2026/9/8
ドイツで、かなり大きな選挙結果が出ました。
2026年9月6日、ドイツ東部のザクセン=アンハルト州で州議会選挙が行われ、AfD(ドイツのための選択肢)が43.8%を獲得。
全83議席のうち39議席を獲得し、圧倒的な第1党となりました。
過半数は42議席ですから、あと3議席で単独過半数です。
「ザクセン=アンハルト州って、どこ?」
という方も多いと思います。
ドイツには16の州があり、ザクセン=アンハルト州は旧東ドイツ側にある州です。

【画像:ドイツ全体の地図。ザクセン=アンハルト州の位置】
今回の州議会選挙は、日本でいえば県議会選挙や東京都議会選挙に近いもの。
ただ、ドイツは連邦国家なので、州の力は日本の県よりずっと強い。
教育や警察なども州が大きな権限を持っています。
なので、「一地方の選挙だから関係ない」というものでもありません。
今回の結果は、
AfD 43.8% 39議席
CDU 17.2% 15議席
SPD 9.3% 8議席
緑の党 8.9% 8議席
左翼党 8.6% 8議席
BSW 5.3% 5議席
となりました。
CDUというのは、長年ドイツ政治の中心を担ってきた中道右派の大政党です。
政策が同じという意味ではありませんが、日本でイメージするなら、自民党のようなポジションと思ってもらうと分かりやすいと思います。
そのCDUが17.2%。
一方のAfDが43.8%です。
しかも前回2021年は、
CDU 37.1%
AfD 20.8%
でした。
5年間で、ほとんど勢力図がひっくり返りました。
今回のニュースを日本で見ると、
「極右政党AfDが躍進」
「反移民を掲げるAfDが大勝」
といった言葉が目につきます。
もちろん、AfDが移民政策に厳しい姿勢を取っているのは事実です。
不法滞在者の送還や国境管理の強化など、既存政党よりかなり強い政策を掲げています。
また、ザクセン=アンハルト州のAfDは、州の憲法擁護庁から「右翼過激派」と認定されています。一方、AfD側はこの認定を不服として争っています。
ですから、まあ「極右」という報道にまったく根拠がない、というわけではありません。
ただ、
それと「なぜ有権者の43.8%がAfDに投票したのか」は別の話です。
私はここが気になりました。
本当に、
「移民に反対だから」
という理由だけで、有権者のほぼ2人に1人がAfDに投票したのでしょうか。
そこで、実際の選挙データとAfDの演説を見てみました。
すると、少し違った景色が見えてきます。
まず、実際に有権者が何を重視して投票したのか。
今回の選挙では、社会保障や生活の安心が最大のテーマでした。
その次に「ヨーロッパの平和」、そして「経済」が続いています。
移民問題も重要ですが、少なくとも州全体の投票行動を見れば、
「移民だけで決まった選挙」ではありません。

【画像:投票で重視されたテーマのグラフ】
そして、もっと興味深い数字があります。
「この問題をAfDなら解決できそうだ」
と考える人が、移民以外の分野でもかなり増えているのです。
犯罪対策 40%
難民・移民政策 38%
東ドイツの利益 36%
経済 30%
エネルギー供給 30%
雇用 29%
教育 29%
社会的公正 29%
平和 29%
となっています。
特に驚いたのが経済です。
2021年には、
「経済問題をAfDが一番解決できる」
と考えていた人は、わずか8%でした。
それが今回、
30%。
CDUの28%を上回っています。
つまりAfDは、この5年間で、
「移民問題について強く言う政党」から、
「生活や経済まで何とかしてくれそうな政党」
として見られるようになってきたということです。
そこで、実際の選挙演説も見てみました。
今回のザクセン=アンハルト州の大規模集会には、AfD共同党首のアリス・ワイデル氏も登壇しています。

【画像:今回の選挙集会で演説するアリス・ワイデル氏】
演説を追ってみると、これが結構、日本で受けるAfDのイメージとは違いました。
最初から延々と移民の話をしているわけではありません。
まず出てくるのは、
ガソリン代です。
そこから、
電気代。
原子力発電。
石油や天然ガス。
ウクライナ戦争。
ロシアとの外交。
EU。
ドイツの自動車産業。
税金。
そして、その後に移民政策が出てきます。
つまり、
移民政策はAfDの重要な政策の一つです。
しかし、
AfDの政策=移民政策
ではありません。
むしろ演説全体を聞くと、一本の共通した考え方が見えてきます。
「まず、普通に暮らしているドイツ国民の生活を見ろ」
ということです。
そこでまず気になったのが、電気代です。
ワイデル氏は演説の中で、ガソリン代や電気代の高さをかなり強く批判しています。
では、本当にそんなに高くなっているのか。
ドイツ連邦統計局によると、2025年後半の家庭向け電気料金は、平均で1kWhあたり40.55セント。
ウクライナ侵攻前の2021年後半と比べても23.4%高い水準です。
そして家庭用ガスは、同じ期間でなんと79.1%高くなっています。
数字だけだと分かりづらいですが、
普通の家庭からすれば、
スーパーに行けば食料品が高い。
車に乗ればガソリンが高い。
家に帰れば電気代やガス代も高い。
そんな毎日です。
そこで政治家から、
「脱炭素が必要です」
「ロシア依存から脱却します」
と言われても、
「それは分かる。でも、その負担は結局こっちが払っているじゃないか」
と思う人が出てくるのは、そこまで不思議ではありません。
ドイツは2023年4月、最後に残っていた3基の原子力発電所を停止しました。
これはEUに命令されたわけではなく、福島第一原発事故後、ドイツ自身が決めた政策です。
AfDはこの政策を真っ向から批判しています。
原発をもう一度活用しろ。
安定して発電できるエネルギーを確保しろ。
という主張です。
もちろん原発には安全性や廃棄物など、別の問題もあります。
ただ、電気代が上がっている時に、
「なぜ使える発電所まで止めたのか?」
という疑問が政治的な争点になるのは理解できます。
次にエネルギーです。
ワイデル氏は演説で、
石油や天然ガスを、ドイツにとって有利な条件で確保するべきだ、
そしてロシア、アメリカ、中国とも話をするべきだ、
という趣旨の主張をしています。
ここもポイントだと思います。
「ロシアが好きだからロシアと付き合う」
という話ではない。
AfDが言っているのは、
「誰と付き合うかはドイツの国益で決めればいい」
ということです。
日本で考えると分かりやすいと思います。
日本は石油の大部分を中東から輸入しています。
もちろん、中東だけに頼りすぎないように調達先を分散することは大切です。
でも他国から、
「中東から石油を買うな」
と言われたら、
「いや、日本のエネルギー政策は日本が決めることでしょう」
となります。
アメリカとも付き合う。
中国とも付き合う。
ロシアとも交渉する。
中東とも良好な関係を築く。
その判断基準を、
「自国民にとって何が一番いいのか」
に戻そうという話です。
そして、今回の選挙でもう一つ大きかったのがウクライナ戦争です。
ドイツはウクライナを世界でも最大規模で支援してきた国の一つです。
ドイツ政府によると、2022年のロシア侵攻以降、
民生支援 433億ユーロ超
軍事支援 約576億ユーロ
を実施、または今後に向けて確保しています。
合計すれば、1000億ユーロを超える規模です。
ちなみに、我が国日本もウクライナに**総額約200億ドル(約3兆円)**の支援を表明・実施しています。
3兆円です。
この金額をどう考えるか。
日本でも一度、立ち止まって考えてみる必要があります。
もちろん、
「侵略を受けたウクライナを支援するべきだ」
という考えには一定の理由があります。
ただ、その一方で、
ドイツ国内では物価が上がる。
電気代も高い。
ガス代も高い。
将来に不安を感じている人もいる。
その中で、
「海外にこれだけのお金や武器を出し続けて、自分たちの生活はどうなるのか?」
という疑問が出てくる。
しかも今回、ザクセン=アンハルト州では57%が、AfDの「ウクライナへの武器供与をやめる」という方針を支持しています。
AfD支持者に限れば92%です。
ここを見ると、
「反移民だけでAfDが伸びた」
では、やはり説明し切れません。
もう一つ、AfDの演説で繰り返し出てくるのがEUです。
EUとは、ドイツやフランスなどヨーロッパ27か国が参加する共同体です。
貿易だけでなく、環境や自動車など、各国に共通するルールも決めています。
例えば自動車。
現在のEU法では、2035年以降、新車のCO2排出量を100%削減するルールが基本になっています。欧州委員会は現在これを緩和する案も示していますが、EU全体で決まる問題です。
ドイツといえば、
フォルクスワーゲン。
BMW。
メルセデス・ベンツ。
ポルシェ。
世界有数の自動車大国です。
ですから、
「ガソリン車をどうするか」
というのは、単なる環境問題ではありません。
自分の勤めている工場がどうなるのか。
自分の仕事が残るのか。
という話でもあります。
AfDは、
どんな車を作るのかはメーカーが決めればいい。
どんな車を買うのかは国民が決めればいい。
EUに何でも決めてもらう必要はない。
と訴えています。

ここでも根っこにあるのは、
「自分たちの国のことは、自分たちで決めたい」
という考え方です。
ここまで書くと、
「移民問題は関係ないと言いたいのか」
と思われるかもしれません。
そうではありません。
移民政策はAfDの重要な政策です。
犯罪対策や不法滞在者の送還、国境管理などを評価してAfDに投票した人も当然います。
実際、AfD支持者では治安や移民への関心は非常に高い。
だから、
「移民は関係ない」
ではありません。
私が言いたいのは、
「移民だけではない」
ということです。
今回、実際の選挙データやAfDの演説を見て感じたのは、
AfDが訴えているものは思っていた以上に幅広いということです。
電気代を下げろ。
エネルギーを安定して確保しろ。
ドイツの産業と雇用を守れ。
ウクライナへの武器支援を見直せ。
ロシアとも必要なら外交をしろ。
EUに任せすぎず、自分たちのことは自分たちで決めろ。
そして、移民政策も自国の治安や社会保障を基準に考えろ。
一つ一つは違う政策ですが、
根っこには同じ考え方があります。
「まず、ドイツ国民の生活を政治の中心に置いてくれ」
ということです。
言ってみれば、
ドイツ人ファースト。
外国人を敵視するという意味ではなく、
普通に働く人。
子育てをしている家庭。
中小企業で働く人。
年金で生活する高齢者。
そうした、その国を支えている大多数の人たちの生活を、まず政治が見てくれということです。
今回の選挙結果を、
「ドイツで排外主義が広がった」では説明がつきませんし、これは悪質なミスリードです!
なぜ43.8%もの人がAfDを選んだのかという、本当に大事な部分を見落としてしまいます。
移民への不満もある。
でも、それだけではない。
物価。
エネルギー。
仕事。
戦争。
EU。
旧東ドイツが抱えてきた不満。
そして何より、
「今の政治は、本当に自分たちのために政治をしているのか?」
という疑問。
今回のAfDの大躍進は、暮らし、産業、エネルギー、戦争、そして自国のことは自国で決めたいという思い。
私には、「もっと自国民の方を向いた政治をしてくれ」という強烈なメッセージに見えます。
ここまでAfDについて調べてきましたが、根底にある考え方の一つが「反グローバリズム」です。
では、反グローバリズムとは何なのか。
外国人を嫌うことでも、世界との交流をやめることでもないと私は考えています。
アメリカとも付き合う。
中国とも付き合う。
ロシアとも必要なら交渉する。
貿易もするし、国際協力もする。
ただし、
「自分たちの国のことを、最後は自分たちで決める」
エネルギーも、産業も、移民も、外交も。
国際社会のルールや理念を優先するあまり、そこで暮らす国民の生活が置き去りになっていないか。
世界とつながることと、自国を大切にすることは、本来両立できるはずです。
今回のAfDの躍進を見ていると、そんな問いを突きつけられているように感じます。
そして日本には、「八紘一宇(はっこういちう)」という言葉があります。
平たく言えば、「世界を一つの家のようにする」という意味です。
こう言うと、
「ん? それってグローバリズムと同じじゃないの?」
と思うかもしれません。
でも、私はむしろ違うものだと考えています。
グローバリズムが、国境を越えて経済や制度、ルールを共通化していく方向だとすれば、
私が八紘一宇という言葉から大切だと感じるのは、
それぞれの国や民族が、それぞれの違いを持ったまま、一つの家族のように共存していく
という考え方です。
家族だって、全員が同じ人間になる必要はありません。
日本は日本でいい。
ドイツはドイツでいい。
それぞれが自分の国を大切にしながら、相手の国も尊重する。
自国を大切にすることと、世界と仲良くすることは矛盾しない。
むしろ、それぞれが自分たちの国を大切にするからこそ、互いの違いも尊重できる。
私は、そんな世界のあり方を目指したいと思います。
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ホーム>政党・政治家>矢野 けいた (ヤノ ケイタ)>AfD43.8%。「移民への反発」だけでは説明できない ――渋谷区議の私が、ドイツの選挙を調べてみた