今回の山形市長選挙は梅津庸成候補と佐藤孝弘候補の一騎打ちであることには疑う余地はないが、もうひとり立候補している五十嵐右二(いがらしゆうじ)氏を忘れてはいけない。
本来であれば、彼の写真も掲載したいのだが、ネットをやっていないと情報が無く、写真を入手するのは難しい。今回も五十嵐氏の写真はマスコミしか掲載できていなかった。
そこで、せっかく現地に来たのだから、彼の事務所に行き(もしあれば)、直接写真をもらおうと考えた。
連絡先は選挙管理委員会まで行けば教えてくれそうだが、ネットで検索したところ、蔵王のあたりでラーメン屋をやっているということがわかり、どうせならそのラーメン屋を訪ねてみようと考えた。
五十嵐候補のラーメン屋は道の駅「山形県観光物産館」の中に建っていた。テレビでも紹介されるほど美味しいらしい。
裏からまわってみたところ、なんと、選挙カーがあるではないか。思わず「写真撮っていいですか?」と車の中にいた女性に聞いたところ「そこに本人がいるよ」と言われ、振り向いたら、なんと本人が!
ちょうどこれから選挙カーで出るところだということで、慌てて本人の写真を撮らせてもらい、少し話を聞いたらこれが面白かった。途中で「なんで録画しなかったんだろう」と激しく後悔したくらいだった。
彼の政策は「年金で入れる介護施設を充実させる」というものだという。通常、介護施設に入るには、少なくとも毎月20万円近くはかかる。しかし、年金は月に数万円程度。これでは年金だけでは介護施設には入れない。だから作ろうというものだ。
財源は置いといて(本当はそこをちゃんと教えてもらわなければならないのだが)、とてもわかり易い。
今回市長選に出た理由は「怒り」だという。実は、彼は今まで7回立候補したことがあるらしい。今年の統一地方選では、最初ある政党からオファーがあり、その気になったところで党内から反対の声が上がって立候補は見送られてしまった。「そんな理不尽なことってありますか?」柔らかな物言いの中に、怒りが見えた。
今回の市長選は、政党対政党の激しい戦いにあることはわかっていたという。だからこそ、政党を支持しない層の受け皿になれるのではないかと考えた。梅津対佐藤の政党間戦争で疲弊した市民に支持されれば、蓋を開けたら浮上していたということになるのではないかと踏んでいる。
選挙の常識からしたら笑われてしまうような話だが、五十嵐氏の話を聞いていると、大好きな親戚のおじさんの話を聞いているようで、とても癒やされる。これが山形弁の持つ柔らかさなのかもしれない。
自分の立候補がバカげているなんてことは百も承知だという。だから選挙に金はかけない。ポスターやチラシは、今回嫌がらせを受けて印刷させてもらえなかったそうだ。だから、統一地方選挙のときに余ったポスターを自分で切り貼りして作った。選挙カーも自作だという。
選挙カーでまわるのは午後の暇な時間。反応は上々らしい。
お年寄りが年金だけで安心できる社会。金のかからない選挙。いちいち正論で聞いていて気持ちが良い。
このような人物が政治家になれなくても、その声を聞けるような場があれば良いのに。そこに本当の「地方創生」のヒントは無いのだろうか。
熾烈な戦いの裏には、こんな「柔らかい」候補もいて、その候補者に出会えて癒やされたことは、今回の取材旅行の意図しない大きな土産となった。
・山形市長選挙候補者一覧
・山形市長選ルポ(後編)激戦すぎるからあえて禁断の方法で結果を予想してみると(9月12日)
・山形市長選挙ルポ(前編)あらゆる点で常識外れな死闘 しかも記録的な大雨の中で(9月11日)
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