2026/8/10
国の借金、最大の1346兆円。6月末:「過去最大」という見出しが隠しているものはなにか。財務省が国債と借入金、政府短期証券を合わせたいわゆる「国の借金」が6月末時点で1346兆円になったと発表した。3月末から2兆8407億円増え、過去最大を更新したという。国民1人当たり約1095万円、というおなじみの割り算も添えられている。
この記事の最大の欠点は、名目値が過去最大を更新すること自体には、財政の健全性を測る情報はほとんど含まれていないということである。名目の経済が拡大していれば、税収も、賃金も、企業の売上高も、そして政府の債務残高も、名目値では毎年のように過去最高を更新するのは当然のことだ。それを一つだけ取り出して「過去最大」と報じるのは、育ち盛りの子どもの体重計の数字だけを見て身長を測らずに肥満を宣告するようなものである。
経済統計を扱う際の初歩は、分子と分母を揃えることだ。政府債務を論じるなら、比べるべき相手は国の経済の規模、すなわち名目GDPである。
そこで、名目GDPとの比率を考える。分母を入れると、まったく違う絵が見える。IMFの推計で、日本の一般政府の総債務残高の対GDP比を追ってみる。コロナ対応で膨らんだ2020年の228.8%を頂点に、2023年220.3%、2024年214.5%、2025年には206.5%まで下がっている。5年で20ポイント以上の低下だ。債務の絶対額はたしかに増えたが、それを上回る速さで国の経済(名目GDP)が伸びたからである。
さらに、政府が保有する金融資産を差し引いた純債務でみると、変化はもっとはっきりする。2020年の160.8%から2025年には136.5%へ。これは2012年の142.6%を下回り、2010年代初頭の水準に戻ったということだ。つまり、財政再建は、すでにかなりの速度で進んでいる。
また、3か月で2兆8407億円の増加は、残高比でおよそ0.2%、年率に直しても1%に届かない。名目成長率が2%でも3%でもあれば、比率は自動的に下がっていく。政府債務の持続可能性を決めるのは残高の絶対額ではなく、名目成長率と金利の関係である。ドーマー条件が示すのはそれだけのことであり、そして今の日本は、その条件を満たしている。
「国民1人当たり1095万円」という表現も、ミスリーディングだ。政府の負債は、その裏側に必ず誰かの資産を持つ。国債を保有しているのは日本銀行であり、国内の金融機関であり、その先にいる預金者である国民だ。国民は債務者ではなく、大半において債権者の側にいる。
では、何をすべきか。誤解のないように申し添えるが、私は財政規律が不要だと言っているのではない。需要が供給を明確に上回り、景気が過熱して物価が持続的に上がっているのなら、そのような局面で国債を新規発行し、歳出を膨らませれば当然にインフレを昂進させるだけで望ましくない。
だが、いま日本で起きている物価上昇の主因は国内の需要超過ではない。エネルギーと食料を中心とする輸入コストの上昇である。国内需要が強すぎて物価が上がっているのではない。原因が輸入コストにある物価上昇に対して、緊縮と利上げで需要をさらに冷やすのは、馬鹿げた治療法だ。
そして、日本経済の規模に対する政府債務の比率が下がっている今こそ、その果実を国民に返す局面である。高市政権が打ち出した食料品への消費税減税は方向として正しいが、2年間という時限を付した瞬間、その効果は半減する。人は期限付きの手取り増を恒久所得とはみなさず、消費にも設備投資にも回さないからだ。輸入コスト由来の物価高から家計を守る手段として減税を機能させたいなら、期限を外すほかない。
純債務対GDP比が5年で24ポイント低下したという事実を財政運営の前提に据え、消費税減税を恒久措置とすることが、今後求められる政策である。

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ホーム>政党・政治家>金子 洋一 (カネコ ヨウイチ)>国の借金、最大の1346兆円。