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【ブログ】マンジャロ薬価25%切り下げの衝撃:リリーの公表文書から読み解く日本の課題

2026/8/30

今回のスペースでは、イーライリリー社のGLP-1作動薬、いわゆる「やせ薬」として注目されているマンジャロの薬価が 25%引き下げられた問題 を取り上げます。 この出来事は単なる薬価改定ではなく、日本の薬価制度の構造的課題、社会保障費の圧力、医療倫理、新薬アクセスの未来といった複数の論点が交錯する、非常に象徴的な事例です。

1. 日本の薬価制度と社会保障費の“綱引き”

日本の社会保障費は年々増加し、特に高齢化の進展に伴って医療費の伸びが続いています。その中でも 薬剤費は「削りやすい費目」 として、厚労省が長年強い抑制政策を続けてきました。

薬価は従来2年に1回の改定でしたが、近年は毎年改定へと変更されました。 そして薬価政策の中でも問題となっていたのが、 市場拡大再算定 です。市場拡大再算定とは、 「新しい薬が予想以上に売れた場合、自動的に薬価を引き下げる」 という仕組みです。

具体的には、

  • 年間販売額が150億円超かつ予想の2倍以上
  • または100億円超かつ予想の10倍以上

こうした条件を満たすと、薬価が10〜25%引き下げられます。

企業側からすると「売れたら値下げされる」構造は投資回収を難しくし、結果として、

  • 新薬開発のインセンティブ低下
  • 日本で上市されない新薬の増加
  • ドラッグラグ・ドラッグロスの悪化
  • 日本市場の予見可能性の低下


といった問題が積み重なってきました。

2. 市場拡大再算定 → 持続可能性特例価格調整へ

市場拡大再算定は2026年度に廃止されましたが、代わりに導入されたのが 持続可能性特例価格調整 です。
名前は変わりましたが、構造はほぼ同じです。

両者の違い

  • 市場拡大再算定 → 売上100〜150億円規模の薬が対象
  • 持続可能性特例価格調整 → 年間販売額1000億円超の超大型薬が対象(自由診療分は除外)

つまり、対象薬剤の規模が大きくなった点が違いですが、 「売れたら値下げ」という本質は変わっていません。

マンジャロの売上はIQVIAの最新データ(2025年度)で 1,310億円。 この規模であれば、持続可能性特例価格調整の対象になるのは必然と言えます。

3. マンジャロとは何か:GLP-1/GIPの革新性

マンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、

  • GLP-1受容体作動薬
  • GIP受容体作動薬

という二つの作用を持つ新しいタイプの薬です。

もともとは 2型糖尿病治療薬として開発されましたが、食欲抑制作用が確認され、肥満症治療薬としても承認されています(肥満症治療薬としては「ゼップバウンド」という名称)。

ただし、日本での肥満症適応は非常に限定的で、

  • BMI27以上かつ併存疾患あり
  • または BMI35以上


という条件です。 日本人は高度肥満が少ないため、保険適応人口は多くありません。

4. マンジャロの保険適用人数(推計)

では、実際にどれくらいの人がマンジャロを保険で使用しているのでしょうか。

糖尿病での使用

日本の糖尿病患者は約1,000万人。 GLP-1系の使用率は国際データで20〜30%。 そのうちマンジャロのシェアは10〜15%と推計されています。→ マンジャロの糖尿病での保険適用人数:20〜30万人

肥満症での使用

BMI27以上かつ併存疾患ありの人口は推計480〜650万人ですが、実際の処方は数万人規模。

総合推計

マンジャロの保険適用人数は 25〜35万人程度。 これは売上(1,310億円)を年間薬剤費(40〜50万円)で割った値とも整合します。

5. 美容目的マンジャロの使用が急拡大している現状

ここからは、薬価とは独立した「マンジャロのもう一つの問題」です。

マンジャロは本来、糖尿病治療薬ですが、日本では 美容目的の瘦身のために自費診療で急速に広まっています。若い女性を中心に「痩せ薬」として使われ、 日本女性の痩身志向の強さも相まって需要が急増。 医療機関がそれに迎合する構造も見られます。

厚労省は2026年に美容目的使用への注意喚起を出しましたが、取り締まりには至っていません。

またイーライ・リリー社も適正使用に関する声明を発表しています。当社製品の適正使用に関する取り組み

6. 美容目的マンジャロの市場規模(推計)

GLP-1系全体の日本市場は 3,000〜4,000億円規模。 そのうち20〜30%が自由診療・美容目的と推計されています。マンジャロの保険診療の売上は 1,310億円。 自由診療は 200〜330億円程度と推計されます。年間の自由診療費用は 70〜120万円が一般的なため、美容目的マンジャロ使用者は 3〜5万人程度 と見られます。

7. イーライリリーの声明:日本の薬価制度への強い懸念


2026年8月、イーライリリーは今回の薬価引き下げに対して声明を発表しました。


内容は非常に強いトーンで、

  • 日本の薬価制度は予見可能性が低い
  • 革新的医薬品が不当に不利益を受けている
  • 日本市場の魅力が失われる
  • ドラッグラグ・ドラッグロスがさらに悪化する

といった懸念が示されています。

国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠

8. 今日の論点

ここからは、私が重要だと考えている論点です。

① 美容目的マンジャロの使用はどこまで許容されるべきか

美容目的での使用は、医療倫理・安全性・供給の公平性の観点から慎重に考える必要があります。

  • 自費診療は横流しリスクが高い
  • 副作用が出ても救済制度の対象外
  • 本来の糖尿病患者への供給不足を招く可能性

こうした問題があり、どこまで許容すべきかは社会的議論が必要です。

ちなみに、マンジャロとゼップバウンドは成分が同じですが、ゼップバウンドは「肥満症治療薬」として承認されている一方、マンジャロは「2型糖尿病治療薬」です。 もし痩身目的でマンジャロを使って副作用が出た場合、救済制度の対象にならない可能性が高いです。ちなみに薬価は用量によっても異なりますが、ゼップバウンドの方が高いことが、痩身目的にマンジャロが処方される理由なのかもしれません。

② 持続可能性特例価格調整は本当に必要なのか

市場拡大再算定の焼き直しではないかという点です。
売上が大きい薬は、社会的ニーズが高い薬でもあります。 その薬価を引き下げると、新薬投入のインセンティブが低下し、ドラッグラグの原因になります。

③ 日本の薬価制度は革新的医薬品にとって魅力的か

日本の薬価制度は公定価格制であり、特許切れ後も薬価が急落しないというメリットがあります。 しかし、持続可能性特例価格調整のような制度は「売れたら値下げ」という構造を残しており、革新的医薬品を生み出す企業にとって魅力的とは言えません。
本来、制度は「挑戦する企業を後押しする」ものであるべきです。 ところが現状では、企業が投資を控え、薬価制度が新薬不足の一因になっています。

問題は現在の薬価制度が、長いこと新薬が出ていない製薬企業にとっては延命措置のようになっていて、巨額の資金を投じて革新的な新薬を生み出している外資系企業からすると、「いい薬を出せば出すほど薬価を削られる市場」という印象になっていることです。

一方で、新薬をなかなか出せない日系企業にとっては、「うちは関係ない。そんな大型製品なんてどうせ出せないから」という、どこか業界全体を自虐的な雰囲気にしてしまっていることです。

9. まとめ

マンジャロ薬価25%引き下げは、

  • 日本の薬価制度
  • 美容目的GLP-1の急拡大
  • 新薬アクセスの危機
  • 医療倫理
  • 社会的な痩身圧力

こうした複数の問題が複雑に絡み合った象徴的な事例です。

今回の議論が、 「日本の薬価制度はどうあるべきか」 を考えるきっかけになれば嬉しく思います。

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著者

きど かおり

きど かおり

選挙 第27回参議院議員選挙 2025年 (2025/07/20)
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比例代表

肩書 創薬分野事業開発スペシャリスト
党派・会派 国民民主党
その他

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