2026/7/28
2026年7月24日、首都機能のバックアップと副首都の整備を進める「副首都法」が成立しました。
首都直下地震などによって東京圏の機能が停止した場合に備え、国家機能を代替できる地域を整備すること自体は、重要な課題です。一方で、今回の国会審議では、成立した法律の中身や手続、財政負担、地方自治との関係について、多くの問題が指摘されました。
国会で問われたのは、単なる大阪都構想への賛否ではありません。
首都機能のバックアップという国家的な課題を、本当にこの法律で担えるのか。それとも、災害対策を掲げながら、大阪都構想や大阪への国費投入、場合によっては大阪の自治体財政負担までを先行させる仕組みになっていないか。
本稿ではまず、成立した副首都法の概要と、中道改革連合の伊佐進一議員、立憲民主党の鬼木誠議員が国会審議で示した主な論点を整理します。

法律の正式名称は、「国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律」です。
2026年6月24日に、自民党や日本維新の会などが議員立法として提出しました。その後、7月15日に衆議院で修正可決され、7月22日に参議院特別委員会で審議入りし、7月24日に参議院本会議で成立しました。
最終採決は、賛成123票、反対121票のわずか2票差でした。立憲民主党、国民民主党、公明党、参政党、共産党、れいわ新選組、日本保守党などが反対し、自民党、日本維新の会、チームみらい、一部の無所属議員などが賛成しました。
法律上の「副首都」は、単なる第二の都市ではありません。
東京圏で首都中枢機能を維持できなくなった場合に、一定期間、政治、行政、司法、経済などの中枢機能の全部または大部分を代替するとともに、多極分散型経済圏の中核となる道府県と定義されています。
この法律には、国家危機管理だけでなく、東京一極集中の是正、地方経済の成長、産業競争力の強化、都市インフラの整備、国の機関の移転や拠点整備など、複数の目的が盛り込まれています。
副首都の指定は、道府県からの申出を受け、内閣総理大臣が行います。申出には道府県議会の議決が必要ですが、関係市町村の同意や住民投票は、法律上の指定要件ではありません。
指定基準として法律に書かれているのは、主に次の事項です。
ただし、具体的な数値や内容は、今後定める政令に委ねられています。
副首都に指定された地域について、国は、国の機関等の拠点整備、交通施設の整備、まちづくり、規制緩和、財政・税制上の措置、民間投資の促進などを進めることになります。
一方で、財政規模、財源、費用対効果、整備の優先順位は、法律上ほとんど示されていません。

この法律の最大の特徴は、副首都が具体的に何を担うのかが、成立時点では決まっていないことです。
政府は、法律の施行後1年以内に基本方針を策定し、そこで次の事項を定めるとしています。
さらに国会答弁では、基本方針が完成する前でも、道府県が要件を満たせば、副首都の指定は可能であると説明されました。
料理に例えるなら、献立も材料も値段も決まっていない段階で、先に「この店を国営レストランに指定します」と決めるような構造です。
法律の大枠だけを先に成立させ、その空白部分を、今後、政府が基本方針や政令によって埋めていくことになります。

伊佐進一議員の質疑は、この法律の立法過程と手続の順序を正面から問い直すものでした。
伊佐議員は、首都機能のバックアップや東京一極集中の是正が必要であること自体は認めています。
そのうえで、国家の統治機能に関わる制度や、国会、行政、司法、経済の機能をどのように代替するのかという問題を、限られた審議時間の中で議員立法として成立させることに疑問を呈しました。
1992年の国会等移転法では、法律制定後、専門家による調査や候補地の評価、国会の特別委員会での再審議が重ねられました。
これに対し、今回の法律では、専門的な検討の多くが、法律成立後の政府の作業に委ねられています。
伊佐議員は、成立後に政府や専門家が中身を検討するのであれば、最初から政府が責任を持ち、閣法として提出すべきではなかったかと指摘しました。

法律では、首都中枢機能を「政治、行政、司法及び経済に関する機能その他の国家及び社会の重要な機能」としています。
しかし、これだけでは、実際に何を代替するのかが分かりません。
伊佐議員は、次の点を具体的に問いただしました。
「政治、行政、司法、経済」と抽象的に書くだけでは、実際に首都機能を代替できるかどうかを評価できません。
法律に抽象的な言葉を使うこと自体が問題なのではありません。しかし、首都機能のバックアップを目的とする法律でありながら、何をバックアップするのかが成立時点で明確になっていない点は、政策立法として大きな弱点です。
副首都は、災害時に国家統治機能を代替する存在です。
ところが、制度上は、道府県が申出を行い、道府県議会が議決し、内閣総理大臣が指定する仕組みになっています。
伊佐議員は、国会や政府が全国的な災害リスクを分析し、最適な地域を選ぶのではなく、「副首都になりたい自治体」が申請する仕組みは適切なのかと疑問を示しました。
たとえ災害リスクが低く、バックアップ拠点として適していても、その自治体が申請しなければ副首都にはなりません。
一方で、政治的・経済的な利益を求めて積極的に手を挙げる自治体が、指定競争を主導する可能性もあります。
その結果、国家BCPというよりも、大型地域開発の誘致制度に近づくおそれがあります。
伊佐議員が特に鋭く追及したのが、基本方針と副首都指定の順序です。
法律では、施行後1年以内に基本方針を策定するとしています。一方、法案提出者側は、道府県から申出があり、要件を満たせば速やかに指定すると答弁しました。
つまり、次のような順序になっています。
法案提出者側は、「候補地域はある程度限られる」と答えました。
これに対し、伊佐議員は、人口要件や経済要件も政令で決まっていない段階で、なぜ候補地域が限られると言えるのかと反論しました。
法文上は全国を対象とする制度でありながら、政治的には最初から候補地域が想定されているのではないか。この疑問が、「大阪ありき」との指摘につながっています。
伊佐議員の質疑は、この問題を「反大阪」や「反副首都」という政治的な対立ではなく、立法手続と行政計画の順序の問題として整理した点に意義があります。
この法律は、国家統治の具体像を定める法律というよりも、国家統治のあり方を後から検討するための枠組みになっているとも言えます。

鬼木誠議員は、大阪都構想との関係、名称変更、指定基準、財政、市町村の同意、住民投票の公平性、南海トラフ地震への対応など、幅広い観点から法律の問題点を追及しました。
法律の附則第7条は、大都市地域特別区設置法を改正するものです。
特別区を包括する道府県であり、かつ、副首都に指定された道府県については、道府県議会の議決に基づく申請を受け、内閣が国会の承認を経て、名称を「都」に変更できる制度が設けられました。
一方、国会答弁では、次の点が確認されています。
そうであれば、なぜ首都機能のバックアップを目的とする法律に、名称変更の規定を入れる必要があるのでしょうか。
災害時の国家機能の継続と、自治体の名称を「府」から「都」に変えることには、直接的な機能上の関係はありません。
鬼木議員は、この附則を、法案の本体とは直接関係のない大阪都構想のための規定と位置付けました。
この点は、法律が「大阪ありき」と評価される大きな理由の一つです。

鬼木議員は、過去2回行われた大阪都構想の住民投票を踏まえ、現行制度の問題点も指摘しました。
具体的には、住民投票運動に関する資金の報告や公開、行政による情報提供の中立性、特別区設置後の財政効果や住民負担の可視化などです。
ところが、今回の法改正では、こうした民主的手続の改善には手が付けられず、「都」という名称を名乗るための規定だけが追加されました。
鬼木議員は、本来改めるべき制度上の問題を残したまま、政治的に必要な部分だけを改正していると批判しました。
地方選挙の期間中は、公職選挙法によって、政党や政治団体の活動に一定の制約がかかります。
大阪都構想の住民投票と、大阪府知事選、大阪市長選、大阪府議選、大阪市議選などが重なった場合、候補者を立てる政党と、候補者を立てない政治団体との間で、発信や運動の条件に差が生じる可能性があります。
選挙では、人物や政党を選びます。一方、住民投票では、将来の統治制度を選びます。
両者を同時に実施すれば、候補者の人気や政党支持、選挙運動が住民投票に流れ込み、制度についての議論が選挙に吸収されかねません。
鬼木議員は、同日実施を認めるのであれば、国民投票法のように、住民投票運動の自由を保障する制度が必要ではないかと迫りました。しかし、法案提出者側から具体的な制度保障は示されませんでした。

副首都には、国の機関、交通、通信、都市開発、データ基盤などの整備が想定されています。
しかし、法案提出者側が示した費用の目安は、過去の災害対策本部の事例を参考にした「数十億円から数百億円程度」という幅の広いものでした。
しかも、この金額には、交通網、通信網、都市基盤、国の機関の全面的なバックアップなど、事業全体の費用が含まれているわけではありません。
数十億円と数百億円では、行政事業としての規模が大きく異なります。
さらに、国費で負担するのか、地方負担が生じるのか、交付税措置や補助金によるのか、他の自治体向けの財源に影響するのか、民間投資をどこまで見込むのかも決まっていません。
鬼木議員の指摘は、単に費用が高いから反対するというものではありません。
財源、事業費、費用対効果を示さないまま、「財政上の措置を講ずる」とだけ法律に書くことは、国会による財政統制として不十分ではないかという問題提起です。
法律上、副首都指定を申し出る主体は道府県です。
道府県議会の議決は必要ですが、関係市町村の同意は必要ありません。
法案提出者側は、市町村の意向は道府県議会を通じて一定程度反映されると説明しました。一方で、市町村の反対は、副首都指定の法的な拒否要件にはなりません。
副首都の指定により、交通投資、国の機関、大型開発、人口、企業、税財源が特定の地域に集中すれば、同じ道府県内でも地域間格差が広がる可能性があります。
市町村の事務、都市計画、土地利用、インフラ負担に大きな影響を及ぼすにもかかわらず、市町村の同意を制度化していない点は、地方自治の観点から重要な問題です。
法律は、東京圏と同時に被災する可能性が低い地域を、副首都の要件の一つとしています。特定の災害だけを対象としているわけではありません。
しかし、法案の説明では、首都直下地震と富士山噴火が強く前面に出されました。
一方で、大阪や関西が直面する南海トラフ地震、津波、長周期地震動、広域停電、海底ケーブル障害などについては、十分な評価が示されませんでした。
鬼木議員は、災害対策を理由に大阪を念頭に置くのであれば、まず南海トラフ地震を含めた全国的なリスク評価を行うべきだと指摘しました。
最終的な附帯決議には、「首都直下地震のみならず、南海トラフ地震等に幅広く備える」と明記されました。
これは、鬼木議員らが示した問題を、法案提出者側も無視できなかったことを示しています。
鬼木議員の質疑では、法律に残された空白が一つずつ示されました。
指定基準、費用、財源、市町村の同意、住民投票の公平性を保障する仕組みは、十分に整っていません。一方で、「大阪都」への名称変更規定は、法律の附則に具体的に盛り込まれています。
こうした不均衡が、国会審議で大きな争点となりました。
最終的な附帯決議を見ると、鬼木議員らが指摘した問題の多くについて、政府が法律成立後に対応することが求められています。
つまり、副首都法は成立しましたが、制度の具体的な中身は、これから政府が定める基本方針、政令、予算、整備計画によって形作られていきます。
今回は、副首都法をめぐる国会審議の第一弾として、伊佐進一議員と鬼木誠議員の質疑を取り上げました。ここまででも、この法律が「首都機能バックアップ」という理念に対して、制度設計が追い付いていないことは十分に見えてきたと思います。
しかし、国会審議では、さらに踏み込んだ論点も示されています。
次回は、国民民主党の山田吉彦議員と足立康史議員の質疑をご紹介して論点を整理する予定です。
皇室、外交、安全保障を災害時にどう継続するのか。なぜ特別区制度と「都」への名称変更だけが法律に書き込まれ、特別市という別の大都市制度は排除されたのか。大阪都構想の住民投票と地方選挙を同日に行うことに、どのような問題があるのか。
副首都法の「空白」と、大阪都構想への接続が、さらに具体的に浮かび上がる内容です。
今回のような法律や地方行政、身近なテーマに関する議論の紹介、大阪府政、地方自治の仕組みについて、YouTubeでも解説しています。
統計データや公的資料、法律・条例・行政運用など、議会活動の現場で得た視点をもとに、できるだけ分かりやすく発信していきます。
是非チャンネル登録のうえ、ご覧下さい。
▶ YouTubeチャンネルはこちら
https://www.youtube.com/@ina_policy
この記事をシェアする
ホーム>政党・政治家>稲森 洋樹 (イナモリ ヒロキ)>副首都法の国会審議を総括――理念はまぁ良い。しかし、法律は「中身を後で決める巨大な空箱」