選挙ドットコム

“選管の神様”、小島勇人氏に1票の重みを説かれる(小池みきの下から選挙入門⑥)

2015/8/19

小池みき

小池みき

senkyo_06

選挙プランナー・マツダ参謀長に連れられて、川崎市のとある場所までやってきた。参謀長の話では、ここに「選管(選挙管理委員会)の神様」と呼ばれる人物がいるのだという。いくら日本が八百万の神の国とはいえ、神様にこんなホイホイ会えていいのだろうか。

「やあどうも、初めまして」

会えてしまった。選管の神様こと、小島勇人氏である。大学卒業後川崎市役所に就職、選挙管理委員会に配属されて定年まで勤め、今も“選挙管理アドバイザー”として選挙界を支え続けている重鎮だ。選挙事務歴はなんと40年以上。しかしご本人は、「やめてくださいよ神様なんて」と“すごい人”扱いされるのを嫌がるのだった。

小島氏の部屋は壁一面が棚で、分厚いファイルが隙間なく並んでいる。その背のタイトルはどれも、小島氏による手書きらしい。これまで選管職員として、そして選挙管理アドバイザーとして受けてきた様々な質疑への応答資料、新聞記事のスクラップ、過去に行われてきたありとあらゆる国政選挙・地方選挙のデータ。日本の選挙の歴史が、ものすごい密度で詰まっている部屋なのだ。にわかに緊張高まる。

マツダ参謀長「小池さん、すごいでしょうこの部屋」
小池「すごいっす。選挙の歴史の重みを感じます」
小島氏「ゴミみたいなもんですよ(あっさり)」
マツダ参謀長「いやいやいや何を言うんですか(汗)」

この部屋だけでは収まりきらず、別の部屋にも山のように資料を積んでいるとのこと。マツダ参謀長のような職業の人にとってはゴミどころか宝物庫だろう。

小島氏「選挙管理委員会の仕事っていうのは、ひらたく言えば二つです。選挙の管理執行と選挙啓発。それはご存知ですか?」
小池「かろうじて……(さっき聞いたから)」

小島氏「機関としての説明をすると、まず一番上に中央選挙管理会っていうのがあるんです。事務局は総務省自治行政局選挙部。中央選挙管理会は、衆参両院の比例代表選出分や最高裁の国民審査に関する事務、あとまだ一回も行われていないけど、憲法改正国民投票の管理事務なんかをやります。で、中央選挙管理会の下にあるのが都道府県の選挙管理委員会。ここは実務はそんなに持っていない。具体的事務執行した仕事が多いのは、その更に下についている市町村の選挙管理委員会です」

ふむふむ。行政区分に合わせたトップダウン式の構造になっているわけだ……と思ったら、トップダウンというわけでもないらしい。

小島氏「平成11年(1999)までは、確かに中央選管に指揮監督権があって、こうせいああせいって指示を出してたんだけどね。平成12年(2000)に地方分権一括法っていう法律が施行されてちょっと変わったんですよ。ざっくり言えば、国と都道府県や市町村の関係は“対等”ってことになった。だから今は中央選管に指揮監督権はありません」

地方分権一括法は、地方の力をもっと強めようというコンセプトで作られた法案である。この法案の施行によって機関委任事務(国の機関が、地方の機関に指示する形で進める事務)が廃止となり、諸々の事務は各自治体が主体となって切り回すようになったのだ。

小島氏「ただ、いきなり『はい全部そっちでやってくださいね』と言っても、実際は色々トラブルが起きたりするでしょ。だから実際のところは、『あれこれ指図はしないけれども、技術的な指導や、必要に応じた勧告はしましょう』という関係です」

確かに、全国すべての選管に、小島さんのような“選挙の生き字引”的な人が常駐しているとは考えづらい。前回の話によれば、選管は公職選挙法に基づいた監視や勧告などの仕事も負っているという。法律がからむ以上、かなり専門性の高い仕事内容に違いない。

小島「ただし、指定都市選管からその指定都市の区選管に対しての指揮監督権は残ってます。市選管が親で子が区選管、みたいな関係ですね。川崎市だと、七つの区があるから七つの区選管がある。区選管で問題が起きて異議申出があった場合は、川崎市選管が出て対処することになるわけ。ついこの間も、選挙の効力や当選の効力について相模原市議選で異議申出があったでしょ」

・相模原市議選、次点候補が当選 異議申し立て受け票を再点検(5月26日日経)

当然のようにうなずくマツダ参謀長。まったく知らない小池。

小島「南区選挙区で0.661票差で落選した立候補者が、『自分の有効票が一票くらいあるんじゃないか』と異議申出をしたんですよ。そして票の再点検をしたら、実際に有効票が1票見つかったの。そのとき立候補者が異議申出をした先は、南区選管ではなくて相模原市選管だったんですね。今度はこれによって落選となる候補者から神奈川県選管に審査請求を出していて、最近棄却の採決が出たけどね」
小池「ひえ〜っ、0.661票差! 1票がめっちゃ重い!!」

なんとなくだが、私はあまり選挙に対して「接戦」のイメージを持ったことがなかった。何万、何十万という票が動く国政選挙ばかりが印象に残っているせいだろうか。しかし、こうやって実際に「0.●票」などという大接戦の話を聞くと、「1票」という単位が現実味をもって感じられる。

小島「重いですよ。票というのは民意ですから。それが公正にカウントすることこそが、選挙管理に関わる者の使命なんです。それは白票だろうとなんだろうと同じでね。そういえば僕はよく『白票は麻薬である』ってことを研修なんかで教えるんですけど」

「白票は麻薬」!? なんだか不思議な言葉が飛び出してきた。その意味については、次号。

 

≫小池みきの下から選挙入門 シリーズ一覧

 

この記事をシェアする

小池みき

小池みき

ラ イター・漫画家。1987年生まれ。郷土史本編集、金融会社勤めなどを経てフリー。書籍制作を中心に、文筆とマンガの両方で活動中。手がけた書籍に『百合 のリアル』(牧村朝子著)、『萌えを立体に!』(ミカタン著)など。著書としては、エッセイコミック『同居人の美少女がレズビアンだった件。』がある。名前の通りのラーメン好き。

選挙ドットコムの最新記事をお届けします

My選挙

あなたの選挙区はどこですか? 会員登録をしてもっと楽しく、便利に。

採用情報

記事ランキング

ホーム記事・コラム“選管の神様”、小島勇人氏に1票の重みを説かれる(小池みきの下から選挙入門⑥)

icon_arrow_b_whiteicon_arrow_r_whiteicon_arrow_t_whiteicon_calender_grayicon_email_blueicon_fbicon_fb_whiteicon_googleicon_google_white選挙ドットコムHOMEicon_homepageicon_lineicon_loginicon_login2icon_password_blueicon_posticon_rankingicon_searchicon_searchicon_searchicon_searchicon_staricon_twittericon_twitter_whiteicon_youtube