2025/2/19
こんにちは。兵庫県川西市議会議員の長田たくや(ながたく)です。
本日も予算審議に先立ち、1日中レクを受けていました。前回ブログでは、ADHDと食品との関連についてでした。今日は治療薬についてのお話です。
参照:ADHDと清涼飲料水・農薬との関係 【論文】
ADHD(注意欠如多動症:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)
おさらいです。病態生理的には、脳内において以下の状態であると言われてます。
・ドーパミン不足➡動機づけ・報酬系(快楽)がうまく働かない
・ノルアドレナリン不足➡注意や覚醒レベルが低下しやすい
治療薬の考え方はシンプル。これらを「補う」ことです。
■ 大元を発見した日本人
長井長義(薬学博士)は、1885年(明治18年)に漢方薬の麻黄(まおう)から世界で初めて有効成分「エフェドリン」の抽出に成功しました。麻黄は葛根湯にも含まれているようなメジャー生薬です。
エフェドリンの化学構造はノルアドレナリンやドーパミンに似ており、気道を広げるため「気管支喘息の薬」として使われました。

エフェドリンは、ノルアドレナリン放出と交感神経刺激作用を示します。交感神経は、例えば走るときに活発になりますが、その際気道を広げてより多くの空気を吸い込もうとするのです。
■ エフェドリンを元にして生まれた
喘息患者に福音をもたらしたエフェドリン。これをベースに2つの化学物質が生まれます。
・1887年(明治20年)ルーマニアの化学者ラザル・エデレアーヌ
アンフェタミンを合成
・1893年(明治20年)長井長義
メタンフェタミンを単離

化学式の表記の仕方でわかりにくいですが、アンフェタミンの-NH2のところに、-CH3(メチル基)がくっついています。だから、メタンフェタミンとなります。
これらは現代で言う「覚せい剤」です。売ったり買ったりしたら捕まるやつ。
■ 覚せい剤の作用
覚せい剤を服用すると、脳内の神経末端からノルアドレナリンやドーパミンといった興奮性物質を強制的に放出させます。さらに本来は「ドーパミンを出しすぎたなぁ…」と脳が感じると、もう一度神経内に取り込む機構が備わっています(再取り込み機能)。この制御機能をもブロックして、一度放出された興奮性物質の濃度を高めることで”覚醒”するのです。

しかし、神経の方が疲弊してしまい、感受性が低下することでより強い刺激が必要となる(=依存↑)のです。
■ 覚せい剤は昔は大人気のお薬
1937年、米国で医薬品としてアンフェタミン「ベンゼドリン」を販売します。元気が出る薬"Wonder Drug"として大ヒット。1941年には日本も導入され、ゼドリン(武田薬品工業)、アゴチン(富山化学工業)として販売されました。
1940~50年には学生・軍人・深夜のトラック運転手まで幅広く服用されており、ダイエット目的でも使用されます。1967年にはピークに達し、米国成人の6~8%、ニューヨークではストレスが多いビジネスマンの約12%が愛用していたとも。
1938年、ドイツではメタンフェタミンが「ペルビチン」として販売。世界中に広まり、日本では有名な「ヒロポン®」になります(古代ギリシャ語の「Philo-ponus(=労働を愛する)」が語源)。

ヒロポンは、現在でも厳格な条件下で医療用医薬品として使用可能です。処方施設が限定されるため、滅多にお目にかかりません(私も見たことがない)。
■ 察したかもしれません
冒頭、ADHDは脳内のドーパミン・ノルアドレナリンが不足していると書きました。
つまり!ADHDの治療戦略は、まさに覚せい剤と同じ。米国ではアンフェタミン製剤がADHD治療薬(Adderall)として承認されています(日本では未承認)。
日本では”メチルフェニデート”という薬が主軸となります。
■ 日本でのADHD治療薬
メチルフェニデートは、アンフェタミンの依存性や副作用軽減を目的に開発。覚せい剤のような強い放出作用が弱く、再取り込み阻害が中心の、よりマイルドな作用メカニズムなのです。

メチルフェニデートは1944年、当時のチバ社(現ノバルティス社)が開発し、1954年に「リタリン®」として販売。日本では主にナルコレプシー(居眠り病)に使用され、米国ではADHDにも使われています。ちなみに、開発者の奥さん、マルガリータから名付けられました。
(昔、精神科の医者が「試しに飲んだら眠れなくなってヤバかった」と話していたのを思い出しました。)
■ 改良版リタリン
リタリンを製剤技術で徐放化し、長時間にわたり作用するようにした薬が「コンサータ®」です。リタリンと同じでメチルフェニデートが主成分。
2000年に米国で、日本では2007年に承認。当時、私はこの会社で働いていました。新入社員の時に、コンサータの開発担当部長とお話ししたことがあります(なつかしいな)。小児ADHD治療の幕開けとなりました。
■ 新薬は続きます
ADHDが増えたこともあり「市場価値」を見出したのでしょう。続々と新薬が出てきました。
・2009年「ストラテラ®」(アトモキセチン)
中枢刺激性が少ないとされ、依存しにくいとされます。ドパミンへの影響が小さく、ノルアドレナリンに特化。
2012年に大人のADHDにも使用可能に。
・2017年「インチュニブ®」(グランファシン)
作用の戦略が全く異なる製剤です。これまでは神経の放出側に作用していましたが、今度は受け手側に効果を示します。神経伝達がスムーズになるとされ、2019年には成人にも使用拡大。
・2021年「ビバンセ®」(リスデキサンフェタミン)
成分名からピンときませんか?正式な化学名称(L-リシン-D-アンフェタミン)です。プロドラッグと呼び、体内に入ってから分解されてアンフェタミンになります。急激な濃度上昇が抑えられるため、中毒性・依存性を少ないとされます。
日本でも米国同様に「アンフェタミン」が医薬品として使われ始めたのです。

最新のADHD治療薬が、1887年に合成された覚せい剤アンフェタミンをベースにしたのは意外でしょう。当時はダイエットにも用いられましたが、依存症に苦しむ患者が増えて厳しく規制がかかりました。
実際にビバンセ®の最も多い副作用は食欲減退(79.1%)。
■ そして抗肥満薬に…
1967年に米国で開発、1973年に日本で承認された医療用の抗肥満薬に「サノレックス®(マジンドール)」があります。マジンドールもアンフェタミンと同じような作用機序を有しますが、依存性などは小さいとされています。前述した「食欲減退」という副作用が主作用となった薬剤です。

以上、ADHDの医薬品を紹介しました。
考えてみますと、いまもドラッグが蔓延しているというのは、歴史を俯瞰してみれば人間の性なのかもしれません。当時では、良薬だと歓迎され、多くの人に愛されていたわけですからまさに「毒にも薬にもなる」――良い得て妙ですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な1日でありますように。
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