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1960年総選挙での自民党の勝因として挙げた3つのポイントを、現在の政治の文脈に当てはめると次のようになる。
まず、安全保障関連法案(成立)後に迎える国政選挙は、1960年とは異なり、(おそらく)総選挙ではなく、来年夏の参院選である。概して参院選は、与党に不利に働きやすい。いわゆる「1955年体制」の成立以降、1980年・1986年の2回の衆参同日選挙を除き、参院選は事実上の「中間選挙」として行われてきたが、2001年・2013年の2回の参院選の他は例外なく、与党は直近の総選挙に比べ得票率を低下させているのである。
その一因は、参院選が第二院の選挙であるため、政権与党の交代を伴う文字通りの政権交代には直結しないことにある。というのも、政権選択選挙ではないが故に、政権担当能力があると有権者に認識されているか否かにかかわらず、野党は現政権への批判票の受け皿となり得るからである。
次に、選挙制度に関しても、1960年とは大きく異なる。すなわち、1960年の総選挙が中選挙区制の下で行われたのに対し、2016年の参院選は、改選数73のうち一人区が32を占める「選挙区選出議員選挙」と改選数48の「比例代表選出議員選挙」の「混合制」の下で行われる。先に述べたとおり、同一選挙区から複数の候補者が立つ中選挙区制の下では、政党・政策をめぐる争いという側面よりもむしろ、選挙区を代表する議員として誰を選ぶかという候補者選択の側面が強くなる。これに対し、参院選の選挙区選挙の一人区はもちろんのこと、改選数2以上の選挙区でも同一政党の候補者が1名しかたたない場合には、逆に、候補者というよりもむしろ政党(及びその党首)・政策をめぐる争いとなりやすい。政党名だけでなく候補者名を書いて投票することもできるものの、比例代表選挙もまた然りである。このため、中間選挙として行われる2016年参院選では、安全保障政策を含めた安倍内閣の政策全般に対する業績評価に基づく投票行動がとられやすくなると考えられる。
このように、安全保障関連法案(成立)後最初に行われる国政選挙が総選挙ではなく政権選択選挙としての意味を持たない参院選であること、参院選では候補者に対する評価よりも政党に対する評価や政策争点に対する態度に基づく投票行動がとられやすい選挙制度が採用されていることから、来る選挙で政権与党は苦戦を強いられることが予想される。ただし、実際に与党がどの程度苦戦するかは、野党間での選挙協力の進み具合によって左右される。業績評価に基づく現政権への批判票の受け皿として複数の野党がそれぞれ候補者を立てるような状況になると、結果的に自民党が漁夫の利を得ることになるのである。
最後に、擬似政権交代に関しては、これが起こる可能性は極めて低い。9月8日に安倍首相が無投票で自民党総裁に再選されたことから、第一次内閣の際のように体調不良で職責を全うできないという事態にでもならない限り、2016年参院選も安倍内閣の下で行われることになる。
安倍首相は、1960年の前例に倣い、形式として首相の交代を伴わないものの、実質として擬似政権交代が起こったかのような状況を作り出そうとするだろう。すなわち、安全保障関連法案の成立後は、国民生活により密接に関わる経済成長政策-アベノミクス-を再び前面に打ち出して政権運営を行うことで、「チェンジ・オヴ・ペース」を図るものと考えられる。もっとも、池田首相の時のようにうまくいくかどうかは未知数である。池田首相が「チェンジ・オヴ・ペース」を図った際には、既に経済成長が進行中であったため、政治・外交から経済・内政へと国民の視線を移すのは比較的容易であった。しかし現在は、1960年当時のような経済成長の流れができているわけでは必ずしもない。しかも当時とは異なり、グローバル化の進展によって一国の経済政策だけでその国の景気が決まるわけではなく、外的要因によっても景気は大きく左右される。このため、経済成長政策を前面に掲げたとしても、期待された効果が上がるか定かではない。
ただ、うまくいくかわからないとしても、経済成長政策を前面に押し出すことは、来年の参院選に向けた選挙戦略としては理に適っている。多くの国民にとって最も重要なのは、自分の生活に直結する政策だからである。つまり、安倍首相が訴えるように「景気回復の実感を必ずや全国津々浦々にまでお届けする」ことができれば、自民党が来年の参院選での劣勢を挽回することも可能と考えられる。
繰り返しになるが、政界の一寸先は闇と言われる。現時点で来年夏の参院選について云々するのは無謀ではあるが、過去の事例と政治制度(二院制・選挙制度)の特徴に即して考えると、上記のような予測が導かれる。
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