2024/6/25
こんにちは。兵庫県川西市議会議員の長田たくや(ながたく)です。
今日は薬の話題です。パキシル®錠という抗うつ薬が販売中止となりました→プレスリリース
パキシルといえば、関連した自殺もあり「飲んだらヤバイ薬」とSNSでは少し有名ですね。販売中止を受け、SNSにて「やっと危険な薬だと世に認知されたのか」という言説をみかけました。それはちょっと違いますので、今日は薬剤師としてパキシルについてお話します。
【お話の流れ】
・うつ病とは
・セロトニンとは
・パキシルとは
■ おそらく販売戦略の判断
パキシル錠は、即放タイプ(すぐ溶けてすぐ効く)と徐放タイプ(ゆっくり溶けて長く効く)の2種類があります。
そのうち、即放タイプはすでに特許が切れて、多くのジェネリック医薬品が販売されています。一方、徐放タイプの特許はまだ残っています。
今回、販売中止となったのは「即放タイプ」のみ。製造方法からすべての権利を取得した、全くのコピー品である「オーソライズド・ジェネリック」がサンドファーマより販売されており、パキシル錠を販売するメリットが小さくなったと判断したのではないでしょうか。
■ 双極性障害と抗うつ薬
抗うつ薬と自殺の関係性も判断が非常に難しく、自殺が増えた・減ったとどちらの報告もあります。私は思うに、それらの試験にて「うつ病」じゃない人が混ざっていたのではないかと考えます。
参照1:抗うつ薬で自殺が増加するか?
参照2:うつ病と診断された双極性障害患者の自殺企図リスク
「双極性障害」という病気は、気分が沈んだうつ状態と、テンションMAXの躁(そう)状態が交互にやってきます。その多くは、うつタイムが長い傾向にあるため、診察時に「うつ病」と診断されることがあります。そこで、パキシルがポンっと処方されてしまうと、うつから反転、一気に躁状態となってしまい病状が悪化してしまうのです。これも自殺誘因に関連します。
なお、日本では、双極性障害にもパキシル®が慎重に使えることになっています。

■ モノアミン仮説
うつ病はまだまだ解明されていない病気です。様々な仮説があり、古くから言われているのが「モノアミン仮説」です。脳内神経伝達物質(ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなど)を総称してモノアミンと呼びます(-NH2アミンが1個だけあるという意味)。

モノアミン仮説は1960年に提唱された考え方で、「うつ病は脳内のセロトニンやドーパミンなどが不足している、または機能低下している」ものとされています。だったら補えば良いという発想の元、現在の医薬品が設計されています。
しかし、それだけでは治療ができず、どうにも説明がつかなくなってきました。最近では、神経炎症による仮説もあり、メカニズムが現在進行形で探求されています。仮説を詳しく知りたければ、こちらのページがよくまとまっています。
参照:高津心音クリニック
■ 神経伝達物質とは
神経は一繋ぎにつながっているイメージですが、作用する部分がぷっつりと距離が離れており、これをシナプス間隙(かんげき)と呼びます。
神経は反応を電気信号で、ズババババ!と伝えますが、シナプス間隙(スキマ)を飛び越えられないので、伝達役の物質を先っぽからピュっと放出します。それを神経伝達物質(メッセンジャー)と呼びます。放出された物質は、向かい側にある神経もしくは組織の受容体にくっついて反応を起こします。
その伝達物質の1つが「セロトニン」です。

■ セロトニンとは
精神の安定や安心感を与える、脳を活発にするなど、いわゆる幸せホルモンです。
日光を浴びることで脳内にて発生することが分かっています。引きこもりがよくない理由がそこにありますね。
そして、男女差もあると言われています。男性の方が52%ほど多く発生するのだとか。
これは女性ホルモンが影響しているとのことです。→論文
女性は男性に比べてうつ病が2倍多いとされています。そのあたりが影響しているかもしれません。
■ パキシルとはどんな薬なのか
本題のパキシル®についてです。化学成分名は、パロキセチンといいます。
カテゴリーとして、セロトニン再取り込み阻害薬:SSRIと呼ばれます。
図をご覧ください。

うつ状態だと、▲セロトニンが不足もしくは受ける側(受容体)が少なくなっているとされています。セロトニンが神経の末端から放出されますと、多すぎてもダメだからと調整する機能(再取り込み機能)をもっています。そこを●パロキセチン(SSRI)が抑えることで回収できなくし、セロトニン濃度を増やします。
SSRIとは、Selective Serotonin Reuptake Inhibitor(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の略です。他のドーパミンやノルアドレナリンには影響しないため”選択性”となっています(と言いつつも、用量によっては副交感神経遮断作用や、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用なども発現します。)
■ SSRIが登場するまでのうつ治療薬
かつて、うつ病の治療には「三環系抗うつ剤」という薬しかありませんでした。効果はありましたが、セロトニンだけでなく、副交感神経も遮断してしまうのが問題で、様々な副作用(緑内障や、口の渇き、便秘、尿閉など)で患者を困らせていました。

そこでセロトニンだけをピンポイントで狙えたら素敵じゃない?と開発されたのがパキシルなのです。
■ 福音のように思えたが
現実は、そうはうまくいかなかったのです。
パロキセチンは抗うつ剤として脚光を浴び、一定の臨床成績を残してきましたが、2006年にアメリカFDAのHammad氏の解析により、未成年では逆に自殺率が高まったことが示されました。これを受け、パロキセチンはアメリカでは未成年に使用できなくなりました。
一方、日本では他の臨床試験なども併せて検討した結果、臨床成績のあるSSRIを注意して使用することとなりました。
(アメリカでは、パロキセチンが使えない代わりに、フルオキセチンというSSRIが未成年に使用できます。日本ではこの薬は販売されておらず、パロキセチンの使用継続が決まったと考えられます)
■ パキシルは、うつ病のためだけではない
なぜ自殺率が上がる薬を未成年にも使うのか!と思われる方もいるでしょう。実は、パロキセチン含め、SSRIは”うつ病”だけの薬ではありません。特にパロキセチンは、以下のように適応疾患がとても広いです。
・嘔吐・パニック障害
・強迫性障害(極度の手洗いとか、ドアの確認とか)
・社会不安障害(人前で話すことができない、人に話しかけれない、など)
・外傷後ストレス障害(いわゆるPTSDのこと)
・月経前気分不快症→アメリカのみ
したがって、パキシル®服用=うつ患者 と断言はできません。飲まれている子供さんがいても、すぐにうつ病だと判断しないようにしましょう。
なお、販売中止とはならないパキシルCR®錠(ゆっくり溶けて長く効くタイプ)の適応疾患は、”うつ病・うつ状態”のみです。CR錠を飲んでいたら100%うつ病・うつ状態ということになります。
■ セロトニンは腸にも影響する
パロキセチンを服用すると、吐き気など気持ち悪くなる方がいます。
セロトニンは脳内だけにある物質ではなく、そのほとんど(90%)が”腸”から生まれる物質です。食事中のトリプトファンから合成されています。
(トリプトファンが多い食材はこちら→参照)
セロトニンの受け手側(受容体)は7種類(5-HT1~7)に分けられ、消化管には2種類(5-HT3と4)あります。つまり、SSRIは脳だけでなく、消化管にも効果を及ぼします。5-HT3が刺激されると嘔吐中枢に信号が行き、吐き気などの悪心が起こります。
一方、5-HT4は刺激されると腸の運動機能がよくなって、消化不良等が改善されます。つまり、セロトニンなどの神経伝達物質は、機能が1つだけではなく、SSRIによる副作用も多岐にわたってしまうのです。
(人間の複雑さですね)
■ 第2の脳
セロトニンの90%が消化管にあるため、腸は第2の脳とも言われます。うつの人は腸内細菌叢が乱れているとも言われていますね。それがセロトニンの合成にも影響しているかもしれません。つまり、うつなどの精神疾患は脳だけでなく、様々な要因がからみ合っていることが、このセロトニンという物質1つだけを見てもわかります。
参照:大腸の不調と心の病の密な関係 うつ病と腸内環境、幸せホルモン
まずもって、薬に頼らないためには、目覚めて30分以内に太陽の光を浴び、食事では味噌などの発酵食品をとり、腸内細菌を喜ばせることが大前提でしょう。そして友人、親などストレスを感じない人とお話をして、リラックスできる場所に行って休む。
それでもダメならば素直に薬の力を借り、自分を卑下せず、依存せず、少しずつ減らしていきましょう。
では、次回も薬の時間で。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な1日でありますように。
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