2026/7/30
先の国会で成立した副首都法について、前回に続いて国会審議の内容を整理します。
この法律の大きな特徴は、副首都の具体的な中身が、成立時点ではほとんど決まっていないことです。
副首都が担う機能、必要な都市基盤、組織や実施体制、経済基盤、首都中枢機能代替地域の役割に加え、財政規模、財源、費用対効果、整備の優先順位も、法律には具体的に示されず、多くの事項は、今後策定される基本方針や政令などに委ねられています。
つまり、法律の空白部分を、これから行政が埋めていく構造です。副首都が実際にどのような制度になるのかを判断するには、地方自治体や大阪市選挙管理委員会を含め、今後の行政の動きを継続的に確認しなければなりません。
また、副首都の指定には、関係市町村の同意が法律上の要件とされておらず、国や大阪府が進めるインフラ整備や都市計画によって、八尾市を含む指定候補区域内の市町村に、直接または間接の財政負担が生じる可能性もあります。副首都法は国政だけの問題ではなく、大阪の地方自治体や各地方議会にとっても、極めて重要な法律です。
そこで今回は、今後の行政の動きをチェックする要点として、国民民主党の山田吉彦議員と足立康史議員が、国会審議で提起した主な法案の論点を紹介します。

山田吉彦議員は、地方制度の観点ではなく、国家存立、安全保障、災害科学の立場から副首都法を検証しました。
山田議員は、南海トラフ地震や津波などのリスクを抱える大都市に巨額の国費を投入し、一つの副首都を整備する方法が、本当に最適なのかと問いかけました。代替策として、災害リスクが低い複数の地域へ、次のような機能を分散配置する案を提起しました。
これは、「東京に代わる巨大都市を一つ整備する考え方」と、「機能ごとに全国へ分散する考え方」のどちらが、より強靱な国家BCPになるのかという議論です。
巨大な副首都を一つ整備すれば、その都市自体が新たな単一障害点となるリスクも生まれます。
法律には一応、「首都中枢機能代替地域」という分散型の仕組みも盛り込まれていますが、政治的には副首都の指定が中心となっており、機能分散との優先順位は明確ではありません。

山田議員が特に強く追及したのが、災害時における皇室と天皇のあり方です。
大規模災害が発生した場合には、天皇・皇族の方々の安全確保や避難先だけでなく、国家の継続に直結する様々な問題が生じます。
しかし、法案提出者の与党議員は「非常に重要な問題」としながらも、「法律成立後に宮内庁で議論する」との趣旨の答弁。
これに対し、山田議員は「成立後ですか。あり得ない。」と強く反発されました。
法律は「国家社会機能の継続」を掲げ、国会と裁判所については附則に検討規定を設けている一方、皇室については独立した規定がありません。
法案提出者・与党議員は、宮内庁が行政機関であるため、皇室や天皇は行政機能のバックアップに含まれると説明しました。しかし、宮内庁の事務を継続することと、皇室そのものの危機対応を設計することは別問題です。
国家継続の核心に関わる事項を、「法律成立後の検討に委ねる」で本当に良いのでしょうか?

首都は、国内統治の拠点であると同時に、外交の窓口でもあります。
大規模災害等で東京が機能しなくなった場合には、次の機能をどのように維持するのかを決めておく必要があります。
法案提出者側は、「外務省や外資系企業も首都中枢機能に含まれる」と説明しました。しかし、具体的な業務の範囲や対応方針は、成立後に策定する基本方針で検討するとしています。
外務省も、駐日外交団への情報提供や機能維持について、「今後の基本方針の中で検討する」との説明にとどまりました。
皇室と同じく、外交機能についても、「成立後に検討」という答弁が繰り返される結果となりました。

副首都が国の行政中枢、国会、司法、データ、通信、経済中枢、指揮命令系統を担えば、敵国から見て重要な攻撃対象になる可能性があります。
山田議員は、防衛三文書、自衛隊の指揮系統、サイバー防御、ミサイル防衛、重要施設の防護、防衛費への影響を質問しましたが、防衛省側の答弁は、「議員立法について政府から答えることは差し控える」あとの趣旨にとどまりました。
この法律は、基本的に自然災害を念頭に置いています。しかし、国家中枢機能の代替拠点を整備する以上、
といった事態・事象も考慮しなければなりません。
自然災害への備えだけでは、本当の意味での国家継続計画にはなりません。

山田議員の質疑は、首都機能とは建物やデータを移せば済むものではないことを明らかにしました。
皇室、外交、安全保障、国際通信、国民統合、指揮命令権限まで設計して、初めて国家BCPと呼べます。これらの核心部分が「成立後に検討」とされている点を示したことで、山田議員の質疑は、副首都法が掲げる「国家社会機能の継続」という看板そのものを問い直すものとなりました。

足立康史議員の質疑は、法案を単に「大阪ありき」と批判するものではありませんでした。足立議員は、元・維新の国会議員として、大阪都構想や大都市制度の形成過程を知り、経済産業省出身者として立法や行政の実務にも精通しています。その観点から、
等、本質的な問いを投げかけました。
足立議員が明らかにしたのは、個々の条文の不備だけにはとどまらず、「全国制度として重要な部分は抽象的なままである一方、大阪都構想への接続部分だけが具体化されている」という、副首都法案全体の非対称性です。

足立議員は、東京都に対して「首都であること」だけを理由とした、包括的な財政支援制度が存在するのかを確認しました。ここで、首都に対し、名称や地位そのものを理由とした一般的な支援制度が無いという官僚答弁を確認。
一方、副首都法第19条では、副首都に対して次のような施策を講じるとしています。
災害時のバックアップ施設を国が整備することには、一定の合理性がありますが、産業競争力の強化や都市開発まで一体化すれば、副首都指定が国家BCP観点での拠点指定を超え、単なる「大規模な地域振興制度」と化す能性があります。
足立議員が問うたのは、「大阪に国費を使うな」ということではありません。首都機能の代替に必要な費用と、指定都市を成長させるための地域振興費用を、なぜ同じ副首都指定によって一体的に正当化するのか、という問題です。

足立議員は質疑のなかで、「制度」と「名称」を混同すべきではないと繰り返し指摘しました。
2012年に成立した大都市地域特別区設置法は、指定都市等を廃止し、特別区を設置する手続を定めた法律です。しかし、この法律は、特別区を設置した道府県について、名称を「都」に変更しなければならない、とは定めていません。「府」の名称のままでも特別区を包括できる規定です。
よって、2015年または2020年の住民投票で大阪都構想が可決されていたとしても、法律上は「大阪府」の名称のまま、「特別区を包括する道府県になる」ことが可能でした。
しかし今回の副首都法では突然、特別区を包括し、かつ副首都に指定された道府県が、名称を「都」に変更できる特例が追加されました。
特別区制度を導入することと、「都」という名称を名乗ることの間に、機能上または法律上の必然性がないのであれば、名称変更は副首都法とは別に議論すべきではないか?これが足立議員の指摘です。

足立議員は、大阪府が歴史的、政治的な希望から「大阪都」を名乗れるのであれば、福岡県が「福岡府」を名乗りたいと求めた場合に、なぜ認めないのかを鋭く問いました。
都・道・府・県の名称に機能的な違いがなく、多くが歴史的な沿革に由来するのであれば、なぜ大阪都だけを副首都法で特例扱いできるのか、これを試す論理的な反証です。
提出者側の維新・岩谷議員は、
「都」には特別区制度との関係がある一方、「府」と「県」には地方自治法上の制度的な違いがないため、福岡府を認める理由はない。
と説明しました。
しかし、2012年の大都市法は、特別区制度を採用しても名称を変更する必要はない規定となっており、今回の副首都法案で、なぜ特別区を包括する副首都だけが「都」に名称を変更できる規定が突然現れたのかについて、合理的説明・答弁は示されず終いでした。

副首都の指定要件の一つである「必要な地方行政体制」は、法律本文で具体化されず、政令に委ねられています。
法案提出者側は、想定される地方行政体制として、次のような制度を挙げました。
本文だけを見れば、多様な制度を選択できるように見えますが、法律の附則第7条では、特別区制度を定める大都市法だけが改正され、特別区を包括する副首都を「都」に変更する規定が具体的に設けられています。
本文では地方行政体制を政令に委ねているにもかかわらず、附則では特別区制度だけが先取りされている、足立議員は、この構造を「大都市法隠し」であり、隠しているはずなのに附則から「お尻が出ている」と表現しました。
特別区制度を副首都指定の要件として想定するのであれば、本文に正面から書くべきである一方、政令で多様な制度を選べる仕組みにするのであれば、附則で特別区制度だけを先取りする理由はありません。
この指摘は、単なる条文の不備ではなく、極めて政治的な法案の設計意図に関わるものです。

副首都法の副首都指定の流れを整理すると、次のようになります。
この仕組みでは、副首都が担う具体的な機能、必要な施設、国と地方の役割分担、財政規模、全国的な配置方針が基本方針で固まる前でも、副首都の指定と名称変更の手続を進められます。
足立議員は、まず基本方針を策定して全国的なリスクと機能配置を決め、その後に候補地を比較して指定するのが、通常の政策形成の流れではないかと指摘しました。
法案提出者側は、要件を満たす地域は限られており、早期の指定が必要だと説明しましたが、指定要件自体がまだ政令で定められていないのにどうして要件を満たす地域を限定し得るのか。
制度の中身を決める前に、指定と名称変更の入口だけを用意するという、政策形成の順序の逆転が問われました。

足立議員と国民民主党が今国会にて提案した重要な対案が、特別市制度です。特別市とは、指定都市を道府県から独立させ、現在は道府県と指定都市に分かれている、広域行政と基礎自治行政の権限を、一つの自治体に集約する制度です。
大阪都構想が、大阪市を廃止して複数の特別区に再編する制度であるのに対し、特別市は大阪市を残し、府から独立させて権限を強化する制度です。
国の諮問機関である第34次地方制度調査会でも特別市制度は検討対象となっており、国民民主党は、副首都法案への対案として次の法案を提出していました。
足立議員は、地方行政体制を政令に委ねるのであれば、特別区制度、府市一体条例、特別市制度を公平な選択肢として扱うべきだと主張しました。
少なくとも、特別市制度の整備について、国の地方制度調査会でも検討の俎上に乗っている以上、検討する附則の規定:検討条項を設けることは可能です。
しかし、法案提出者側は、特別市の明記にも検討条項の追加にも応じませんでした。
副首都が全国制度を謳うのであれば、政治的に大阪で採用する制度だけを優先せず、横浜市や神戸市など、他の大都市が求める制度も同じ条件で扱うべきであり、公平性の欠如が問題視されます。

山田議員の質疑に続き、足立議員も、皇室が法律上の「首都中枢機能」に含まれるのかを確認されました。
法案提出者側は当初、首都中枢機能を「立法、行政、司法、経済の中枢機能」と説明しました。
足立議員が、それでは皇室は含まれないのかと問い直すと、宮内庁が行政に含まれるため、その意味では皇室も含まれるとの趣旨の答弁がありましたが、皇室は立法、行政、司法の三権の一部:内数ではありません。
最終的に法案提出者側は、「皇室は三権には含まれないが、首都中枢機能には含まれる」と訂正・答弁しました。
ただし、宮内庁の行政事務を継続することと、天皇・皇族の安全確保、避難先、国事行為、国民統合の象徴としての機能、および皇室関連施設の代替を設計することは別の課題です。
副首都法には国会と裁判所については附則第4条で別途検討することが明記されています。それにもかかわらず、皇室には独立した規定が無い。国家継続の核心であるなら、少なくとも検討主体と手続は法律に書いておくべきです。

足立議員は、関西広域連合が以前から首都機能のバックアップを検討し、京都を含む関西全体で機能を担う構想を示してきたことにも言及しました。
関西全体で首都機能を支えるのであれば、次のような役割分担が考えられます。
法律には、副首都と、その区域を含む圏域内の地方公共団体との連携規定が一応はあります。しかし、関西広域連合の役割・位置づけや、関西全体での具体的な機能分担は、制度設計に反映されていません。
単一の道府県を副首都に指定する仕組みと、関西全体で機能を分担する構想との間には、大きな隔たりがあります。国家全体の安全保障として副首都を整備するのであれば、大阪府だけではなく、関西全体で支える視点が必要です。

足立議員は、大阪都構想の住民投票と大阪府知事選などを同時に実施する問題について、憲法改正国民投票法の議論を引用し、議論を行いました。
住民投票は、将来の統治制度を選ぶものである一方、選挙は、人物や政党を選ぶ投票であり、両者を同時に実施すると、次のような問題が生じる可能性があります。
制度選択と人物選択を混在させないという立法上の考え方は、大阪都構想の住民投票でも尊重されるべきです。

参院審議終盤、足立議員は、法案審議のなかで法案提出者である与党・特に維新議員からまともな答弁が全く得られていない事項として、
等を挙げ、書面での回答を求め、十分な回答が示されないまま採決へ進むことに強く反対されました。
また、参考人質疑では、専門家から「制度と地方自治体の名称は別問題である」との見解もはっきりと示されましたが、与党議員側は従来の説明を繰り返すのみで、修正協議にも応じませんでした。
専門家である参考人の意見を踏まえて答弁を修正せず、法案の修正にも応じないのであれば、何のための国会審議だったのかという疑問が残ります。

足立議員の質疑の価値は、維新の政治的動機を批判したことに留まらず、条文と制度の沿革を照合し、法文の次のような不均衡を明らかにした点にあります。
副首都法は、法文だけを読めば一見、全国の道府県に開かれた一般的な制度に見えます。
しかし、国家BCPの核心部分は将来の検討や行政立法に白紙委任されている一方で、特別区制度と「都」への名称変更だけは、法律で具体的に用意されています。
法案が全国制度であると豪語するのであれば、なぜ大阪都構想に必要な規定だけが具体化され、他の大都市制度や国家継続に不可欠な事項は将来検討に回されたのか?という問いに対して、法案提出者・与党議員側が十分な説明を示したとは言い難い議論の経過でした。
副首都法の条文構造を一言で表すなら、
「中身は後で決める。しかし、大阪都への出口だけは先に作る。」というものです。
山田議員と足立議員の質疑は、この法律の空白と不均衡を、それぞれ国家継続と制度設計の両面から明らかにするものとなりました。
今回のような法律や地方行政、身近なテーマに関する議論の紹介、大阪府政、地方自治の仕組みについて、YouTubeでも解説しています。
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