立花孝志代表率いる「NHKから国民を守る党(以下、N国)」が7月21日に投開票が行われた第25回参議院議員通常選挙(以下、今回の参院選)で比例で1議席を獲得し、全国の選挙区で得た得票率の合計が2%を超えたため政治資金規正法、政党助成法が定める政党要件を満たすことにもなりました。
選挙前の国会議員ゼロから比例で1議席・政党要件獲得を果たしたN国の選挙戦略を、選挙ドットコムが行った立花代表へのインタビューも振り返りつつ、詳しく見てみることにしましょう。
N国・立花代表は主な情報発信の手段としてYouTubeの動画配信を用いています。
立花代表が7月10日に自身のYouTubeチャンネルでアップロードした今回の参院選の政見放送の動画の再生回数は25日現在で約319万回を超えています。
政見放送はこれまでの地方選挙でも多用してきたキャッチコピー「NHKをぶっ壊す」を繰り返すなど、奇をてらった内容でした。
この政見放送の意図について立花代表は、「まずは政治とはまったく関係のないところで関心を引き付けることが必要」「一度選挙に行ってもらうきっかけを作るには面白いこと、インタレストなこと、笑わせること、笑った上でためになることが重要」と、選挙期間中に選挙ドットコムが行ったインタビューで述べていました。
また、7月21日に放送されたインターネットテレビ局AbemaTVの番組に出演した際には「今は注目を集めるために、ふざけながら真面目なことをやっている、次回はバシッとしたものを出したいと思う」とも述べ、情報発信の方向性を今後変える可能性にも触れています。
今回の参院選でN国は議席獲得ではなく、政党要件を満たすことを目標にしていました。
選挙期間中に選挙ドットコムが行ったインタビューに対して、立花代表は「(政党要件を満たして)政党助成金をもらえるのが直近の国政選挙で全国の得票率が2%以上です。それにエントリーするのに必要な最低3300万円を稼ぐため、地方選挙の結果や最低得票数を網羅して、どれくらいの議員報酬でどれくらい票を取れば地方議員になれるのかをザ選挙(注・選挙ドットコムの前身)や選挙ドットコムの選挙データベースなどを使って調べ上げました。6年前からそれをやってきたところ、地方の議員をやって勉強し、お金を貯めて国会議員に挑戦するべきなんだな、と思いました」「6年前から市議会議員に挑戦して、4年前に初当選しました。当選から4年後の今年の統一地方選でドーンと弾けたので参院選に挑戦する権利を得られたなと思いました」と話していました。
立花氏が自身のYouTubeチャンネルで公開している動画で、比例で2%の壁はとても厚いため比例ではなく選挙区の得票の合計での2%超えを狙った、と発言しています。
過去の選挙では幸福実現党が得票率1.7%まで達していたため、今回の参院選ではN国が2%を超えられる勝算ありと判断し、全国の選挙区に候補者を擁立する判断をしたようです。これについて選挙プランナーの松田馨氏は「政党の認知度アップや比例での各得票数の増加を目的に、選挙区で当選が見込めない候補を複数擁立するのは選挙戦術としては一般的だが、政党要件を満たすために選挙区での得票率2%超えを目指して複数候補を擁立したという話は聞いたことがない。見事な戦略でした。」と選挙ドットコムの取材に述べました。
N国は徹底的なワン・イシューを主張してきました。今回の参院選にあたって選挙ドットコムが行った主要政策に関する取材に対しても、年金対策や消費税増税、憲法改正などの政策分野に関して「回答なし:一切言っていない」と回答しています。
選挙公報でも「NHKをぶっ壊す!」「NHKスクランブル放送の実現」「NHK受信料を支払わない人を応援します」を全面に掲げていました。
選挙ドットコムの選挙期間中のインタビューに対して立花氏は「NHKの受信料、スクランブル放送というほとんどの国民に関係するような政策について国民の声を聴かない、国民投票やアンケート調査をしない政治のやり方でいいんですか」「あまりにも国民の声を無視した政治が行われているんじゃないか。わかりやすく言えばスクランブル放送に賛成か反対か、が争点です」とコメント。
また、立花氏は「現在の間接民主主義では国民の声と実際の政治との間に乖離が生じてしまいます。僕たちが念頭に置いているのは『直接民主主義』で有権者がどんな議案でもその時々で賛成、反対、棄権を直接選べるようにしたいと思っています」と話しました。
その一方で直接民主主義の実現ではなくNHKのスクランブル放送の是非、というワン・イシューを掲げている理由として立花氏は「直接民主主義を掲げると斬新すぎて間接民主主義が当たり前だと思っている有権者に受け入れてもらえないんです。メディアで報じられるときに『NHKから国民を守る党の主張は直接民主主義の実現です』ではなく『NHKから国民を守る党の公約はNHKのスクランブル放送です』という報道しかできないようにあえてワン・イシューにしているんです」と述べました。
ワン・イシューを掲げた過去の政党の例として、サラリーマン新党が「スーツ代を必要経費に」になどのわかりやすいスローガンで1983年の参院選において2議席を獲得しています。最近では「支持政党なし」が2016年の参院選比例で約70万票を獲得していますが、議席獲得には至りませんでした。
今回の参院選選挙区では、野党共闘が進んだことで与野党の対決に注目が集まりました。その一方で近年の国政選挙でみられた「第三極」勢力が、関西圏や関東の一部の選挙区をのぞいて擁立が少ないという傾向が見られました。
そのような状況でN国が得票を伸ばした一因について、選挙プランナーの松田馨氏は「誰もが知っているNHKの知名度を利用し、強引な集金人に対する不満や受信料の支払いに対して反発を覚える有権者にうまくリーチした。選挙区での得票は『与野党対決』のなかでどちらにも入れたくない、行き場のない票の受け皿になったとも考えられる。」と述べています。
N国の立花代表は、今年5月に日本維新の会を除名された無所属の丸山穂高衆院議員と面会し、入党を依頼するなど国会内での勢力拡大を目指す動きを見せています。NHKのスクランブル放送実現のためには手段を選ばないN国代表の立花氏は国会でどんな動きを見せていくのでしょうか。今後の動向に注目が集まります。
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