を求めているわけではないから、結局答えがもっともらしければよいはずで、つまるところ人間の意思決定に身を委ねることになるのだと。
また、市ノ澤さんは別の視点から、2030年代には、地方議会がなくなる自治体が出るはずと指摘されます。議員は必要なくなり、オンラインで住民が大枠において賛成・反対するだけで、あとは全部AIにまかせるレベルになると。AIによって国政が急に変わるのではなく、まず地方から変わっていくだろうと予想されていました。
石戸さんもこれにうなずきます。地方議会はあと10年維持できるかどうかだと。
ITやAIが発達した結果、政治は前進するのかというのは注意深く考えなければならない問いです。
情報公開は善であるのか、ネット投票は衆愚を導かないのか、AIに意思決定権限を渡していいのか、地方議会が消滅することは望ましいことなのか。
僕が震災後の東北で活動していたとき、ある言葉に出会いました。
「国が言っていることはわかるんです。スピーディーに物事を進めるために、多数決でさっさと決めてしまいたいという行政のいうこともわかるんです。それが合理的で正解だということも知ってます。だけど、政治っていうのはそういう正解ばかりを追い求めるものじゃなくて、合意形成のためのプロセスのためにあるはずで。ほしいのは正解ではなく納得なんです。」
ITやAIが発達した社会は、おそらくものすごくスピーディーに物事が決まっていく社会。その時、最大多数の最大幸福を追い求める構造の中で少数派の方々の合意形成プロセスはどうなっていくのか。
ITやAIが発達した結果、政治は前進するのかというのは、やはり注意深く考えなければならない問いです。
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