2026/5/17

今日は、アメリカで進む薬価制度の大きな転換点ー最恵国待遇(MFN)薬価とGENEROUSモデル、そしてそれが日本の薬価政策にどんな影響を与えるのかについて整理します。
これは単なる海外ニュースではなく、「日本で新薬が手に入るかどうか」に直結する、とても重要なテーマです。
Most Favored Nation(最恵国待遇)と聞くと貿易の話のようですが、ここでの“最恵国”とはアメリカ自身のこと。つまり 「アメリカは他国より高い薬価は払わない」 という考え方です。
仕組みはシンプルで、
• アメリカが参照する複数の国の薬価のうち
• 最も低い価格に合わせる というもの。
つまり、米国の薬価を“国際最低水準”にリンクさせる政策です。
アメリカの薬価は主要国の中でも突出して高く、国民負担も大きい。薬価引き下げは長年の政治課題です。アメリカの薬価は日本や欧州のように政府が一律に決める仕組みではなく、一つの薬に複数の価格が存在します。その中で今回対象となっているのは、メディケア・メディケイドが支払う“ネット価格”です。
2020年にトランプ政権が導入を試みたものの訴訟で停止。しかし2026年4月、ホワイトハウスの公式ファクトシート(4月23日付)では、Regeneron社がMFN価格の導入に合意した17番目の企業となったことが明記され、以下の企業が名を連ねています。
Pfizer / AstraZeneca / EMD Serono / Eli Lilly / Novo Nordisk / Amgen / Bristol Myers Squibb / Boehringer Ingelheim / Genentech / Gilead / GSK / Merck / Novartis / Sanofi / Johnson & Johnson / AbbVie
アメリカの製薬市場の大部分がMFNに応じ始めたということです。
2025年、CMS(メディケア・メディケイドサービスセンター)はGENEROUSモデルという新たな薬価モデルを導入しました。GENEROUSは略語ではなく、「寛大な」という意味の英単語をそのままモデル名に使っています。
• 他国の公定薬価を参照し
• アメリカの薬価に追加リベート(割戻金)を課す というもの。方向性としてはMFNとほぼ同じです。
ここでいうリベートとは、製薬企業が保険者に支払う実質的なディスカウントのこと。GENEROUSでは、各州のメディケア・メディケイドが製薬企業から追加リベートを受け取る形になります。
そして重要なのが、GENEROUSモデルの参照国に日本が含まれていること。
参照国は以下の8カ国:
英国 / フランス / ドイツ / イタリア / カナダ / 日本 / デンマーク / スイス です。
この中で日本の薬価はほぼ最安値に近いです。つまり、日本の薬価が低いほど、アメリカの薬価も下がるという構造が生まれています。
参考までに以下、The Peterson Center on Healthcare and KFFのHow Medicare negotiated drug prices compare to other countries のリンクより引用。

日本の薬価は政策的に低く抑えられています。
• 国民皆保険を維持するため
• 薬価改定・費用対効果評価(HTA)
• 円安による国際比較での割安化
• 市場拡大再算定(※2025年に廃止決定)
特に円安が続くと、国際比較で日本の薬価はさらに低く見えます。
国民民主党は「特許期間中の薬価を維持すべき」と提案しています。研究開発を支えるという意味では理解できますが、私はここに少し違和感があります。
日本の制度は、
• 特許期間中でも薬価が下がる一方で
• 特許切れ後も薬価が一定程度維持される という特徴があります。
アメリカでは特許が切れた瞬間にジェネリックが参入し、価格が一気に10分の1以下になることも珍しくありません。しかし日本では、特許切れ後も「長期収載品」として価格が段階的にしか下がりません。
つまり製薬企業にとっては、
• 特許期間中に薬価が下がるデメリット
• 特許切れ後も価格が維持されるメリット が同時に存在する制度です。
特許期間中の薬価だけを議論すると、制度全体を見誤る可能性があります。
① 日本の薬価が「国際最低水準」として参照される
GENEROUSモデルに日本が含まれたことで、日本の薬価がアメリカの薬価を引き下げる基準値になってしまうという問題が生じています。
② 欧米企業が日本で薬を上市しにくくなる
企業にとっては、「日本で安く売ると、アメリカでも安く売らなければならない」という構造が生まれます。実際、日米欧の製薬団体は日本政府に対し、薬価引き上げを求める公式声明を出しています。
③ 新薬アクセスの遅れ・ドラッグロスのリスク
特に、
• 効果が高い
• 売上が大きい
薬ほど、日本での上市が遅れる可能性が高まります。
市場拡大再算定の影響もあり、ドラッグロスが現実味を帯びています。
日本には「条件付き早期承認制度」があり、諸外国では承認されにくいケースでも承認されやすい仕組みがあります。
最近では、
• サンバイオ「アクーゴ」:約7,271万円
• 住友ファーマ「アムシェプリ」:5,500万円 といった高額薬価が提示されています。
つまり、再生医療には甘く、従来型医薬品には厳しいというアンバランスな状況です。この構造は、国際的な薬価参照の中で日本の立場を弱くしていると感じます。
• 再生医療の高額薬価は甘く認める
• 従来薬は市場拡大再算定で厳しく下げる
その結果、
• 保険財政は悪化
• 新薬アクセスは悪化
• 日本市場の魅力も低下
「安く抑える」だけでは制度は持続しません。
① 国際薬価の中での日本の位置づけを再定義する
日本の薬価が“国際参照の底”になっている現状を変える必要があります。
② 再生医療の承認制度を国際標準に近づける
甘い承認 → 高額薬価 → 財政悪化 この流れを止めなければ制度全体が崩れます。
③ 新薬アクセスを守るための制度調整
MFN・GENEROUSの影響を踏まえ、薬価制度全体の見直しが不可欠です。
• 日本の薬価が低すぎることが国際的に問題化している
• 再生医療だけ甘い制度は持続不可能
• 新薬アクセスを守るには薬価制度の抜本的見直しが必要
• そして薬価制度だけでなく、社会保障制度全体の再設計が求められています
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ホーム>政党・政治家>きど かおり (キド カオリ)>【ブログ】米国の最恵国待遇薬価(MFN)と日本の薬価政策、そしてGENEROUSモデルとは