5月22日、オーストリアの大統領選挙で元「緑の党」党首で無所属のフンボルト氏が、移民排斥を訴える「自由党」のホファー氏を破り当選しました。今回の選挙では、これまでオーストリアの政治の中心を担ってきた中道左派の社会民主党、保守派の国民党が早い段階で敗退するなど、既存政治への不信感が国民の間で強まっていました。オーストリアにおいて大統領は象徴的な地位にすぎませんが、行政のリーダーである首相のファイマン氏が辞任するなど衝撃が広がっています。一体オーストリアで何が起きているのでしょうか。
現在ヨーロッパでは、内戦状態に陥っている中東・アフリカ諸国から大量の難民が流入するという問題が起きています。ドイツが早くから難民受け入れを表明したため、難民の多くはドイツを目指して中東・アフリカ諸国から大量に移動することとなります。その通過地点に位置するのがオーストリアで、100万人超が立ち寄るとされています。
難民の目的地や中継地となる国々では、大量の難民流入への不安が高まり、従来の移民排除論と合わさる形で、反難民の機運が高まっていました。オーストリアも例外ではありません。当初オーストリア政府は、ドイツのメルケル首相の難民受け入れを支持してきましたが、2月には政府が難民の入国制限の強化を発表しました。それでも、制限を不十分だとする、あるいはそれまでの難民受け入れに依然として不満を持つオーストリア国民の反発を受けてしまいました。
また、連立与党への不信が近年強まっているという問題があります。長らく与党だった社会民主党が単独で政権を取れなくなり、2007年以降国民党との連立政権を余儀なくされました。その中で、基本政策を巡り対立するなど、国民から失望を買っていました。そして、直近の統計では失業率が5.7%に達するなど、世界的に見ればそこまでではないものの、既存政治への不信を高める結果になっています。
これに難民受け入れ政策をめぐる混乱が重なって、連立与党への不満が一気に高まったのです。
そのような中行われた大統領選では、4月24日の第一回の投票で早くも連立与党の候補2名が敗退し、無所属フンボルト氏と自由党ホファー氏が決選投票に残りました。この時にはホファー氏が得票率トップであり、欧州初の極右リーダー誕生を懸念する声が現実味を帯びるようになりました。
その後、連立与党が揃ってフンボルト氏支持に回った結果、5月22日、フンボルト氏が勝利を収めました。しかし、わずか31,000票差の勝利であり、肉体労働者の9割がホファー氏を支持するなど、極右の台頭はヨーロッパ各国に衝撃を与えました。
ホファー氏の善戦を受けて、昨年の地方選挙で躍進したフランス極右政党「国民戦線」は「歴史的な出来栄え」とのコメントを出しています。近年極右政党の台頭がヨーロッパで進んでいますが、今回の善戦がその動きを勢いづけることは間違いないでしょう。既存政治には国民の不信感を解くことが一層求められています。
この記事をシェアする
選挙ドットコムの最新記事をお届けします
My選挙
あなたの選挙区はどこですか? 会員登録をしてもっと楽しく、便利に。
話題のキーワード