2026/7/8

7月1日〜3日にかけて高市首相がインド・ニューデリーを公式訪問し、7月2日には第16回日印年次首脳会談が開催されました。今回の会談では、日印両国が戦略・経済・技術協力を大きく前進させるための 16の主要成果 が発表され、まさに「包括的パートナーシップ」という言葉がふさわしい内容となりました。
今回の合意は非常に幅広く、次のような分野が含まれています。
このように、日印協力は多層的に拡大しています。その中でも今回特に注目したいのが 医薬品協力覚書(MoC) です。
日本側の発表は「医療政策の延長線上」
外務省が公開している医薬品協力覚書の概要は非常に簡潔で、主に次の4点が記載されています。
日本国厚生労働省医政局とインド共和国化学肥料省医薬品局との間の医薬品・医療機器分野に関する協力覚
書
日本側の発表は、医薬品協力を「医療政策の一部」「技術協力の一部」として整理しており、医薬品産業を医療制度の延長として捉える傾向が強く見られます。そのため、報道もコンパクトで、医薬品協力は「専門分野の一つ」として扱われています。
一方で、インド政府が公開している Memorandum of Cooperation in the Field of Pharmaceuticals and Medical Devices Sector では、次の点が強調されています。
そして何より重要なのは、インドが医薬品協力を 経済安全保障の柱 として扱っている点です。
半導体、重要鉱物、AI、クリーンエネルギーと並んで、 pharmaceuticals(医薬品) が戦略分野として位置づけられています。
16th India-Japan Annual Summit Joint Statement
List of Outcomes: Prime Minister of Japan’s visit to India for the 16th India-Japan Annual Summit
これは日本側の発表にはほとんど見られない視点です。
インドは医薬品産業を 国家戦略の中心 に置いており、今回の覚書はその戦略の一部として明確に位置づけられています。
*会談直後は公開されていたネット上の資料に現在一部しかアクセスできません。改訂中かもしれません。(2026年7月8日)
ここからは、インド側の発表を踏まえて「インドが日本に何を求めているのか」を読み解いていきます。
インドは中国と並ぶ世界的なジェネリック医薬品供給拠点であり、日本のジェネリック原薬の約70%は中国とインドに依存しています。
近年の地政学的リスクやコロナ禍で露呈したサプライチェーンの脆弱性から、日本は「中国依存を減らし、インドからの供給を強化したい」という意図を持っています。
一方、インド企業は「中国に頼らない医薬中間体の供給体制」を急速に整備しており、インド側の本音としては、
日本の投資を受けて原薬・中間体を製造し、日本に供給する流れを作りたい
という思惑が透けて見えます。つまり、インドが日本に求めているのは、
この2点が非常に大きいと言えます。
インドは「双方向の投資促進」と表現しますが、医薬品分野では実際には インド→日本 の供給強化が中心です。
日本がインドに技術を提供するというより、 インドが日本市場を取り込みたいという意図が強く感じられます。
インドは長年、優秀な人材が欧米に流出してきました。しかし、トランプ政権以降のビザ制限で状況が変わりつつあります。
さらに、日本文化の浸透もあり、若いインド人が日本に興味を持つケースが増えています。
学会でも中国籍・インド籍の学生や研究者が増え、日本の製薬企業で働く外国人も増加しています。彼らは専門知識だけでなく英語・日本語も堪能で、日本の若い世代は競争環境の違いから分が悪いと感じる場面もあります。
インド側はこの人材力を武器に、日本との学術連携を強化したいと考えています。
インド側の発表には、
が登場し、規制協力が強調されています。しかし実際には、
という構造があります。
日本は創薬研究開発推進のため、新薬に関して、その研究開発をサポートするCDMO育成を進めています。ですが一般的にCDMOは、国内市場だけでは採算が取れず、世界の規制に対応できる体制が不可欠です。しかし海外規制に精通した人材は少なく、英語力も課題です。
この分野では、日本がインドから学ぶべきことが多いと感じます。
インドはその現実を理解したうえで、表向きは「規制協力」を求めつつ、実際には 日本からの投資を引き出すこと を戦略的に狙っています。
日本側
インド側
この温度差は、両国の産業構造や政策優先順位の違いを反映しています。
日本は医薬品産業を「医療制度の一部」として扱いますが、 インドは医薬品産業を 輸出産業・戦略産業・雇用創出産業 として扱っています。
そのため、インド側の発表は非常に具体的で、 「日本から投資を呼び込みたい」という強い意図が読み取れます。
今回の医薬品協力覚書から読み取れる、インドが日本に求める役割は次の3つです。
日本側の発表では見えにくいですが、インド側の発表は非常に戦略的で、医薬品協力を経済安全保障の中心に据えています。
この温度差を理解することで、日印協力の本質がより立体的に見えてくるはずです。
最後に、今回の覚書で示された協力体制は、日本からインドへ投資が流れる仕組みを整えるだけでは十分ではありません。日本が資金と技術を投じる以上、その投資が確実に成果につながるよう、インド側にも覚書で合意した内容を責任を持って履行してもらう必要があります。
日本がどのように協力を引き出し、インドに約束を確実に実行してもらえる体制を築けるか。そして、そのための信頼関係をどう構築していくか。この点こそが、今後の日本の医薬品産業の競争力を左右する重要な鍵になるでしょう。
この記事をシェアする
ホーム>政党・政治家>きど かおり (キド カオリ)>【ブログ】インドが求める日本の役割とは?医薬品協力の最新合意