アントニオ猪木参院議員らが所属する国政政党「日本を元気にする会」が存続の危機に立たされている。所属議員の1人が離党届を出し、政党の条件である「所属議員5人」を割り込んだからだ。党員によるネット投票で法案への賛否を決めるという画期的な政治手法を打ち出した政党だったが、たった一年で姿を消す可能性が高まっている。
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元気にする会は昨年解党したみんなの党の出身者を中心に、次世代の党を離党したアントニオ猪木氏を加えた5人で、今年1月に設立した。代表はタリーズ珈琲の創業者として知られる松田公太参院議員。重要な法案に直面するたびに党員によるネット投票を行い、賛否の割合に応じて所属議員の賛成票、反対票を振り分けるという「直接民主主義」が売りだ。
党員の意見を議員の投票行動に反映するというのは珍しく、面白い試みだが、5人の参院議員だけでは影響力に限界がある。実際に改正労働者派遣法の採決に際して行った党員投票では51%が賛成、49%が反対。これを受けて所属議員5人のうち3人が賛成、2人が反対票を投じたが、法案成立の可否に何ら影響を及ぼすことはなかった。
「少数政党の悲哀」に限界を感じたからか、今月7日、井上義行参院議員が離党届を提出した。松田代表は「正式に受理していない」としているが、離党が認められれば所属議員が4人となり、政党ではなくなる。これを受けて他の議員も離党を検討しており、元気にする会は空中分解の可能性が高まっている。
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新聞などで「政党要件」と表現される、政党として認められる条件には2つある。1つが「所属国会議員が5人以上」、もう1つが「所属国会議員が1人以上、かつ、直近の国政選挙における全国を通じた得票率が2%以上のもの」。この“どちらか”を満たせばいい。
元気にする会は前者をギリギリ満たすことで政党として認められた。同党の前身であるみんなの党も同様。渡辺喜美氏、江田憲司氏らが中心となり、「小泉チルドレン」らをかき集めてギリギリ5人を確保。2009年8月の衆院選直前に政党として立ち上げた。
政治家が政党にこだわるのには、2つの理由がある。1つがカネ、もう1つが選挙だ。
カネとは、政党交付金のこと。税金から政党の活動資金として支払われる政党交付金は、毎年1月1日時点で存在する政党が対象である。総額約320億円のうち半分は議員の数に応じて、もう半分は過去の選挙の得票率に応じて支払われる。交付金を受け取るために元気にする会は5人の議員を確保し、今年1月に滑り込みで設立された。
選挙に関しては、政党の方が有利になるルールがたくさんある。例えば衆院選では政党の公認候補だけが小選挙区と比例代表の重複立候補が認められているし、選挙前にテレビでみかける「政見放送」も政党の候補でなければ出演することができない。
選挙中のポスターやビラの枚数、選挙カーの台数にも「政党枠」があるし、企業・団体からの献金も政党でなければ受け取ることができない。これらのルールにより、最近では政党以外の政治団体が国政選挙で議席を得ることはほとんどない。だからこそ、みんなの党も2009年の選挙直前に政党を立ち上げたのだ。
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「あれ?5人未満の政党ってなかったっけ?」という疑問を持つ人は、なかなかの政治通だ。かつて舛添要一東京都知事が率いた新党改革の所属議員は現在、荒井広幸参院議員1人。2つ目の政党要件である「所属国会議員が1人以上、かつ、直近の国政選挙における全国を通じた得票率が2%以上のもの」を満たしているため、一般的に政党として扱われている。
「一般的に」と書いたのは、法律によって政党要件が微妙に異なるためだ。政党交付金の助成対象を定める政党助成法における「直近の国政選挙」とは、前回の衆院選と前回の参院選、前々回の参院選。現在でいうと2014年の衆院選、2013年の参院選、2010年の参院選のいずれかで、選挙区か比例代表で2%以上得票していれば助成対象となる。
しかし、公職選挙法における「直近の国政選挙」は前回の衆院選と前回の参院選のみ。新党改革は2010年参院選で全国比例の得票率が2%を超えたものの、その後は2%を割り込んでいるため、政党助成法上は政党、公職選挙法上は政党でないという奇妙な立ち位置に置かれている。
政党助成金は振り込まれるが、選挙になれば政党のメリットを享受することができないのだ。来夏の参院選で得票率が2%を割り込めば政党助成法上も政党要件を失うことになる。
所属議員が4人か、5人か、得票率が1.9%か、2%かの違いで助成金どころか、選挙での扱いも違うというのはいかがなものかという批判もある。他国に比べて高いとされる「供託金」と同様に、多様な人材が政界に流入するのを妨げる「参入障壁」とも指摘される。
候補や政党が乱立すれば「有権者が混乱する」という名目で設けられた制度なのだろうが、これだけ情報の伝達が容易になった現代でも続ける必要はあるのだろうか。政党要件のあり方も時代に合わせて見直してもいいのかもしれない。
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