70年ぶりの選挙権年齢の拡大となった18歳選挙権の実施に向けて、各地で様々な取り組みが行われています。これまで選挙権がなく、政治的な発言権を持ちにくかった未成年にとって、自らの意思を社会に伝えていくための大きなチャンスとなります。
18歳選挙権に向けた取り組みが一時的なブームとなるのではなく、若者の政治的な意思表明の機会となっていくために必要な事柄は何なのでしょうか。海外事例に続いて、日本における主権者教育の現状並びに今後の方向性を確認します。
総務省に2011年に設置された「常時啓発事業のあり方等研究会」は、社会の構成員としての市民が備えるべき市民性を育成するために行われる教育であるシティズンシップ教育のうち、「市民と政治とのかかわり」に関するものを「主権者教育」として定義しています。そこでは、社会に参加し、自ら考え、自ら判断する自立した主権者を作ることを目指すこととされています。また、学校教育との連携も言及されています。
それでは、この「市民と政治とのかかわり」は、具体的にはどのような内容となるのでしょうか。特に、18歳選挙権に向けて大切になる現実の政治とのかかわりはどうなっているでしょうか。学校教育に焦点を当てて確認してみましょう。
図表1に示すように、政治教育については教育基本法において定められています。そこでは、私たちが暮らす民主主義の社会では、「政治に関する様々な知識やこれに対する批判力などの政治的教養が必要であることを踏まえ、それが教育において尊重されるべきこと」が規定されています。ただし、学校教育においては、なにかに偏った内容だけが教示されないように、「一党一派の政治的な主義・主張が持ち込まれたり、学校が政治的活動の舞台となるようなことは厳に避けなくてはならない」として政治的中立性が求められています。
なお、図表1にもあるように、政治的教養においては、民主政治に関する制度的知識だけではなく、現実の政治への理解力や批判力、政治的道徳や政治的信念が求められています。同様に、政治的中立性についても、党派的な主張や政策に触れることはあり得ることであり、そのための注意事項が記載されています。
このように、教育基本法において、現実の政治的課題を授業で取り上げることについて避けるように規定されているわけではないことが分かります。
(注)総務省、文部科学省による副教材「私たちが拓く日本の未来」の挨拶文において、副教材の用途として「主権者教育のお役に立つこと」(総務省)、「政治的教養に関する教育の一層の充実を図ること」(文部科学省)とされるなど、省庁間で用語の統一が図られていない状況にあるようですが、以下では主権者教育と政治教育を同義語として扱います。
図表2には、現在の学習指導要領から、政治教育に関する事項を引用しました。高等学校では、公民科における科目の「現代社会」、「政治経済」において、それぞれ規定されています。「政治の在り方について国民生活とのかかわりから認識を深めさせる」(現代社会)、「政党政治や選挙などに着目して、望ましい政治の在り方及び主権者としての政治参加の在り方について考察させる」(政治・経済)と、ここでも制度知識にとどまらない学習が求められていることが分かります。(注2)
また、中央教育審議会内の組織がまとめた報告書では、図表3のようにすべての高校生に身に付けさせる資質・能力を「コア」としてまとめています。この「コア」と学習指導要領の関係については、現在の学習指導要領が示す必履修教科・科目等は、高等学校において全ての生徒が身に付けるべきコアの内容を、教科・科目等の形でしてしているものとされています。そのコアの中に、「市民性(市民社会に関する知識理解、社会の一員として参画し貢献する意識など)」が位置付けられていることは、授業で現実の政治課題を扱うことの意味を考える上でも重要です。
(注2)なお、参考資料として、中学校や小学校の学習指導要領からの抜粋もご紹介します。それぞれの段階に合わせた政治教育が求められていることがわかります。
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