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区役所内におけるノウハウ継承についての代表質問(令和8年第1回定例会・その3)

2026/2/26

納税者のための区政にあり方についての代表質問(令和8年第1回定例会・その2)の続きです。

 

最後に、行政組織における暗黙知の断絶と、千代田区役所の組織力強化について質問いたします。これは以前、予算委員会などで質問したことがあるのですが、今回は体系的・包括的にご提示いたします。

論壇においては、しばしば世代論が戦わされることがあります。たとえば、団塊世代、バブル世代、ロスジェネ世代、Z世代など、日本社会では世代ごとの特徴を象徴した名前がつけられて、語られることがあります。

こうした世代構成の変化は、民間企業だけでなく、行政組織にも確実に影響を及ぼしています。

経営コンサルタントの神田昌典氏は、2000年代初頭、日本企業が就職氷河期世代の断絶によって、組織内部のノウハウが継承されず、長期的な崩壊過程に入ると指摘しました。

この指摘は、単なる企業論にとどまらず、「組織はどのように知を継承するのか」という、より普遍的な問題を提起するものです。

実際、日本社会では、団塊世代の大量退職と中堅層の空洞化によって、現場を熟知した人材が急速に失われてきました。

その結果、「誰が判断の背景を理解しているのか」「なぜその手順が必要なのか」が分からないまま、業務が形式的に引き継がれるケースが増えています。

かつてJR北海道で発覚した一連の点検不備問題は、その典型例でした。当時、JR北海道では、業務の中核を担うべき50代の職員が圧倒的に不足して、上の世代から若い世代へのノウハウが伝達されず、多くのミスが積み重なり、事故に発展する事例が散見されました。

ベテラン職員が持っていた、音や振動といった要素の微細な変化から異常を察知する暗黙知が、特定世代の欠落によって若手に継承されず、安全管理体制そのものが形骸化しました。

ここで重要なのは、このときに失われたのが単なる技術ではなく、「判断の勘所」「一拍置く慎重さ」「現場への責任感」といった、組織文化そのものであったという点です。

この問題は、民間企業だけでなく、行政組織においても基本的には同じです。

行政の仕事もまた、マニュアルや規程だけでは対応できない場面が多く、住民対応、危機管理、部局間調整などでは、経験に裏打ちされた判断力が不可欠です。

しかし、世代構成に「穴」があいた組織では、業務は形式知だけが残り、なぜそのやり方が必要なのかという背景が語られなくなります。

結果として、前例の踏襲は続いているにもかかわらず、そこで最も重要である暗黙知を含むノウハウが失われて、組織は明文化されたルールのみを守り硬直化していきます。

また、失敗や、いわゆる「ヒヤリ・ハット」を共有できる心理的安全性、知を伝える人が正当に評価される制度設計も、不可欠な条件となっています。

こうした課題に対し、神田氏は「知の編集工学」、すなわち経験を翻訳し、共有可能な形に再構築することの重要性を説いてきました。

近年では、トヨタ自動車やコマツ、ANAなどが、AIやデジタル技術を活用しつつも、人間中心の知識循環を構築し、暗黙知の継承に成功しています。

ここで注目すべきは、AIそのものではなく、熟練者がAIに教え、AIを介して次世代が学ぶという「循環構造」がつくられている点です。

行政組織においても、
・経験を語れる文化
・知を共有する人が報われる仕組み
・デジタルを人の代替ではなく翻訳者として使う発想
などを整えなければ、暗黙知の断絶は避けられません。

千代田区役所は、高い倍率の採用試験を勝ち抜き、高度な専門性と長年の蓄積を持つ職員によって支えられてきました。

その一方で、世代交代が進む中で、その経験がどこまで組織として共有・循環されているのかは、改めて検証する必要があります。世代のばらつきがある以上、私は「うまくいっていない」という前提で進めたほうがいいだろうと考えます。

行政サービスの質、危機対応能力、組織の持続性を高め、職場環境を向上させるためにも、暗黙知を個人に留めず、組織全体の共有財として再生産する仕組みづくりが求められています。

千代田区役所では、採用時期の偏りなどを背景に職員の年齢構成にばらつきが生じており、その結果、世代間で業務経験や判断ノウハウが十分に引き継がれないという、ノウハウ継承の不健全さが生じているのではないかと懸念しています。

とりわけ、中堅層が薄いことにより、ベテラン職員の経験が体系的に整理されないまま個人に留まり、若手職員が背景や判断基準を理解しないまま業務を引き継ぐ状況が生まれているのではないでしょうか。

このような状況は、人事評価制度において「知を伝える行為」が十分に評価されていないこと、OJTや人材育成が個々の職場や担当者に依存していること、さらにDXや業務標準化が手順の形式化にとどまり、判断の背景や経験知の共有にまで踏み込めていないこととも深く関係していると考えます。

そこで伺います。

区長は、区役所における職員の年齢構成のばらつきと、それに伴うノウハウ継承の課題をどのように認識されているでしょうか。人事評価制度、OJT・人材育成、DX・業務標準化を相互に連動させながら、経験や知見が世代を超えて循環する、持続可能な組織体制をどのように構築していくお考えでしょうか。

以上、外国人問題、納税者のための区政、職員間のノウハウ継承問題の3つに対して、区長、教育長、ならびに関係理事者の明確な答弁を求めて、千代田区議会自由民主党議員団の代表質問を終わります。よろしくお願いいたします。
 

【参考】ヒヤリ・ハットとは?

重大な事故や災害には至らなかったものの、「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりするような危険な出来事のこと。主に安全管理・リスク管理の分野で使われ、事故の一歩手前や条件が少し違えば事故になっていた可能性があったミスや、制度・環境・手順の欠陥などが原因で起こることが多いと指摘されている。

有名な「ハインリッヒの法則」では、1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故、300件のヒアリ・ハットが存在するとされる。「小さなミスに対して対策を立てることで、重大事故が防げる」という考え方の根拠となっている。

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著者

白川 司

白川 司

選挙 千代田区議会議員選挙 (2023/04/23) [当選] 630.651
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肩書 評論家・翻訳家。国際政治・経済について、雑誌・著作・ニュースサイト・YouTubeなどで精力的に発信。
党派・会派 自由民主党
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